237.若葉から青葉へ②。騒ぎは止めどなく。
俺達が『ミール湖』へ向かう道中。三人ほど人員の補充があった。
その増員メンバーと、現地で先回りしていた面々。それらが今、湖の畔に大集合しているわけだが……。
「まぁ、卒業旅行といいつつ…さ」
「わたし達も居るのです」
「何より驚嘆すべきは、保護者をいつの間にか説得していた先生方の手腕ですわね…」
増員メンバーとはお察しの通り、ライリー、イザベラ、メグの三人娘である。ちなみにみんな水着だ。
いや、昨日綺麗に別れたのに…!
「てか、全員拉致同然だったよな?」
「……本人の同意、保護者の同意、これがあれば問題ないとも。…保護者の交渉には多少苦戦したが…」
そう言いながら、ユディット先生は視線を移す。
「まぁ、イングリット、貴方反対でもしましたの?」
「私には覚えがありませんね。ヴァイオレット様…いえ、今日は一保護者である、ヴィオさん」
「あら、私としたことが、うっかりしてましたわ、インディさん」
そこに居たのは、ミッドガルド王家の王妃と護衛官、改め保護者の二人。
もちろん水着だ。イングリットさんは引き締まった肢体を紺の水着で包み、ヴァイオレット様は豊満な肢体を紫で覆っている。二人とも別方向でスタイルがいい。
そして、お忘れかもしれないので言っておくと、こちらの世界の水着はワンピースタイプは存在しないのか、ビキニタイプオンリーなのだ。
ジロジロみては俺の首が危ないので、あまり見ないように気を付けよう。
「そう言えば、母上は王妃様と同い年だったような…」
「では、もしかして、お母様とイングリットさんは…」
「……元、同級生になる、ね。…ヴァイオレットくんは中等部から高等部まで一度も欠けずに学年主席であり続けた。…イングリットくんは中等部過程終了後、騎士学校への編入を希望したので、ワタシが一筆書いたことを覚えている」
なんか同窓会まで開かれてたらしい。その情報に娘二人は驚き目を開いているが、同級生主従は微笑むのみだ。
ライリーはその様子を楽しげに見続けていた。
「あんたら大変ねー。保護者同伴なんて」
「……ちなみにライリーくんのお母様は、夕方合流予定だ」
「ウチ、一般家庭なんだけど!?」
元冒険者の父と商家の娘の間に生まれたライリーは、ほぼロイヤルな面子を見て叫んだ。どんまい。
「……問題ないだろう。…彼女はヴァイオレットくんとイングリットくんの一つ上の学年、商家の出の子達をまとめ上げ、貴族相手にも一歩も引いてなかった、と言っておこう」
「まぁ、あの方のお子さんでしたのね。いらっしゃるのなら、ご挨拶をしておきましょうか、インディさん」
「先輩にはお世話になりましたね。ヴィオさん」
人に歴史あり。3人娘の前日譚は、親世代まで遡るらしい。
そして、それも見てきたエルフのユディット先生。彼女にとっては、それは続き物なのだろう。
「……ママってば一体何を……いや、聞きたくないです」
ライリーの両肩に背後からそっと手が置かれた、イザベラとメグである。
三人は何かを分けあったように、頷きあって、ため息を一つ零した。
「どうしたの、みんな?元気出して!」
そんな三人を抱きしめたのはネリー。今日は出会って以来の水着である。色は黒。
「私としては、両親の話で肩を落としたくなる気持ちも分かりますけどね…」
控えめに3人娘への同意を示したのはフルリス。女王様は朝一で仕事を片付けて、合流してくれたようだ。
白い水着を着ての来訪だが、態度と違いボディラインの方はまったくもって控えめではない。
俺の視界、どこを向いても危険地帯だ。
「それにしても、ナデシコ、今日は大人しいな」
「別に?卒業生のヨユーってやつ?」
安全地帯は幼なじみのナデシコだ。もちろん、その水着姿も今日も輝かんばかりだが、俺達の関係からすれば、見ていても非難されることはない。
公認の仲というやつだ。しかも、王都にあるエルフ王家ユグドラシルと人間王家ミッドガルドの。我ながら随分話がでかくなったな。
思えば、今日のナデシコは特に3人娘から距離を置きがちというか、拉致…違った合流の後も、俺を挟んで会話してた。無論、更衣室である別荘の中の様子は分からないが。
「……ふむ…ナデシコくん、いいかな?」
「ん?どうしたの?ユディット先生?」
「……少し、耳を借りるとしよう…」
ユディット先生が何か囁くと、ナデシコは一瞬ぎょっとしたものの、観念したように帽子とサングラスをとった。
「ま、バレてちゃ仕方ないわね…。三人とも!あと、ヤマトも!暇してる大人連中も!折角、湖に来たんだから泳ぐわよ!」
「は?姉貴!?」
「姉上、急に何を!」
「してるのですのー!!」
「あっはは!わーい!」
「お母様ー!?」
―――バッチャーン!!
ナデシコは3人娘と先代エルフ女王、現在エルフ女王も巻き込んで湖に飛び込んだ。
「おやおや…」
「まぁ…」
娘達を見守る主従コンビも驚きの勢いだ。
「ユディット様、どんな魔法を掛けたのですか?」
「……なに、単純なことだ。…キミの瞳の赤みなど、水に飛び込んでしまえば分からなくなる、と言っただけさ…」
副担任エマ先生の疑問に、ユディット先生はどこか得意げに答えた。
「ヤマトー!早く来なさーい!」
「ああ!今行く!」
俺も湖に飛び込む。上がる水柱は、祝砲のように天にあがった。




