253.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 5
「……さて、『学園における貴族達への理解を深める』というゴールには見事たどり着いた。
…ここまでの『知識』を元に『分析』したまえ、2人とも。
…まずは仮定から入る。それは危うく見えるが、仮定を念頭に置くことを忘れなければ、有意義な取り組みだ」
ユディット先生は、俺とナデシコに話を振った。すでに声のトーンも落ち着いて普段通りだ。
普段通り、いまいち考えが読めない、とも言える。
「そうね…。ヤマトに話しかけた時の態度、どうにもプライドが高いみたいよね、ゾーイさんは。これって、近郊貴族の特徴じゃないかしら?」
ナデシコの推理は俺と同じだ。だったら俺は、イザベラの話を元に考えるか。
「それから、イザベラの話からするに、お茶会の誘いは交流の第一歩。ゾーイさんの目的は、俺達を自領へ勧誘すること、もしくはそれを目的とした顔つなぎ、見定めってとこか…。あくまで、仮定だが」
加えるなら、ナデシコへの意識が強かったのは、本当に主従である場合、俺はナデシコを誘えばもれなく付いてくるオマケみたいなもんだ。
逆に俺だけでなら、ナデシコは付いてこない可能性も、このクラス以外の学園生なら考慮に入るだろう。
「……ふむ、いい『分析』だ、ね。…知識を元に事象に当て込み考える。知識の応用としても、合格点だよ。
…しかし、個別の知識があれば、より『分析』を深められる。
…さぁ、蛇足の時間だ。ワタシに並び貴族の事情に詳しい者に、さらなる『説明』を頼むとしよう。
…ここからは、メグくんに任せよう。」
「かしこまりましたわ、ユディット先生」
先生の呼びかけに、メグは立ち上がり、見事な礼で応えた。
そう言えば、少なくとも生徒で一番詳しいのはメグだ。今まで話を振られなかったのは、学園生の一般知識からの推測をさせるためだったのか…。
「ではまず、お姉様の推理、ゾーイさんが近郊貴族という仮定を確定させますわね。
先ほど、ちらりと印章が見えましたが、確かに王都近郊に領地を持つ者の物に間違いございませんわ」
メグは普段、俺達の言動へのツッコミに回るので忘れがちだが、本物の王族なんだな…。知識、教養含め。
とにかく、ゾーイさんは近郊貴族確定か。
「それと同時に、お兄様の推理に部分的な否定をしなくてはなりませんわ」
その言葉に首を傾げたのは、俺とナデシコ、それからライリー、イザベラ。
つまり、メグしか知らない情報があるのか。
「人材確保、これを行うのは、王族、地方貴族、近郊貴族。この中で、単独で勧誘の為の声をしてもいいのは王族のみ。地方貴族、近郊貴族はいくつかの家で連名での声かけが暗黙のルールなのですわ」
なぜだろう。いや、さっきの就活、という例えが生きるかもしれない。
「……声を掛けられる相手が、いい条件を得られるように、か?」
「さすがお兄様、ご明察ですわ」
俺の言葉にメグはにっこり笑った。
この世界の勧誘を伴うお茶会は俺達の世界で例えるなら、合同説明会的な側面があるのかもしれない。
勧誘された側が複数の所からよりよい条件を選べるようにするため、つまり選択の自由を与えるのが取り決めとしてあるのか。
「…!?」
「いや、確かにイザベラがいつも『流石、兄上』って言ってたけど、別に専売特許じゃないっての…」
「ま、ライリーのツッコミは置いといて、黙認された事に暗黙のルールがあるなんて……なんていうか、面倒くさいわね…」
途中コントのようなやり取りが繰り広げられたが、確かに面倒だ。
「ええ、その通りですわ。加えて言うなら、地方貴族と近郊貴族は地域毎に分かれ、派閥を形成し、その長が所属の家々を監督していますわ。勧誘を行う場合は、その長への報告が必須、と。
無論、わたくしが知る限りなので、もっと細かい取り決めは各地方間、または派閥間でもあるかもしれませんわね」
メグの言葉に、先ほど首を傾げた4人がその場で一歩引いた。
「気の抜けないお茶会だな…いや、待てよ。ってことは、今回のお茶会は、勧誘目的でない…いや勧誘しちゃいけないなら……純粋な交流。仲良くなりたかったり、顔見せ以外の意図はないって話にならないか?」
「流石、兄上!」
「……ですわ」
俺の言葉とイザベラのインターセプトにメグは苦笑しつつ、首肯した。
「じゃあ、まとめると近郊貴族のゾーイさんは、このナデシコちゃんと仲良くなりたくて、ちょっぴり高飛車に声かけしちゃったってこと?」
「そうじゃないか?その一人称は初耳だが…。」
「お兄様、お姉様。…先生は、これを蛇足と仰いましたので、わたくしからも、もう一つだけよろしいかしら?」
まとめかかった所だったが、メグからはまだ、言いたいことがあるようだった。
遮る理由もない。無言で続きを促して、俺達は聞き手に回る。
「近郊貴族の方々のプライドを持つこと。それを、わたくしは否定が出来ませんわ。
彼らの多くは、古い王族の血が流れていますわ。魔力の関係や、様々な要因から王族を離れ、王都に留まれなくなった王族は近郊貴族の家々に入った、という歴史がありますの…」
なるほど、それは確かに見方が変わる。
メグの本名、マルグリット・ミッドガルド。この世界は、王族などの一部の者にしか家名がない。
名前が半分になり、その他大勢と同一視されること、それは確かに屈辱だ。
「今では…少なくとも、数代はそのようなことはありませんでしたが、名残、背景、そのような形で残ってるものもあると、考えてしまいますの…」
メグは聡い。俺と同じ考えに至ることなど、きっと朝飯前だ。
同情すること、それは受けた側に与える傷かも知れない。
だが過去の傷を思わないで済むほど、人は無情になれない。
目を反らして知らない振りをしろというのは、少し残酷だ。




