231.縁と緑の舞踏会⑮。異世界舞踊。
俺とイザベラの『曲芸』も終わり、今はメグが全体の注目を集めている。異なる属性の魔法球を出し、それを自在に操っているのだ。魔法学園らしい演目とも言える。
そう、メグは異なる属性を同時に生み出すところまで、魔法の精度を高めていた。
本人曰く、まだ混ぜ合わせて使う事も出来ないし、形状も基本的な球状しか、などと謙遜していたが、その年では天才的な魔力と属性の制御だという。
その血筋を知らない生徒も、メグには一目置くだろう。
メグの単独公演。その間に、肉体演目の四人で休憩兼、女子のお化粧直し。俺も汗を拭っておく。
使った木剣と木刀をルスィスさんに渡し、再び『姫桜』を腰へ。お察しの通り、この『作戦』にはエルフ王家の全面協力でお送りしています。
「ったく、打ち合わせの時にないことやっちゃって…。私もだけど」
「そうだな。メグには悪いことをした」
「メグのやつ、結構焦ってたわよ、イザベラ」
「この度はわたしが全面的に悪いので、あとで謝ります。でも、ライリーも一緒ですよ?」
4人で謝るか、などと軽口を叩いてる内に、メグの演目は大盛況の内に幕を閉じた。
ちらりと来賓席を見れば、ヴァイオレット様も拍手をしていた。よく見ていたのだろう。
「さぁ、皆様。我ら『若葉組』、最後にお見せするのは、今日の舞踏会に相応しき舞踊。題をつけるなら、そうですわね…『異世界』としておきましょうか?」
「「!?」」
その演目名に、俺とナデシコが思わず目を見開いた。打ち合わせでは、題などなかったはずだが…。
ああ、そうか、ちょっとしたイタズラだ。メグもまた、いい子なだけではない。『若葉組』の一員だな。
挑発的な題目に驚きはしたが、よりやる気が出てきた。
配置につく、白と黒の俺とナデシコが中心で、桃のライリー、紺のイザベラ、金色のメグがその周辺を囲う。
「それでは、異なる世界に居るのような一時をご堪能あれ」
メグの言葉と同時に音楽が始まる。3人娘の円環の舞は、規則的であり、その色の鮮やかさから目を引きつける。
だが、やはり魔法学園の関係者、俺とナデシコにも注目が集まっている。魔力を合わせ、高ぶらせている俺達に。
「――『天衣無法』」
「――『開花仙現』」
小さい呟く。ルーティンの一部になったその詠唱が終われば、変わる。
ナデシコは髪白くなり、それと同色のツバサを生やし、俺の髪が桜色に染まる。
色を訂正しよう。ナデシコは黒一色から、黒と白のモノクロへ。白い儀礼服と黒髪の組み合わせから、白と桜色の淡い組み合わせへ。
会場にどよめきが起こった。今の俺達は、常識から外れた存在、それこそ異なる世界のものであると、分かりやすいだろう。
どよめきから混乱に変わる前、ナデシコがふわりと飛び立った。
羽ばたきもないその飛翔は、あまりにも神秘的で、舞台じみていた。
俺とナデシコはお互いに手を伸ばす、まるで抗えない何かに引き離されるように、その手は離れた。
ナデシコは宙に1人、たたずみ顔を覆う。俺は、ゆっくりと膝を突く。
これは自分たちで考えた演出なのだが、縁起でもない演技である。バッドエンドは大嫌いだ。だから、ここからは大逆転。
「「「さぁ!お行きなさい!」」」
3人娘はその場で手を上空に掲げる。
その声に、俺は顔を上げ、立ち上がる。そして跳ぶ。
ただの跳躍では、ナデシコの所まで届かない。だから、空中でもう一度跳ぶ。
ナデシコの前の空中に着地。そして、ナデシコに手を差し出す。
「俺と踊ってくれますか?」
「はい、私と踊りましょう」
2人、手を取り合う。
そして、始まるのは、空中でのダンス。身体を密着させた三拍子と円運動の舞踊。
会場は歓声と感嘆に包まれた。
種明かしをすれば、ユディット先生がやっていた空中歩行の応用。
空中ジャンプや、ナデシコの前の空間には、ライリー、イザベラが魔法で作った魔力の足場があった。
メグは緊急事態への備えである。安全面には配慮されているのだ。
空中での踊りは、俺とナデシコの体幹と腕力によって実現している。
ちなみにナデシコのツバサの浮力については、ユディット先生でも解析不可だった。
謎の力と筋力、それが演出の正体だ。ある意味、俺達らしい。
空中で踊りながら、会場を見渡す。みんなの顔がよく見える。
ユディット先生がエマ先生を抱き寄せながら2人で微笑む。教室でよく見た笑みだった。
元気よく手を振るネリーと、控えめに手をふるフルリス。その笑みは良く似ていて、食卓でよく見た笑み。
ルスィスさんを始めとするメイドエルフの皆さん。
あっけにとられてる教師陣の中で、楽しげにしてるフレイヤさん。
ミッドガルド家の貴賓席には、イングリットさんとヴァイオレット様。
挨拶を交わした学園生の顔も見える。初対面であろう人々の顔も。
そして、踊りながら、着地すれば、3人が居た。
イザベラ、ライリー、メグ。クラスメイトであり、妹分であり、ライバル。
彼女らは色鮮やか笑みでこちらを迎える。
……ああ、間もなく曲が終わる。
メグを中心に、その両脇に俺とナデシコ。その隣に、イザベラとライリー。
一列でメグ仕込みの優雅な礼をするはずだった俺達は、気付ば、お互いの手を握っていた。
最初の勝負の時からそうだった。計画通りに行かない、自分勝手な集団。『若葉組』。
曲の終わりを惜しむほど、離れががたい。でも、ここで沈んだ顔をする者は1人たりとも居ない。
切なさなんかに邪魔させない。感動なんかで誤魔化さない。青春劇は胸を張って堂々と行うのだ。
「本日はご覧いただき…」
「「「「「ありがとう、ごさいました…!」」」」」
故に『若葉組』生徒一同は、通る声を発した。頭を下げ、拍手を受けて、顔を上げる。もちろん、笑顔で。
―――ボシュッ!
その瞬間、聞き慣れない音が鳴った。俺達に向けられた拍手も一旦止まり、その音のした方、大階段の踊り場に数多くの視線が吸い寄せられる。
「……ありがとう、『若葉組』生徒の諸君。…次は、『若葉組』教師の番だ」
ユディット先生の褒めるような笑み。つまり、ここからは『作戦』第二段階だ。




