256.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 8
時は少し遡り、午前の授業が終わって間もなく。ガゼボに向かうゾーイ達、近郊貴族一行がいた。
学園の貴族は、高等部に上がったと同時に社交界デビューを飾る。それは同時にお茶会の主催者側に回ることを意味する。
中等部では招かれるばかりだった彼女らも、もてなす側に回るのだ。
「お、重いですわ…!」
「ゾーイってば、一人で持つから…」
「茶器の緩衝材もあるから嵩張るしね…」
そして、それは準備する側に回ることを意味する。
小さなゾーイには4人分の茶器、お湯を沸かす魔法道具、茶菓子は流石に荷が重い、物理的に。
上級生が応接室を占領するのは、そこに備え付けの茶器があるからだと、高等部一年生は口を揃えて言う。
「手伝わせなさいよ、友達でしょ?」
「お礼は今度の課題手伝ってくれるってのでどう?」
「…二人とも…」
ヤラとウィロー。意地っ張りなゾーイが、気を緩められる数少ない相手。荷がすっと、軽くなった気がした。
「…分かりましたわ、お手伝い、お願いできますかしら?」
「畏まりました、お嬢様」
「「「!?」」」
いつの間にか黒い影、否、ヤマトがいた。ちなみにここは高等部廊下。気付けば、周りの注目が集まっていた。
ゾーイ達が呆気にとられている内に、荷物は全てヤマトが手に取っていた。気付けば茶会の会場までエスコートされ、あっという間に準備は完了していた。
そして時は戻る。
「皆様、本日はお招きくださいまして、ありがとうございました」
こちらも従者と同様にいつの間にか現れていたナデシコ。ゾーイ達はすでに戦慄しかない。
「(……いえ、冷静になりなさい、ゾーイ…!確かに先手も、用意した茶葉の種類も当てられましたが、こちらには今月のお小遣いの半分をつぎ込んだ、王都の流行最先端、『パウンドケーキ』ありますわ…!)」
ちなみに、ゾーイはこの『パウンドケーキ』を王都で広めたのがヤマトとナデシコであることを、幸いなことに知らなかった。
「お嬢様方、お茶菓子のご用意が整いました。
下段には、王都近郊で採れましたきゅうりと、鉱山都市の燻製肉のサンドイッチ。アクセントの香草は王都産のものを使いました。
中段には、今朝、焼きたてのクッキーを添えています。王都で近々オープンする店のものを入手いたしました。
そして最上段には、ゾーイ様からの『パウンドケーキ』を盛り付けました」
「(……組み込まれてますわー!!そして、なんですの、あれ!?)」
ティースタンド。3段のスタンドは、下段に塩気のある軽食、中段に焼き菓子など、最上段に甘い物を添える、ヤマト達が持ち込んだ品である。
「まぁ、美味しそうね。ヤマト、早速、『パウンドケーキ』を取ってもらえるかしら?」
「お待ちください、ナデシコ様。こちらの構成ですと、塩味のある下段からお召し上がりいただきますと、より一層ケーキを楽しめると、ご提案させていただきます」
「そうでしたね。皆様もそれでよろしいかしら?」
「え、えぇ…よくってよ?」
「そうなんだ…」
「下段から…」
こうして、マナーの指摘など起こる暇も無く、各自へ配られるサンドイッチ。配膳が終わると、ヤマトは一歩下がった。
お茶会の事前準備で昼食を取っていなかったゾーイは、思わずそのサンドイッチに目を奪われるが、ハッとした。まだ、主催の挨拶を終えていない。
「……っ、ようこそおいでくださいました、ナデシコ様!ゾーイでございます。こちら、ワタクシの大切な友人であるヤラと、ウィローですわ。お会いできて、本当に光栄ですの」
ゾーイの紹介に合わせ、ヤラとウィローは一礼する。二人は緊張がとけたようでにこやかに礼をした。あるいは、貴族の日常に戻ったからかも知れない。
「改めまして、此度はお誘いいただき、まことにありがとうございました。参加の連絡も当家の従者越しでしたので、今日が初対面ですね。私はナデシコ、鉱山都市より留学の機会をいただき、5月より中等部に通わせていただいています」
身長的には、見上げ、見下ろす形になるのだが、その視線には侮りや嘲り、過度の自尊もなかった。むしろ、親しみすらあった。ゾーイは少し、警戒を緩める。
「なので、学園では未だに分からないことばかり、この交流で皆様の事を教えていただければ幸いですわ。ああ、それから、ヤマト、貴方も正式に名乗ってはいかが?」
「では、お言葉に甘えまして…。学園より特別措置を認められ、ナデシコ様の従者を務めております、ヤマトと申します。学園では、主と同じ『若葉組』の生徒という形になりますが、本日のお茶会では皆様の一助となることが我が使命。ご用命あれば是非、私にお申し付けを」
終始和やかな二人。迎え撃とう、という意気込みは、すっかり削られてしまっていたゾーイだった。
「(……それにしても、絵になる二人、ですわね…)」
王都では珍しい艶やかな黒髪。時折交わす視線は一体感すらある。
不思議なもので、よく知らない時にみたそれらの特徴は、嫉妬すら湧き上がるものだったが、今はすっかり、称賛のものに変わりつつあった。




