233.若葉からの卒業①。そこまでの企みは数知れず。
時は6の月中頃まで遡る。
たまに行われる研究室でのお茶会。『若葉組』生徒一同、五人は集められ、ユディット先生の話を聞き終わったところだった。
「…つまり、お兄様とお姉様が今後、異世界の品を使うといったボロを出しても、『ユディット先生の協力者』で片付けられるように、新たな制度『ロニア魔法学園特別調査員』を作る、と?」
「……そうなる」
「ついでに、姉貴と兄貴が冒険者じゃないと立ち入れない所にも入れるようにするため、冒険者ランクB級の権限も付けるっての?」
「……そうとも」
「そのことを学園関係者に周知した上で認めさせるさせる為に、学園内で兄上と姉上及び『若葉組』の名声を高めていたのですか?」
「……ワタシの独断だと、後に揉めるかもしれないのでね」
「でもって、その決定打の為、私達に『舞踏会』で出来るだけ目立て、ってことで合ってる?」
「……ああ、加えて、先ほど説明した『写真機』…いや、『写真魔法機』とでも呼ぼうか、その発表を行う。…会場を驚き、感嘆で塗りつぶし、なし崩し的に認めさせることが勝利条件だ」
「質問いいか?」
「……なにかな?ヤマトくん」
「どこからどこまで企んでるんだ?」
「……難しい問いだ、ね。
…キミ達が、王都を訪れる前にお母様と会うことは、希望的予測だった。
…人物像については、アーテナイを惚れ込ませている以上、問題ないと思っていたが…予測を超えて仲良くなって驚いた程だ。
…学園関連のもろもろは、省略するとして。
…住居提供の際の、異世界の知識や物語の日誌。…あれはなにかワタシの欲しい知識をキミ達が保有してないかを知るためであり、キミ達の世界の倫理観を測るためであった、な。
…ゼラチンについては、写真乾板を作成するためのものであったり……」
「「「「「……もういいや」」」」」
「……おや、そう言えば、ナデシコくんから丁度いい言葉を習った所だった、ね」
「え?私?心当たりないんだけど…」
「……このユディットは、なにからなにまで計算づくって、ね?」
「ユディット様、その台詞はあまり多用しないで下さいよ?」
「……なかなか気に入ったのだが、エマがそう言うなら仕方ない、な」
ユディット先生は副担任であるエマ先生の釘を刺されて、肩をすくめた。
時間は戻り、舞踏会当日。
もくろみ通り大歓声をかっさらった俺達だったのだが…。
「まさか、お母様まで参戦してくるとは思いませんでしたわ……」
歩きながらメグが零す。
貴賓席から拍手をしながらやって来た王妃、ヴァイオレット様は、私からも、と言いながら俺達に王都騎士学校の入学試験免除を言い渡したのだ。
つまり、その気になれば、俺とナデシコは明日からでも、官僚コースまであるという王都騎士学校に通える。いや、通わないが。
「フルリス様からは、姉貴と兄貴に『エサルカ城』への無期限立ち入り許可、だっけ?……わりと今までもそうだった気がするけど…」
「しかし、公的に認めた事に意味があるのですわ」
ライリーの言葉にも、メグの指摘が入る。
つまり、『お前も職員にならないか』VS『ウチの身内だが?』宣言だったらしい。
やめて、私達の為に争わないで、マジで。
「人間王家、エルフ王家両方からお声が掛かるとは流石ですね、お二人とも」
「両王家ともお友達で十分よ。お供になんかならないわ」
イザベラの言葉に、なんてことないと返したナデシコだった。
しかし、あの場ではそうは言えない雰囲気があった。
それは俺も感じた、双方向からのプレッシャーのせいだろう。
「ま、あの場は、ユデッィト先生が収めてくれたから助かったんだがな」
ユディット先生は言葉巧みに、両王家を穏便に貴賓席に戻し、『写真魔法機』の公開試験を提案した。
これには、今日という日に着飾った学園生は大歓喜。素材の都合で、クラス毎の撮影になるらしいのだが
、小さなことだろう。
ユディット先生は予備の『写真魔法機』を他の教師に預け、教師を含む『若葉組』は大講堂からの脱出に成功したのだった。今頃大講堂では、化粧直しや撮影順で大変な混乱の最中かもしれない。
飛ぶ鳥、後を濁しまくって、もはや真っ白だ。
今、俺達『若葉組』生徒一同は、他に誰も居ない廊下をゆっくり歩いている。
教師陣は、一足先に教室に向かった。俺とナデシコの最終準備だろう。
俺達への最後の指示は、皆で思い出話をしながら来るように、というあまりに難度の低い課題だった。
「姉貴、兄貴!見なさい!この廊下からも、みんなで行ってた演習場が見えるわ!」
「お兄様、お姉様。反対側には食堂が見えますわよ?」
「遠くに見えるのは、研究室でしょうか?兄上と姉上、先生達も一緒に食べた甘味、美味しかったですよね…」
廊下を進む歩みは、非常に遅かった。
なにかあれば、何か見つければ、そこで立ち止まり、思い出話に花を咲かせる。
思い出の中で見る景色には、みんなの笑い声が入ってる。
それは、卒業までの花道だった。
期間はたった二ヶ月だ。でも、こんなにも道を彩る花は敷き詰められていた。
だけど、いつまでも感傷に浸らない。「今」この瞬間を刻みつけたいから。
やがて、教室の扉の前まで来た。示し合わせたわけでもないのに、皆が無言で立ち止まる。それも一瞬、ナデシコは大きく息を吸い込む。そして、
「さぁ!行くわよ!」
「「「「応ッ!」」」」
ナデシコの号令と俺達の重なった声が、無人の校舎に響いた。
あとでこの場違いなテンションも、きっと笑い話になるのだ。
その時には、今の背伸び分くらいの身長が伸びているのだろう。




