235.若葉からの卒業③。二人から。
「……ヤマトくん、ナデシコくん、こちらに」
「「はい!」」
二人で、先生の前に出る。妹分達、それから二人の先生の視線を感じる。
今日だけでも何度も伝えられた親しみや感謝、それを受け止めらるように背筋を伸ばした。
「……二人は、『ロニア魔法学園特別調査員』として、学園に所属してもらう。…そこに報告義務や、レポート等の提出書類、帰還時期の指定は一切ない。…しかし、いつか二人共、また来てくれるだろうか?」
「もちろん!報告義務なんてなくても、また来た時にお話くらいさせてもらうわ!」
「レポートはなくても、手紙を書いてもいいんだろ?」
「……そうしてくれると、ありがたい、な。…キミ達からの手紙を読みながら読むお茶の味は、実に味わい深いだろう。…そして、ワタシの研究室には、椅子を二つ、常に用意することにしよう」
だったら、来るときは昼下がりがいいかも知れない。ユディット先生のお菓子とお茶はうまいのだ。
「……ヤマトくん、キミには明確な課題があるね。…その達成方法も、おぼろげながら見えているはずだ。…己が理想を武器に付与する。それは達人達の『極み』とも呼ばれる領域……どこまでも、進みたまえ」
「ああ。自分のモノにしてみせる」
守るために、並び立つ為に、切り開くために。俺の鍛錬に、きっと果てはない。
卒業証書代わりの青緑鞘のナイフを受け取る。腰の刀に比べれば軽いのに、ずっしりと明確な重さを感じた。しかし、これから常に携帯するには丁度いい重さだ。
「……ナデシコくん、自分の力を把握することは大切だ。…力に飲まれず、己の力を支配せよ。…だが、忘れないでほしい。…キミは一人ではない。恐れも戸惑いも抱いたまま、弱音を零しながらでも、強くなれることを」
「ええ。私は私よ、他の誰でもないし、なにより一人ぼっちじゃないわ!」
ナデシコが受け取ったナイフを、鞘と持ち手でしっかり握る。この先、落とすことないだろう。
俺も隣で支えられる距離にいるからな。
「さて、ライリー、イザベラ、メグ!こっちに集合!」
「いや、もう集まっているからな…?」
ナデシコの急な面倒くさい体育会系の先輩ムーブ。しかし、年下ながら、学園で先輩なのは三人の方だ。
それでも、軽く苦笑しながらも、三人はより近くに寄ってきた。先輩方は寛大らしい。
「みんな大好きよ!頑張りなさい、以上!」
「え?終わり?」
「短すぎませんか?」
「もっと、こう…なにか、ありませんの?」
「そういう気の利いたことは、ヤマトの担当なの!」
「…え?俺?」
そういうと、ナデシコはふんぞり返ったように、天を仰いだ。そして、すこし震えるその肩を見て、察した。
きっと、ナデシコは不器用と思われても、カッコいい姉貴分で居る事を選んだのだろう。
その事に気付いたのは、俺だけではない。三人は、そのナデシコを包むように抱きついた。
じゃあ、仕方ないな。ナデシコの分まで俺が伝えよう。ナデシコの伝えたかったことも、察して。
「ライリー。思えば一番最初に勝負したのはナデシコとライリーだったな。その気合いがあれば怖いものなしだ。きっとなんでも出来るさ」
「……我ながら、厄介な相手に喧嘩を売ったわ。でも、あれ程やって良かった喧嘩はなかったわ。ね?姉貴?」
「……うん、そうね」
「イザベラ。お菓子も魔法も勉強も、それから友達も、みんなイザベラの剣を強くする。しっかりな」
「はい、何一つ疎かにせず、お二人の妹分は強くなります。姉上、応援いただけますか?」
「…しっかりね、イザベラ」
「メグ。色々気苦労をかけた。ツッコミを入れてくれるから、つい甘えてしまった。でも、メグも楽しかっただろ?」
「ええ。楽しませていただきましたわ。お姉様、労いをいただいてもよろしくて?」
「…よくやったわね、メグ」
俺が語りかけ、みんなが返答し、ナデシコがその頭を撫でる。
一つ終わる度に、鼻を啜る音が増えていった。でも、みんな意地っ張りだ。誰も涙は零さなかった。
「よし!妹分パワー吸収完了!…元気、いっぱいもらったわ。ありがとね、ライリー、イザベラ、メグ」
「今更新しい能力?」
「姉上は油断なりませんね」
「まったくですわ」
ドレスにも関わらず、力こぶを見せつけるナデシコのポーズに三人はあきれ顔。
その後、四人は揺れる瞳で真っ直ぐ見つめ合い。その身体を離した。
「……皆を見守れた日々、ワタシは忘れない、よ?」
「初めての受け持ちがこのクラスで本当によかったと思います」
ユディット先生とエマ先生が俺達を見て、微笑んでいた。
二人の目元の化粧が薄まり、端が濡れたハンカチをエマ先生が持っていた。
決定的瞬間を見逃した事を少しだけ後悔。
でも、みんな笑顔だった、という戦果はきっとこのクラス全員で得たのだ。誇らしい戦果だ、思わず鼻をすする。
「……というか、先生達にも言いたいことがあるんだよ!」
「そうね!締めにはまだ早いわ!」
教師二人は、俺達の大声に思わず、一歩下がった。
「ユディット先生!何から何までお世話になりました!私達、このご恩を忘れません!」
「エマ先生!二つの世界の先生で、今まで一番わかりやすい授業だった!尊敬してます!」
「「先生、ありがとうございました!」」
ナデシコと二人、深く頭を下げる。
その勢いに、二人が苦笑し、みんなで笑うまで、10秒。
王都で出来た知り合いまで、教室に駆けつけ、一騒ぎ起きるまで、5分。
教室の片付けを始めるまで、1時間。
また語りながら校舎を出るまで、2時間。
借家での楽しい卒業記念の食事会まで、2時間半。
皆を見送るまで、4時間。
ナデシコと二人きりで、涙を落とすまで4時間、10秒。
そして、俺達の学園での日々は、終わった。




