255.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 7
「それにしてもお茶会かー。二人には慣れたものだねっ」
ニコニコしながら、サラダを摘まむネリー。エルフ親娘合作のサラダは彩りも見事だ。自作オイルドレッシングと砕いたナッツの香りが食欲をそそる一品だ。娘との調理でネリーはご機嫌だった。
「『エサルカ城』で何回かごちそうになってるけど、私達のマナーってどんなものかしら?」
「お二人の茶会でのご様子は、丁寧な所作が出来ていると思いますよ?…ですが、あいにくとエルフと人間のマナーには時折相違がありますので…」
フルリスは困り眉で微笑んだ。どうにも言葉に引っかかりを覚えるな。
「ん?時折?」
「それはねー。王都では、時々…50年に一回くらいマナーが変わったりするの。流行ってやつ?」
「最近だと、一時期は、子供は先に入室しておく、というのもありましたね」
「ちなみに、200年前には子供は最後、ってマナーもあったよ」
「まさに歴史の生き証人ね」
少し詳しく聞くと、どうやら定期的にカリスマ的な女性が王族やその周辺に現れるそうだ。
その本人がマナーを作ったり、何気ない仕草を真似してそれがマナーとなって伝わったこともあるらしい。
そして、不思議な事に数十年もすればそのマナーは廃れるらしいのだ。
俺達の世界だとインフルエンサーとそのフォロワー、みたいなものだろう。
「私は主に招く側でありますが、お話を聞いてくれて、その上、楽しんでいただければなによりと思います。その点で言えば、お二人はまさに最高の客人ですね」
「訪ねる時の鉄板は褒めることかな。誰でも、細かいことに気付いてくれたり、関心を持ってくれていると嬉しくなっちゃうよね」
結局、お茶会の話は、昔の面白かったマナーや流行、変わった手土産なども交えながら、楽しい夕食の時間はあっという間に終わった。
「本日もありがとうございました。ナデシコ様、ヤマト殿」
片付けの時間、俺達の側で食器洗いをしてくれているのは、ルスィスさん。
フルリスの側仕え兼、護衛である。いつも食事の準備を終えると姿を消し、後片付けの時間になると現れる忍者みたいなメイドさん。
ちなみに、エルフ親子は机の掃除をしてくれてる。現役女王陛下は仲間外れがお嫌いなのだ。
「お土産も皆、喜びます」
お土産とは、護衛中で一緒に食事が出来ない護衛の皆さん向けの弁当だ。
今日は牛カツサンド。食卓の分と一緒に揚げたカツを、軽く炙ったパンに挟んだものだ。
「いいってことよ」
「貴重な話も聞けたしな」
「そうですか…。そう言えば、お茶会に招待されたのだとか。手土産はお決まりですか?」
「決まってないわね。王城付近に、少しお高めな商店もあるからその辺で見繕おうかしら?」
「『俺達の世界』の品って訳にもいかないしな…」
俺達の事情、異世界から来たことについては、親しい者には開示済みだが、喧伝するつもりもないしな。
ちなみに、ルスィスさんが食事の場に居なかったのに、話を把握していることに驚きはない。
「では、私に選定をお任せくださいませんか?王都で菓子店を営む私の友人が、結婚と子育ても一段落したので、近々店を再開するそうなのです」
「へー、めでたいわね。しばらく休んでたの?」
「ええ、40年程になります」
エルフに対して時間感覚でツッコミを入れると疲れるのでやらない。
その後、無料で提供するというルスィスさんと、代金をきっちり払うという俺達の押し問答があった。
結局、再オープン前の関係者に配られる試供品、という形に落ち着いた。オープンした際には、しっかり購入させてもらおう。
「ちなみにルスィスちゃんの結婚はいつになるのかなー?あ、もちろん、フルリスちゃんも!」
「「………」」
「…ごめんね?」
マリハラを仕掛けたネリーに一番効くのは無言。非常に勉強になった。
こうして何気ない日常の中で、お茶会の準備は着々と進んでいき。やがて、お茶会当日となったのだった。
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ロニア魔法学園の庭園には、屋根と柱だけで壁のない空間、ガゼボがある。
生徒間交流の為に解放されたそれは、申請をすれば生徒のみでも利用出来る空間の一つである。
このほかにも、生徒間交流用に複数の応接室が解放されているが、屋内は上級生が半ば占有状態が常である。
そして、屋外は比較的空いていることが多く、まずはここで交流を図るという高等部の不文律があった。
下級生同士の交流は風通しが良く、そんな思いが込められているのかも知れない。
本日は日差しも穏やかで、王都周辺の森の香りをまとった風が吹き抜け、初夏ながら涼やかな空間であった。
今日はそこに四人の学園生、否、令嬢が集っていた。そして、彼女らをもてなすのが…
「皆様、本日はようこそお越しくだざいました」
黒髪の従者、ヤマトは滑らかな足取りで一歩前へ出ると、完璧な角度で一礼した。その低く心地よい声音に、令嬢たちの視線が一斉に集まる。
「皆様の瑞々しい美しさに合わせたような、初夏のファーストフラッシュ。驚くほど爽やかで、まるで皆様の弾ける笑顔のような、輝かしい果実の香りが特徴でございます。お湯も今、最高の状態に沸き上がりました」
高い位置から一筋の美しい放物線を描き、琥珀色の液体がカップへと注がれていく。
ガゼボの中に極上のアロマが広がる中、ヤマトは主催者であるゾーイへの敬意を込め、まずは彼女の前に、音もなくカップを差し出した。
「どうぞ、お嬢様。まずはそのままで、高貴な香りを」
「ま、まぁ、ありがとうごさいますわ…」
ゾーイは平静を装って、カップを受け取った。なお、声も指先も若干震えている。
しかし、茶葉の香りがその震えを止める。思わず、ため息が出るような心地のいい香りだった。
「(……って、どうしてワタクシがもてなされてますのー!?)」
動揺が止んだ時間が約30秒。
まるで振り子のように揺さぶられ続ける午後のお茶会はこうして始まった。




