238.若葉から青葉へ③。未来の話をしよう。
日は沈み、夜。『ミール湖』に星空が映る頃。
王城勤めの料理人であるイザベラの父親と、メイドエルフのルスィスさんが作った豪勢な夕食を終えたところだ。二人は昼間から仕込みをしていたそうだ。両王家共演の宴席であった。
ちなみにライリーの両親も食材の配達という形で参戦しており、そのまま退散するつもりのようだったが、引き留められて一緒にご飯を食べた。
引き留めた面子が、伝説の英雄、王妃、先代女王ではどう主張しても無理だろう。
知らなかったのか、別荘からは逃げられない…!
そうそうたる面子の大人組は現在、懇親会という名の酒宴へ。
ネリーが俺達の話を元に作ったトークサイコロ、六面全てが何かしらの恋バナというイカサマダイスを持っていたような気がする。
流石恋物語マニア、既婚者子持ち相手でもその収集対象らしい。
そして、子供組は五つのベッドがある大部屋にひとまとめになっている。
「あー、お腹いっぱい。緊張して食べられないと思ったけど、美味しいからどんどん食べちゃった」
「父上の料理は凄いのです。もちろん、食後のルスィスさんの甘味も素晴らしい腕前でした」
「油物、お米、甘味。節制を忘れる口実、昼間の水泳に感謝ですわね」
王都の総仕上げのような夕食を振り返るのは、ライリー、イザベラ、メグ。
「つまり、私のおかげね!」
「部分的にそう」
全員を水に叩き落としたナデシコは胸を張り、俺はそんな彼女を一部肯定するに留めておくのだった。
「というか、てっきり日帰りだと思ったんだが、泊まりなんだな」
「学園はどうするのよ、みんな」
ちなみに、俺達の着替えについては『取り寄せバックパック』があるので問題ない。チートアイテム様々だった。
「先生ってば、そんなことまで兄貴と姉貴に黙ってたのね…。明日は休みよ?」
「舞踏会の準備、片付けが思ったより大事になったそうなので、学園の休養日が今週に限り、二日になると聞いていますわ。
実際、軽く探りを入れただけでも、高等部生は連日の準備で疲労が溜まっているようでしたわ。
当日そう見えなかったのは、恐らく気分高揚によるものではないかと思いますの」
メグの分析を聞くに、最高にハイってやつだったのか。
実は、今思い返せば、高等部に数人いる知り合いも当日はテンションが高かった気がする。
「…あえて兄上と姉上に伝えなかったのでしょうね。…おそらく、今日の計画を勘づかせないために」
「だから、いくつ企んでるんだ、あの先生」
「その質問した時も、学園関連の諸々は省略する、なんて言ってたしね」
今月初めに試験という名の勝負には勝ったのだが、色んな意味でまるで勝てる気がしない。
「それより、皆様?…我々は昨日、お兄様とお姉様の卒業式でこれまでのことについては、ほぼ全てを語り尽くしたと思いますの。
であれば、今日話すべきは未来の話とまいりませんこと?」
「おお、メグがなんか深いこと言ってるな」
「ま、メグが気取った時は、それこそ何かの企みでしょ?兄貴」
ライリーの茶々に、メグは一瞬だけ眉を動かしたが、特に否定はしないようだ。指摘が当たったのだろう。
「進路の話?」
「それこそ、今度お会いした時の話になると思います。姉上」
ナデシコにもイザベラにも心当たりはないようだ。
未来、それこそ選択肢は無限大だ。ピンポイントで当てるのは難しい。
「焦らしても仕方ないので話しますわね。…ずばり!今日の寝床の場所割りですわ!」
思ったより直近で、子供っぽい話だった。
「とりあえず俺は端で」
「で、私は隣ね。後は三人で埋めてよ」
「「「却下」」」
俺とナデシコの常識的な提案は、秒で却下された。なんでさ。
この世界は極端に犯罪率が低い。
しかし、以前の森林探索で訪れた時に別室だったことからも分かるように、常識的にこの年齢の男女は同じ部屋で寝るべきではないという点は、両世界共通だ。
この男女比1:4という寝室の状況が許されてるのも、ナデシコという恋人の存在と知り合いからの信頼を担保にしているからである。
後は…まぁ、思い出作り、という大人組からの配慮かな。もうすぐ、王都を旅立つ前の俺達への。
「なに常識的な大人ぶってんのよ。いいじゃない、今日くらい」
「よかねぇよ。ご両親も別室にいるっての」
「では、こうしましょう。中心に兄上と姉上が同じベッドで、その両隣をわたし達が固めるということで」
「うーん、私的には構わないけど、倫理的には大問題ね」
いつもと逆だった。
この世界の常識にとらわれない俺達に振り回される3人娘という日常から、俺達が振り回される非日常へ。
「まぁまぁ、皆様?主義主張、違えば……ということで、こちらで勝負しませんこと?」
メグは、いつかのトランプを取り出した。後で聞いた話では、ユディット先生から借りていたそうだ。
「いいわね!アタシ達といざ勝負よ!姉貴、兄貴!」
「此度は三対二、団体戦と参りましょう」
ああ、どうやら企み通りらしい。
恐らく、この勝負のための一芝居。仲良くなりすぎた俺達との勝負のきっかけ作り。
「上等よ!受けて立つわ!」
「いや、違うな。受けて、勝つ!」
それに乗る。互いに言葉とは裏腹な笑顔を交わして。
夏の夜。白熱した勝負は、今後の展望なども語りながら、のんびりと、少し寝不足になるまで続けられた。




