251.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 3
そんな騒ぎの中、教室のドアが開いた。
「……おはよう、皆」
「おはようございます。皆さん」
入って来たのは『若葉組』の担任と副担任、ユディット先生とエマ先生。
担任に関して言うと、この世界の人々にとっては500年前に黒竜から世界を救った七天将星『緑のユディット』と言った方が通りがいいかもしれない。
俺達にとっては、マイペースな担任教師でイメージが固まってるが。
「……今朝も賑やかなようでなによりだ、ね。…そう言えば、この教室では初めて出るが、聞き覚えがある名前が聞こえたが?」
「学園長、また遠くから教室の音を聞いてましたね?」
そして、その助手というか私設秘書というか、外付け良心機関兼ブレーキ役のエマ先生。なお、あまり効いてはいないもよう。
「……初夏の朝日を感じ、教師としての使命に燃えるキミの瞳を見ながら、生徒の声を聞くのがワタシの近頃の楽しみで、ね。…キミだけに捧げられなくて、申し訳なく思う」
「…もぅ…いい加減にしてくださいね?」
そして、それを手放す気が無いユディット先生。
「で?先生が聞き覚えあるのって、ゾーイさんでいいのよね?」
「……そうとも、彼女は昨年度の中等部最終試験で10位。…中等部の総仕上げのレポートもなかなかユニークだった、ね」
そんな先生はナデシコの質問に応える。ご覧の通り、生徒のスルースキルは順調に育っている。
「…ふむ、授業の予定とは違うが『分析』と『説明』の題材には丁度いい。実践的授業といこうか、な。…では、皆、席に付きたまえ」
そして、俺達は席に着く、今日の授業は始まった。題材は、まさかのお茶会の招待状とゾーイという生徒。
しかし、どうやって『分析』と『説明』に繋げるのだろうか。
「……では、まずゴールを設定しよう。ゴールは学園における貴族達への理解を深めること。
…さすがに、『個人』の思惑まではワタシもわからないのでね。…その後の推論は、キミ達に任せよう」
……実は、ゾーイさんは先生の回し者だったってオチじゃないよな。
今まで先生の手の平だった事は数知れず、どこまで狙い通りか分からない先生だ。今日の科目はとりあえず社会だ。
「……さて、『分析』には、まず情報が必要だ。そして、各個人が持っている情報には差異がある。
…その共有手段が、『説明』。これには対象を設定する事が肝要だ。
…なので、王都における貴族の種類を…ライリーくん、『別の世界』の人間に説明するなら、キミならどう説明する?
…ああ、流石に貴族の定義は飛ばしていい。それから、普段の話し言葉で構わないよ?」
ライリーが席から立ち上がり、俺達の方を向く。
なんとビックリ、この教室には都合のいいことに2人別世界の住人が居る。そう、俺とナデシコである。
ちなみに、飛ばした貴族の定義だが、こちらの世界では領地を持った公務員といったイメージだ。
出没する魔物への対処や、王都の王城で事務仕事に励んでいる。報酬は領地経営の収益の一部や、税収など。
「そうね…。本当はもっと細かいのでしょうけど、簡潔に説明するとしたら、4つかしらね。
まずは、王族、貴族を束ねるリーダー格ね。王都に居るわ。
それから、王都に居ると言えば、役人貴族。
王城勤めで事務仕事してたり、王族の守りについたり、いざと言うときには地方に魔物討伐に行く騎士団も役人貴族ね」
そこで、ライリーは一度言葉を切って、メグとイザベラを見た。2人とも頷いている。
メグの本名はマルグリット・ミッドガルド。次期女王候補で、偽名で学園に通っている。
イザベラの母は王室護衛官のイングリットさんで、父は王城勤めの料理人。本人も王城近くの一軒家に住んでいる。
丁度、王族と役人貴族だ。
「でもって、残り二つは王都以外の貴族ね。
まず、地方貴族。いくつか農村を仕切ってたり、姉貴達も立ち寄った宿場町を収めてるわね」
今度は、エマ先生が頷いてる。
エマ先生の実家は地方貴族の中でも、実験農園を経営している名家という話だ。
しかも、その実験農園には水田もあり、この世界では大変珍しい『米』の栽培もしている。
俺達もその恩恵に大変お世話になっている。もしご挨拶出来れば、跪く準備は出来ている。
「それから、近郊貴族。地方貴族の中でも、特に王都に近い貴族をそう呼ぶわ」
「ん?じゃあ、地方貴族に分類してもいいんじゃないか?」
俺は思わず口を挟んだ。騎士団から料理人まで役人貴族で一纏めなのに、地方貴族は場所で区切るのか。俺の疑問に、ライリーは目を大きくした。驚くことだったのか?
「…あたしにこの説明が振られた訳が分かったわ…。
あたしの家は、パパはの都市の門番、ママは商人のおじちゃんのところで働いてるけど、そのどちらからも言われたことがあるの。地方貴族と近郊貴族を一緒にするな、って。
訳は簡単、嫌がるんだって、近郊貴族が。いざとなれば、王都からの避難所や、王都を守る防壁になる近郊貴族は特別、らしいわよ?」
最後の言葉が完全に借りてきた言葉を話しているライリーだった。
そして、ライリーは先生を見た。複雑な表情を受け止めた先生は、褒めるように微笑みを返したのだった。




