234.若葉からの卒業②。みんなから、二人へ。
―――ボシュッ!
「「「「「眩しッ!」」」」」
「……すまない、近過ぎたようだ」
「ユディット様…」
俺達を教室で迎えたのは、眩しいフラッシュとその燃焼音だった。
その後続く、ユディット先生の謝罪の声とエマ先生の呆れ声。その表情は見えないが、情けない声だったことは確かだ。
視界が戻り教室を見れば、写真乾板の交換用であろう分厚い布で覆った簡易的な暗室が出来ていた。
写真魔法機は現代のカメラのようにフィルムではなく、写真乾板を暗室で一枚一枚交換しなくてはならないのだ。
いや、何枚撮る気だ…?
「……ワタシとエマでテスト撮影は終わったから、一人一人撮っていこう。…あとは集合写真も撮るとしよう。…遠隔撮影は魔法で再現可能なので、無論ワタシも写るとも」
……もう好きにしたらええ。そんな心の声が生徒一同には響いた。
その後、始まった撮影会。他の生徒がクラス毎で一枚であることを考えると、俺達は随分と贅沢だが、そこは開発者特権としてもらおう。
ついでに、ナデシコの俺達の世界産カメラでも撮影した。こちらは今すぐ現像は出来ないのだが、ラケルでも撮ったし記念だ。
なお、構図や立ち姿に拘った撮影はなかなかの時間を要した。学園最終日、最後まで先生のペースだった。
「ヤマトさん、ナデシコさん。ありがとうございました」
最後の写真を撮り終え、ユディット先生が暗室に入った時、エマ先生は俺達に頭を下げた。
「エマ先生?」
「どうしたんだ、改まって…」
むしろ、魔法やこの世界の事など多くの事を教えてもらったのは、俺達のほうだ。
「いえ、…写真があれば少しでも永く…残って居られるかな、って思ったんです。あの人の側に…。
それに、写真魔法機の実験で初めに撮られたのは、私ですから、ふとした瞬間に思い出してもらえるかな、って…」
なんとなく、察しがついていた二人の関係が、そこではっきりと分かった。
同性同士、寿命が違う種族、人間とエルフ、二人には二人の物語があったのだろう。
俺達は、そこでは一登場人物に過ぎないのだろうが、貢献出来たのなら幸いだ。
「どういたしまして、ってね」
「お役に立ててなによりだ」
故に、探るような無粋は無粋は犯さない。ナデシコとそろって簡単に返礼するのだった。
「……さて、卒業式といっても、二人は今後も学園の所属だ。…故に、堅苦しい挨拶は省略する。…しかし、約束を果たすと同時に、記念品の授与は行うことにしよう、ね?」
自然体のユディット先生は、授業中のような雰囲気だ。教室がそうさせるのかもしれない。
そして、教壇に置かれたのは五本のナイフ、青緑の鞘を付けた『若葉組』の戦果。
レイクリザードマンのウロコは加工を経て、見事な色になっている。
「……ライリーくん、こちらに」
「はい!」
呼ばれたライリーは元気に返事をして、ユディット先生から両手でナイフを受け取った。俺達の世界での卒業証書の授与式のようだった。
「……キミは、まだまだ強くなるだろう。…その強さの使い道は学びの中で見つけたまえ」
「はい!きっとカッコいい使い方、見つけてみせます!」
カッコいい、か。ナデシコの座右の銘でもあるな。ナイフを受け取ったライリーは、こちらを見た。
「兄貴、姉貴!負けないわよ!」
「上等よ。掛かってらっしゃい!」
「頑張れよ、楽しみにしてるぜ」
宣戦布告は堂々と行われた。
しかし、三者三様の笑顔は、その再戦が未来の約束であると物語っていた。
「……イザベラくん、こちらに」
「はっ!」
呼ばれたイザベラは凜々しく返事をして、ナイフを受け取った。そして、騎士がそうするようにナイフを腰に帯びた。
「……キミの剣、魔法と合わせてどこまで高められるか、非常に興味深い。…キミを見守ろう」
「はい。わたしの信念、貫いてみせます」
騎士のようなその姿、その決意。でも、知っている。それだけが、イザベラの魅力ではないと。
「兄上、姉上、きっといつか披露してみせます。その時は、沢山褒めてくれると嬉しいです!」
「はいはい、お菓子もたっぷりね」
「好きなだけな。でも、剣では負けないからな」
可愛い妹であり、剣のライバル。いつか追いつかれたら、それはそれで楽しいのだろう。
「……メグくん、こちらに」
「かしこまりましたわ」
呼ばれたメグはしとやかに返事をして、優雅にナイフを受け取る。
「……キミと周囲を取り巻く環境は、極めて特殊だ。…受け入れた先、抗った先、そのどちらにも学園での学びを持っていくことを推奨しよう」
「あら?わたくしが選ぶのは、受け入れたいものを受け入れ、抗うものにはどこまでも抗う。そんな、お二人のような道の先ですの」
ある意味誰より堂々と、ユディット先生に答えたメグは、こちらを向いた。
「ワガママ、かしら?お兄様、お姉様」
「メグには丁度いいんじゃない?てか、遠回しに私達をワガママって言ってない?」
「事実だ、受け入れよう。しんどい時には力貸すぜ、メグ」
言ったから、しまった、と思った。
メグはその『言質』に大変満足したように、微笑んだ。
ライリー、イザベラ、メグの番が終わった。次は、俺達の番だ。




