表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【学園編完結】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:学園編おまけ・貴族令嬢編】  作者: 沢クリム
『緑ノ章 愛歌のロニア』 第七節『紡がれる前奏曲』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
249/269

240.暗がりの探索者。落葉、集う場所。

 


 時は少々遡り、『若葉組』の森林探索最終日。

 場所は、『ミール湖』周辺の森林地帯。周辺は木々の影が落ち、若干暗くなっている。


 Bランク冒険者『夜明けの妖精』。

 前衛は二人、リーダーでもあり中衛が一人、後衛が二人。その内の一人は治癒術の使い手

 ロニア魔法学園卒業者5人で構成されるその冒険者パーティーは、学生時代から優等生であり、冒険者としても優等生と言えた。

 依頼失敗は結成時からゼロ。無理はしないし、背伸びもしない。


 今日の調査依頼は、学園名義で出された森林の調査依頼。

 昼間に出現したという『レイクリザードマン・コマンダー』。

 時間帯もさることながら、迷宮内ならまだしも、上位種の魔物が自然発生したという異常を調査するのが、彼女たちの任務だった。


 通常、魔物は夜間に自然発生し、下位種から周辺の生物や自然豊かな大気から魔力を取り込み、上位種に至る。

 緊急性も高く、魔力に対する知識も必要な調査依頼が出た時に、彼女らが居たのは王都冒険者ギルドにとって幸運だった。



「これで周辺調査も半分は終わりね。それでは各自報告を」


 仲間に呼びかけたのは、ユディットとも話した『夜明けの妖精』リーダー。

 現場に到着後、まずは件の魔物の出現場所周辺の調査に乗り出した彼女らは、辺りに魔物の魔力を感知出来ないことを確認してから、別れて行動した。


 結果は異常なし。別れても、魔物は探知出来ず、植生なども調査の範囲だったが、そちらも空振りに終わった。


「…ちなみに、ユディット様から言われたことは?」


 パーティーメンバー以外居ないこの場ではあるが、リーダーは声を潜めた。

 メンバーは無言で首を振る。全員が、ふぅ、と息を吐き、力を抜いた。



 ユディットは『夜明けの妖精』と出会った際、一つ助言を与えていた。


『……キミ達が調査を行う際、通常であれば、周辺の魔物や自然を対象にするだろうが……今日は、人為的な仕掛け、細工が無いかも確認したまえ』



 魔物の出現に『人』が関わっている可能性。

 世界が平和になり、犯罪も限りなく少ない世代の彼らにとって、それは考えにも及ばないことだった。

 事実、その助言で普段より注意深く調査を行ったといってもいい。



「あれって、緊張感をもって調査しなさい、っていうユディット様のアドバイスだったのかしら?」

「あらゆる可能性を考慮しなさい、って意味だったとか?」

「つまり、わたし達、卒業してから授業してもらえた、って事!?」


 キャー、と前衛二人と後衛の魔法使いが盛り上がる。

 リーダーは注意しようとも思ったが、先ほどの邂逅の際、興奮気味だった自分を振り返り、頭を掻くに留めた。王都民にとって、ユディットへの憧れは共感出来るものだった。


 しかし、そこで三人のノリにも合わせず、周囲を見ていた治癒術師を見つけた。


「どうかしたの?」

「あ、リーダー。実は、魔力は感じなかったんだけど、視線を感じた気がして…」

「ふむ…」


 疑心暗鬼、そのような話題が出た後だからありもしない視線を感じた、と片づけるのは簡単だが、ここでも優等生振りは発揮された。


「はい!注目!この後の残りの半分は5人で行いましょう。例の出現場所も含まれてるから、念のためね!」


 その言葉に、騒いでいた三人も表情を引き締めて頷いた。治癒術師も、安堵の息を吐いた。


「ちなみに、ユディット様から調査が終わった後、冒険者ギルドの前に湖畔の別荘でも報告してくれれば、屋敷の者からお茶が出るって言づてをもらってるわ!」

「早く言いなさいよ!」

「どんな異変も見逃さないわ!」

「むしろ異変をやっつける!」

「が、頑張ります!」


 士気は大幅に向上した。

 そこで自分だけに知らされた意味を理解して、極めて冷静であろうと改めて気を引き締めるリーダーだった。



「やれやれ、血気盛んで大変結構。念のための確認で、鉢合わせなんざ、まっぴらごめん。それでは、あっしはここいらで……」


 蝶ネクタイに紳士帽をした黒い猫型獣人が一人、森の影に消えたことを、彼女らは幸運にも気付かなかった。



『ミール湖』の別荘のメイドに届いた報告、王都冒険者ギルドにあげられた報告文、そのどちらも結論は『異常なし』。一人が感じた視線のことは省略された。

 やがて、この報告も日々の中に埋もれ、突発的異常事態の一例としての役割を果たすのみとなった。




 時は流れ、約一ヶ月後。

 森林の木陰など、比較にならないほど闇が濃密な暗所にて、猫型獣人は脱帽の上、跪いていた。


「以上、『リザードマン・ネクロマンサー』になるはずだった個体の報告と相成りました」


 ―――そうか。これまで討伐された魔物を操る個体の実験は成せず、か。元より量産は出来ず、発生直後では容易に討伐可能。これも失敗としておこう。


 響く声。その声に、落胆もなければ、苛立ちもない。感情による色は無く、例えるなら黒い声だった。


「それでは、あっしはここいらで…」


 ―――待て。


 猫型獣人は、完全に動きを止めた。無論、なんの魔法でもない。自主的に呼吸さえ止めた。


 ―――疑問がある。どうして直接、報告に来た?『例の二人』を観測するものだと、想定していたのだが?


「……いえ、『例のお二人さん』は、どうにも海洋都市に向かうそうでしてね」


 ―――理解した。かの地への干渉、約定により行わない。いや、黒爪こくそう、先の質問も干渉か?


「約定は直接干渉のみが対象。問題ありませんや」


 ―――ならば、よい。


 それを機に、黒い声の気配が遠ざかる。それからしばらくたった後、黒爪と呼ばれた猫型獣人は、帽子を深く被った。

 上下の牙をかみ合わせる音は、暗がりと猫の頭蓋の中にのみ響いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ