247.あの日響いた愛の歌③。その後の王城にて。
エルフの王城、『エサルカ城』。エルフが集うその城の役割は、魔法研究と文化、芸術の補助である。
長命種故に、過去の出来事や記録を保存し、求めに応じて開示している。なお、ここ500年程なら口伝で語れる人物もまだまだ現役である。
また、時間を持て余しがちな彼らは、『教える』という行為を娯楽として捉えている。
絵画教室、料理教室、園芸教室、農業教室等。王都の文化を支える役割をこなしているのだ。
そして、そんな『エサルカ城』は『世界樹の若木』を背景に持つ、森林城でもある。
『世界樹の若木』。かつてのエルフの旧王都から、出奔した姫が持ち出したその苗木は、今や王都を覆わんばかりの大樹へ成長している。
なお、元の世界樹を知る世代は、大本の世界樹はもっと大きかった、と語るという。
エルフの昔語りは長話になる、そんな形で揶揄するものもいる。
魔物を寄せ付けないその特性を生かし、株分けし、都市間を繋ぐ街道を作るというのは、500年掛けても未だ成し遂げられない大事業である。
それでも、主要都市周辺への植樹が成されている事から、エルフの勤勉さが伺いしれる。
そして、エルフの長、ユグドラシル王家の役割は、この世界にとって重要な位置を占めている。
世界樹の管理、エルフ女王のみが行える『世界樹の若木』への干渉。
現代社会に例えるなら、インフラ管理であり、資源管理、そして、緊急事態対応。その役目が与える重圧は、余人が推し量るべくもない……のだが。
「フルリス様、恐れながら進言致します。いきなりぬいぐるみ……いえ、ポンちゃん5世の服を作成するのは、難易度は高いかと…」
「しかも、それフリルだよね?薄い布は難しいんじゃない?」
「……そうでしょうか」
午前中にお勤めを終えた女王、フルリス・ユグドラシルは私室にて口を尖らせて布と格闘していた。
武器は針と糸。お供は側仕えのルスィスと、フルリスの母、ネリーこと、先代女王コルネリア・ユグドラシル。
「お二人にいただいた服の他に、私からもこの子に贈りたかったのです…」
フルリスは一旦手芸道具を机の上に置くと、膝の上のうさぎのぬいぐるみを撫でた。
彼(?)こそがポンちゃん5世、異世界からの来訪者にしてフルリスとネリーの友人、ヤマトとナデシコからの贈り物である。今日は執事服を着ているが、それもまた贈り物であった。
「我々メイド一同にお任せいただければ、お好きな服を献上させていただきますが…」
「フルリスちゃんは、自分で作ってあげたいんだよね?」
「はい。再会の折には、ポンちゃんと出迎えたく思うのです」
その言葉にお供は破顔する。
幼い頃から仕えた者、母として側にいた者、両者に共有する悩みは、フルリスの優等生ぶりだった。
500年前の災厄以降に生まれたエルフ、生き残ったエルフにとっての平和の象徴。生まれながらの王族。
その事実を知ってか知らずか、幼い頃からワガママもろくに言わず、母が一時的に倒れた折にも、女王の襲名を迷い無く行った誇り高いエルフ。
人は皆、美点として語るだろう。近しいものからの心配に目を向けず。
「承知いたしました。では、お茶の用意を整えてまいりますね。そのように難しいお顔をされていては、ポンちゃん5世も緊張してしまいます」
メイドの中で、手芸に詳しい者は誰だったか。そんなことを思いながら、ルスィスは部屋を退室する。
彼女の両親は災厄後、平和になった世でエルフの魔法を世のために使うべしという父と、エルフ王家を支えるべしという母が別れた際、母に付いて王家に仕えた。
比較的年若かった彼女は、フルリスの側仕えとして王家に仕えてきた。
そして、長い間見守る内に、可愛い妹のように思ってしまっていることは否定出来ない。
今日も彼女は、フルリスの好む香りの茶葉を選び、夕食に配慮した茶菓子を用意し、いざとなればその身を盾に女王を守る。親愛と忠義の名の下のに。
ちなみに、母は亡くなったが、父は色々あって王都に戻っており、顔を合わせる度に結婚の予定を聴いてくるので、すっかり苦手意識を持ってしまってる。いかな忠臣でも、明かせないことはあるようだ。
そして、彼女の退室を見送ったネリーは、いたずらっぽい笑みでフルリスに接近する。
「…ねー、フルリスちゃん。ヤマトくんとナデシコちゃんったら、学園のみんなにはぬいぐるみの作り方を残していったみたいだよ?……まぁ、ポンちゃんじゃなくてもっと簡単なぬいぐるみの作り方みたいだけど…」
「そうなのですか?…少し羨ましいですね。お姉様に写しをもらえるように頼んでみましょうか?」
ロニア魔法学園の学園長であり、ヤマトとナデシコの担任教師、フルリスの姉のユディット。
自ら王家から出たが、関係は良好である。可愛い妹の頼みなら、すぐに聞いてくれるだろう。
「えー?それよりもさ!じゃーん!学園の制服と教師っぽい変装セット!」
「お母様…まさか……」
「いっちゃおうよ!学園!きっと楽しいよ!」
「……ちなみにお止めした場合は…?」
「わたしが学園で思う存分楽しみます!それはもう後先考えずに!」
「はぁ……お付き合いしますね?……もぅ…」
こうして、フルリスは母に巻き込まれる。その呆れの表情に僅かな喜色が混じるのを、ネリーは教えない。いかに母親であっても、子供に自分で気付いて欲しいことがあるのだ。
こうして、親子エルフはこっそり楽しみ、従者の頭痛は止まない。
エサルカ城には、永い日々を充実させる為にエルフが集う。『世界樹』がいずれ大樹となるまでの、短い間に。




