258.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 10
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和やかなお茶会は続いていた。
クッキーの感想会を終え、ゾーイさんが持ち込んだ『パウンドケーキ』も行き渡った。
無論俺が配るのだが、従者、というか有能執事コスプレの俺は一言添えるのを忘れない。
「『パウンドケーキ』、王都の最新のトレンドですね。
こちらはゾーイ様から提供いただきました。エルフの皆様から王都全体に広まりつつある、砂糖を多めに使った新たな茶菓子となります」
事実はちょっと違うのだが、俺達が悪目立ちしすぎないようにそういうことになっている。
配膳しながらも、お茶の減り具合を確認する。パウンドケーキもお茶が進むだろう。新たに用意しなくては。
「ゾーイ様のご実家では領地をあげて野菜を育て、ヤラ様とウィロー様の二つの領地を跨いだ紡績業を営まれていますね」
「「「……え?」」」
3人から一歩引かれてしまった。どうしたのだろうか、軽く調べればすぐに分かることなのだが…。
「そして、『若葉組』にて日々教えを受ける私達。どれもが、元を辿ればエルフからもたらされた知識なれど、それを各自が生かし今日に至る。まさにこの学園の学徒を象徴するような茶菓子かと。おみそれしました、ゾーイ様」
「ま、まぁ、そういうことですわ…」
違ったか。
その後、『若葉組』の話題が出たところで、ナデシコが軽く『若葉組』での授業内容を話す流れになった。無論、俺達の事情や、妹分達、先生方のプライベートな話を避けて、にはなるが。
俺達は間もなく、王都から旅立つ。
その前に、誤解されがちな『若葉組』の実体を触りだけでも話す事は、妹分達の今後の助けになるかもしれないしな。
「…入学直後いきなり、4月から居た3人と模擬戦を!?しかも、あのイザベラさんやライリーさん達に勝った!?」
「えぇ、なんとか。メグには一歩及びませんでしたが…」
ヤラさんのツッコミによれば、模擬戦は一般的でなかったみたいだな。次にいこう。
「ま、魔物との戦闘を教師抜きで!?しかも、上位種の魔物との戦闘の場に同行!?」
「たった数体ですよ?同行、といっても見学でしたし…」
ウィローさんによれば、学園生徒が魔物との戦闘実習を行う際には通常は教師が同行するらしい。次。
「わ、ワタクシの耳がおかしくなったのかしら……あの学園長、『緑のユディット様』との模擬戦に勝利、したと?しかも、先の演習場で立ち上った竜巻は、その戦闘が原因…?」
「部分的にはその通り…ですね」
終わりだな。
どうやら俺達のやったことは、話についた尾ひれを取り除くどころか、影だけ見てその大きさを想像していた人々に、具体的な大きさを伝えることになったようだ。しかも、予想を上回る数字を。
お茶会の席で良かった。飲み込めない話でも、一旦、お茶で気分を落ち着かせる事が出来る。
「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね」
「ええ、そうですね…」
「まったく…」
「その通りで…」
にこやかなナデシコと消耗してしまった3人の対比は、少し同情心を誘う。
それでも、なんとか気を持ち直したように、ゾーイさん達が姿勢を正した。
「お話しできて本当に嬉しかったわ」
「美味しいお茶とお菓子をごちそうさまでした」
「…素敵なおもてなしを、ありがとうございましたわ、ナデシコ様。…それから、ヤマト様にも大変お世話になりました」
そこには、一朝一夕で身に付かない気品があった。矜持とプライド、それはまるで杖のように彼女らを支えるのだろう。
お茶会の締めとしては、これ以上ない挨拶だった。
「……うん、いいわね。そういうの大好きよ。表面上の付き合いで終わらせるのはもったいないくらい。でしょ?」
「ああ、そうだな」
「「「!?」」」
何度も驚かせて申し訳ない。わざとではないのだ。
「悪いわね。こっちが本性…というと、語弊があるわね…」
「本音とかでいいんじゃないか?もしくは、普段通りとか平常運転」
俺の分の椅子を持って、ナデシコの隣に座る。手袋を外し、首元のタイを緩める。
なぜか、胸元に視線が来たが、自意識過剰だろう。気にしないことにした。
「ねぇ、ゾーイさん、ヤラさんとウィローさんも、どうする?私達、無礼を働いてるけど?」
「一応言っとくと、ちょっぴり言葉も態度も飾ってたけど、嘘は言わなかったぜ?」
ここで、俺達の無礼を理由に席を立って回れ右をされれば、それまでだ。ただ、俺達の目利きが正しければ…
「う、受けて立ちますわ!」
「ちょ、ゾーイ…?」
「控えめに言っても、何を考えてるか分からないわよ?」
やっぱり面白い反応が返ってきた。期待以上に。俺達の口角が上がれば、3人は身構えた。
「そう身構えなさんな、お嬢さんがた。なにも取って食おうってわけじゃないんだ」
「そうそう、本音で話す理由なんて一つ…」
「「お友達になろうぜ?」」
俺もナデシコも気に入った物には手を伸ばしたくなる性分だ。




