252.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 4
ここまでの話を今朝の話を当てはめると、だ。
ゾーイさんのあの態度、それは近郊貴族のプライドの高さに由来するのか?
とりあえず、今はまだ仮定としておこう。
「……さて、ライリーくん。先ほどの『説明』はよかった。…上手くまとまっていたし、特にキミだからこそ知れる、両親の話。…体験談、実情とはもっとも個人差が出る所でもある。…お疲れ様、着席したまえ」
「はい、ありがとうございました」
ユディット先生は労をねぎらい、ライリーは礼をして着席した。
「……では、『貴族』についての理解が深まったところで、ワタシからも少々情報を出そう。
…学園での『彼ら』は、もちろん、魔法や魔力の扱い方についての訓練をしている。一般的教養を身につけながら、ね。
…しかし、それはライリーくんや、ヤマトくん、ナデシコくんも変わらない」
確かに、俺達は貴族ではないし、貴族になるつもりもない。
「……では、貴族と一般市民が同じ学び舎で学ぶ利点とは…。ここからは、イザベラくんに任せよう。
…学園で行われていることを、キミはよく観察し、時に体験しているはずだ。
…前提は先ほどと同じ、ただし、イザベラくんの場合、剣術で例えることを禁止しよう」
「そんな…!」
ユディット先生の刺した釘は、イザベラに深く刺さったようだ。イザベラは起立の後、後退りしてしまった。
いや、そこまで驚くことじゃねぇよ。先生の授業の意図、『説明』については、おそらく一般化、誰にでも伝わるようにする意図があるのだろう。
そして、なんとビックリ、この教室には都合のいいことに2人別世界の住人が居る。あれ、これ前にも思ったな…。
「そうですね…。まず、試合相手に困りません」
イザベラはこちらを向いて説明を始めたが、いきなり雲行きが怪しい。俺とナデシコはすでにジト目だだ。
……セーフか?剣術判定では?
「魔法の鍛錬、体術、剣術の修行。同じクラスでなら、人となりを知る機会も多くあります。つまり、交流の機会が多いのです。」
大丈夫そうだ。よかった。
「とくに貴族は交流に力を入れています。
それは、将来の協力体制の樹立や、人材の確保、社交界の予行演習。特に高等部ではその傾向が強いと、母から聞きました。…まぁ、母上は中等部卒業後に騎士学校へ進学したので、又聞きの又聞きですが…」
なるほど、この学園って、もしかして常に就活と将来の各代表者での会議が行われてる?
俺達の世界とギャップなかなか強い。……年齢的には高等部な俺達だが、編入したのが中等部の特別クラスでよかった…。
「そして、学年が違ったり、クラスが違っても、気になる人物に対しても関心が向けられる場合がありますね。
兄上と姉上が誘われたお茶会は、その最初の段階といっていいと思います」
まずはお茶でも、という話か。そこは俺達の世界と変わらないんだな…。
「でも、イザベラ、今まで私達誘われて来なかったけど?」
「ああ、それは今まで我々が全て一切断っていたからですね」
今度は俺とナデシコの目は点になった。
…それ、就活で一番やっちゃダメな事じゃね?
「あたしは特に興味なかったし、それより鍛錬かなって。強くなりたかったし。でも、鍛錬ならたまに誘われたり誘ったりしてたわよ?」
「へぇ、どうだった?」
「歯ごたえなかったわ。今じゃ兄貴と姉貴が居るし」
ライリー、蹴散らしたんだな……。
「わたしもお茶会は一切お断りしています。ですが、鍛錬には今でも『ちゃんと』誘われますよ、兄上」
「…そうなのか?」
「はい!兄上達との鍛錬の前に『ちゃんと』一太刀で決めています!」
まだ見ぬ高等部生、強く生きてくれ。
「わたくしは…」
「相手さんも推定王族にどんな態度取ったらいい分からなくてスルーされてる…違う?」
「…その通りですわ。お姉様」
はみ出し者集団、『若葉組』。編入組の俺達が居なかった期間も、しっかりはみ出していたらしい。
いや、もはや、アンタッチャブル?
「……ああ、ちなみに、囲い込みなどは学園としては、『黙認』している、とだけ付け加えさせてもらおう」
「これまでトラブルになった例はありませんが、困った事があったら教員に相談してくださいね?」
ユディット先生とエマ先生、学園側から補足が入った。
強引な勧誘や口約束のトラブルもない平和な世界でなによりだ。
「…まぁ、私の学生時代のユディット様の勧誘は少し強引でしたが…」
なにやら小声だが不穏な事が聞こえた。
「……さて、イザベラくん。キミの『説明』もいいものだった。…キミは又聞きと自嘲したが、それを知識として自分たちが体験した『勧誘』に当てはめることが出来ている。…それは、知識を身につけていると言っていいだろう。…お疲れ様、着席したまえ」
「はい、ありがとうございました」
ユディット先生は労をねぎらい、イザベラは礼をして着席した。ユディット先生の声は気持ち大きめだった。




