254.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 6
「……お疲れ様、メグくん。…二人の推測に対してのキミが持つ情報での答えと、付け加え。
…蛇足としつつも、キミの思いを感じる事が出来た。…思い、それは考えにも似ているが、その違いはワタシもまた勉強中だ。……存分に向かい合い、答えをだすといい」
「ありがとうございますわ、先生」
ユディット先生の締めにメグは一礼で応えた。着席するメグ。そして、教室にはしばしの沈黙が流れた。
先生も、その事になにも言わない。まるで各々の考える時間を尊重するように。
「メグは優しいのね。それから……みんなも、教えてくれてありがとう」
その沈黙を破ったのは、ナデシコ。
「王都の歴史、貴族の立場、学園でやってる事。それらを知った上で、私はゾーイさんと会おうと思うの。でも、こっちの『仮定』を押付けない。
昔、なにかあったから高飛車になってるだとか、こっちの何かを狙ってるだとか。見極めるのは、しっかり顔を見てからにする。
その上で、なにかあるなら相談に乗ったっていいし、生意気を言うなら蹴散らす。
それが、私の流儀よ」
その目にあるのは、強烈な自己。流されることなく、見定めるという意志。
「ヤマト、付き合ってくれるでしょ?」
「仰せのままに。……いや、付き合ってやるよ、ナデシコ」
一礼をした俺だったが、どうにもしっくり来なかった。
だから俺は、手袋を外して手の平を向ける。
「そうこなくちゃ!」
パーン、とその手が打たれた。心地のいい破裂音は教室に響き、生徒と教師一同、『若葉組』が笑った。
「……『説明』された知識を元に『分析』を行い、『行動』に移す。…それでこそ、ワタシの生徒だ。
…これからも、キミ達は行動の前に…もしかして、もしかしたら、という『仮定』が立ちはだかる。
…しかし、それは壁ではない。むしろ、壁を越えるための、段差でしかない。
…踏み、越え、その先へいくといい」
―――はいっ!
教室には、凜とした返事が響いた。
「……さて、今日の授業だが、王都近郊の産業と経済についての講義を始めよう」
ユディット先生が何事もなかったかのように教本を開く。その姿に俺の背中にツッと冷たい汗が流れた。
まさか……朝のゾーイさんの一件も、今日の授業の為の『仕込み』だったのか…!?
「……実はゾーイさんの誘いから全部、先生の仕込みだったりするのか?」
「そうなんでしょ?授業の為に、ゾーイさんの思考を誘導したとか…」
声を上げたのは、俺とナデシコだけだったが、教室の生徒一同、同様の結論に到達したようで、軽く引いていた。
「ほ、本当に偶然ですよ?授業内容は元々王都近郊でしたし、近郊貴族のゾーイさんが来たのもたまたまですって…!というか、特定の行動を誘発するような思考誘導なんて……あれ?やってるような…。
でも!今日は偶然ですからね!……ね?」
エマ先生が慌てて両手を振って弁明する。となりでユディット先生も頷いてる。
「エマ先生が言うなら、安心ですわね…」
「ですね…」
「そうね…」
メグ、イザベラ、ライリーが安堵の息を漏らす。無論、俺とナデシコもそれに続く。
あー、びっくりした。いや、途中になんか不穏なこと聞こえたけど…。
「………ワタシの『分析』によれば、キミ達からの信頼の低下を感じている。
……ワタシへの信頼についての『説明』をもらえるだろうか…」
よかれと思って行った即興授業を、壮大な自作自演と疑われたユディット先生は大きく肩を落としてしまった。どうやら本当に偶然だったようだ。
この後、皆でユディット先生のいいところをあげていく、という緊急クエストが発生した。
「ということがあったんじゃよ…」
「なぜに昔話風?」
ナデシコの語りの締めに俺はツッコミを入れる。
時刻は夜に移り、王都の借家にて夕食の時間。
今日のメニューは、王都近郊でとれる野菜のサラダと、牧場の牛肉で作ったカツ。俺達の世界だと牛カツと呼ばれるものだ。
柑橘と異世界産醤油で作ったあっさりソースもよく合う。地方貴族、エマ先生の実家のお米との相性も抜群だ。
「ふふっ、学園は賑やかですね」
「じゃ、今日のお買い物で野菜の仕入れ先も聞いてたのは、その影響だったんだね!うん、美味しい!」
一緒に食卓を囲むのは、王都のエルフ王族、ユグドラシル家の二人。
現役女王、フルリス・ユグドラシル。先代女王、コルネリア・ユグドラシルことネリー。
王都で出来た友人だ。一応お忍び、というか忍びのような護衛エルフが家の周辺を囲っている。
なぜに俺達の夕食の面子がこんなにロイヤルなのかは…まぁ、色々あったと言っておく。
最近では、箸の持ち方も体得してしまった二人との食卓は、ゾーイさんとのお茶会への緊張感をなくしている。
「そういうことでしたら、この食器はエルフの職人によるものです。つまり、王都全体がこの食卓にあるのかもしれませんね」
「「おー」」
さすが女王陛下。俺達とは気安い付き合いをしてくれてるが、なかなか深いことを言う。
牛カツを米の上にワンバウンドしながらであるので、威厳はあまりないが。うまいよな、それ。




