250.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 2
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朝の教室、ナデシコは一通の装飾の施された封筒を見ながら唸っていた。
筆記体のように少し小洒落た文字体で『招待状』と書かれていて、宛名はナデシコだ。
それは今朝、俺に渡されたものだった。ご丁寧に封蝋までされていた。
「ヤマト、とりあえず受け取った時の状況を教えてくれる?」
「ああ、じゃあ簡単にだが…」
俺はナデシコに今朝の状況を語り始めた。
学園での朝鍛錬が終わった後、女学園であるため着替え場所がない俺は、一度借家へ戻る。
学園でナデシコと離れる時間は意外と珍しい。『花摘み』などを除く。
運動に適した服装から、従者服へ。
タイを締め、白い手袋を付ける。裾を整え、鏡の前で頭髪をチェック。
軽くキメ顔……直後、左右を確認。無論、誰も居ない。
この恰好もすでに、一ヶ月を超えたが、未だに拭えないコスプレ感。
3ヶ月前の俺は、異世界の存在も、そこにある女学園で幼なじみの従者のフリして通うことなど想像だにしなかっただろう。そりゃそうじゃ。
身支度を整えた俺は、学園へ向かう。すでに守衛とも顔見知り。物珍しげな目線も今では半々といったところだ。
慣れたものは、数人連れで挨拶をしてくるので、紳士的に挨拶を返す。
笑みを向けられれば、笑みを返すのだが、時たま歩みを止めてしまう女生徒がいるのは何故だ。
鏡の前ではうまく笑えていたと思うのだが…。
「そ、そこのあなた! 」
おや、これは初パターン。
貴族も在籍しているこの学園で、周辺の生徒に尊大な態度を取られるのでは、とも懸念していたが、蓋を開ければそんなこともなかったのだ。少なくとも今日までは。
「主の……いえ、ナデシコ様に、これを渡しなさい!」
振り返ると、装飾の施された封筒を、両手で突き出すように差し出していたのは、なんと金髪縦ロールの小さなお嬢様。しかし、服装から見て、高等部生。つまり同年代以上か。
気の強そうな瞳だったが、なんとなくその声は震え気味だった。
見上げている彼女の首が痛くならないよう、俺は自然と姿勢を落とした。その場で静かに片膝を突き、白い手袋の右手を胸に当てて、彼女の視線の高さに合わせる。
「はっ。私の主への伝言でございますね。謹んで拝領いたします、お嬢様」
「ひゃっ……!?」
受け取ろうと思ったのだが、一歩下がられてしまった。
いつもなら、何がしたいんだ、などと軽く軽口を叩くところだが、このコスプレに相応しくはないだろう。
少し申し訳なさそうに、眉を下げて微笑む。
「……失礼いたしました。お怪我はございませんか?」
少女…いや、女生徒は胸元を押さえて、ゆっくりとこちらに近づく。少し顔が赤いが、息でも止めてた?
「な、なんでもありませんわ! コホン……! ワタクシ主催のお茶会を開きますの! 詳しくはこの中にしたためてありますわ!だ、だから必ずお越しになってと、主にお伝えなさい!」
まるで無酸素運動、一気にまくし立てられた。どうも緊張しているらしい。
「畏まりました。必ずや、確実にお伝えいたします。返事は近日中に。
私はヤマト。我が身の不勉強をさらすようで情けないのですが、失礼ながら、貴方のお名前を伺えますか?」
「わ、ワタクシはゾーイ…。ひゃん…!」
招待状を受け取る際、俺の指先がほんの少し彼女、ゾーイの指に触れた。瞬間、妙に可愛い悲鳴が上がった。
「そ、粗相のないよう、しかと伝えるのですわよ。……それでは、ごきげんよう!」
彼女は制服の裾を翻し、小走りで逃げるように去っていった。
そして、時と場所は、朝の教室に戻る。
「で、ヤマト的には『ゾーイひゃん』の見立ては?」
「初対面も済ませてないのに弄るなよ、主」
借りてきた猫はここでは必要ない。この教室の面子には、すでに秘密も無いしな。
「ま、一個気になった事があると言えばある」
「聞こうじゃない、名探偵」
「推理とも言えないことだけど、な。ゾーイさんはナデシコの名前を言ってた。知り合いか?」
「私にはゾーイって名前に心当たりはないわよ?」
やっぱりか。
俺の主に渡すようにと言おうとしてたが、ナデシコと名前に言い直してたし、知り合い未満、こちらの詳しい事情を知らないのだろう。
「名前はこの学園で名が売れたってことで片付けるにしても、少なくとも通る時間を事前に把握して待ち伏せしてたってことだ。
で、ゾーイさんから出たのは、俺の名前じゃなくて、ナデシコの名前。つまり、用があるのは…」
「私達じゃなくて、私?」
「イグザクトリー(その通りでございます)」
胸に手を当てて一礼。慇懃無礼は見抜かれたようで、ナデシコの機嫌が下降したのが分かった。
そう言えば、ゾーイさんが顔を赤くした下りでも、悪くなったような……。
「ふむ、まったく心当たりがないわね」
「だよな」
ガタン!
教室、というか隣から崩れるような音が聞こえた。
視線を移せば、可愛い妹分にしてクラスメイトの三人が軽くこけていた。
「……お兄様、お姉様、本気で言ってますの…?」
「…この特別クラス『若葉組』にいて?」
「…世界を救った英雄の紹介で入学して、異例の編入生ですよ?」
メグ、ライリー、イザベラまでも、ツッコミを入れてきた。
この学園に向かう前、鉱山都市にて王都出身の友人に言われたことがある。
めんどくさい貴族には気を付けろ、と。俺達は今回の一件でそれを思い知ることになるのだが、まだ先の話だ。




