257.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 9
ナデシコは聞き手としても一流であった。
話中は静かに話を聞き、反応の欲しいところで相づちが入り、話題の区切りでは簡易的な質問を行う。
最初こそゾーイが主に話していたが、ナデシコはヤラとウィローにも適時、話を振り、会話の輪を広げていった。
「それで、高等部ではね…」
「中等部での、授業と言えば…」
「まぁ…ふふっ……」
中等部の制服も、まるで物覚えのいい後輩と話しているような気分にさせていた。なんなら、貴族同士のお茶会よりもヤラとウィローは饒舌だ。
「あ、おいしい…」
「お褒め頂き光栄です、ゾーイ様。ところでお茶のおかわりはいかがでしょうか?」
「い、いただきますわ…」
そして、軽食については、超一流であった。それを提供するヤマトの給仕も、言わずもがな。
思わず漏れたゾーイの言葉に優雅な礼を返し、気遣いを忘れない。
無理に欠点をあげるなら、気配も足音も恐ろしい程ない点だ。
酒飲みドワーフたちの故郷、鉱山都市の燻製肉は薄切りであっても、味も風味も特別濃い。
しかし、それを王都近郊のキュウリが受け止め、ハーブの香りが後味をマイルドにしている。紅茶との相性まで計算されたような見事な一品だった。
「こちらのサンドイッチ。テーマは鉱山都市と王都の調和。
クセの強い燻製をも受け入れる王都の懐の深さと、そこに欠かせない近郊領地の存在を、ゾーイ様のご実家で採れた野菜を使うことで表現いたしました。
その点を見抜かれての、お褒めの言葉、感無量でございます」
「(……なにそれ知らん怖っ)」
途中までは関心していたものの、どうやら実家の場所まで把握されていたことに、ゾーイは恐怖を深めた。あと、全然見抜いてない。サンドイッチは変わらずおいしい。
しかし、となりで聞いていたヤラとウィローはすっかり感心してしまっている。
「なるほどねー」
「ちなみに、こっちのクッキーは?」
「『エサルカ城』に勤める知人からの紹介の品です。かつての名店『みつばちの隠れ家』の再開に向けた試供品なのだそうです」
「「『みつばちの隠れ家』!?」」
「知ってますの?ヤラ、ウィロー?」
ややオーバーなリアクションの友人達にゾーイも驚く。その間もヤマトは、皆にクッキーを配膳していた。
目の前を見れば、深く温かみのある黄金色の焼き菓子が並んでいる。手が伸びかけたが、話を振ったので我慢したゾーイであった。
「かつて王都では、お茶会の茶菓子を選ぶ時、エルフの店を避ける動きがあったの。
…基本的にエルフのお店って、趣味でやってる人が多かったから、選んだら直前にお休みだとかで、別の物を用意しなくちゃいけなくなったりしたから…」
「あー、ありそうな話…ですね」
ヤラの解説に思わず素のリアクションが出かけるナデシコ。何せ、担任のマイペースを普段から見ている彼女だ。無理もない。幸い、ヤマト以外誰も気付かなかった。
「でも、『みつばちの隠れ家』は違ったの。お茶会の方を、お茶菓子に合わせたのよ。つまり、約40年前のお茶会の約束は『次に例のクッキーが手に入ったら』なんて約束が交わされた、って私達のおばあちゃんから聞いたわ」
「なるほど、興味深いお話ですね」
ヤマトも相づちを打つ。白い手袋を顎に当て、考え込むその仕草は様になっている。
なお、その仕草を付け焼き刃と知っているナデシコはこっそりと白い目だ。
「お母さん達が学園に通ってた時には、お休みに入ってたみたいだけどね」
「おばあちゃんも、最後にもう一度なんて言ってたわ」
「貴方方のお婆様は、まだまだ元気じゃありませんの…」
ヤラとウィローの母親は姉妹、その母親たるお婆様は王都で元気に孫娘達に当時の学園生活を語っている。激しく撫でて来た老婆の手を思い出し、ゾーイはジト目で突っ込む。
「それでは、いただきましょうか、皆様」
ナデシコの確認に、令嬢一同は頷いた。
そして、ヤマトは新たなお茶を準備する。予備の分も遠慮せずに貰っておいて良かった、と思いながら。
サクッ、そんな軽い音が一斉に広がる。軽い食感と甘み、サンドイッチの柔らかさと塩味からの見事な対比になっている。
小麦の香ばしさ、花の蜜の豊かな香り、甘みはさほど強くない。しかし、それがお茶の味を引き立てる。
お茶会のお供、これは確かにその答えだろう。
しばし、無言の時間が続いた。目の前のクッキーとお茶のラリーが、数往復するまで。
時折、うっとりした鼻息が漏れた。ゾーイは頬に手を当て、ヤラとウィローは過去に思いを馳せる。ナデシコは、後でヤマトや級友たちにもこれを食べさせてあげようと決意した。
ヤマトは、ちょっと色っぽいな、と思ったが無論表情には出さなかった。




