230.縁と緑の舞踏会⑭。目立つことは大得意。
俺達『若葉組』の作戦。それは、この後の発表の為にも、とにかく目立つこと。
それなりに、自重してきた、つもり、の俺とナデシコにとってその申し出は、あまりにも容易いことだった。それに、今は心強い妹分達も居る。
「皆様、ご紹介にあずかりました。我らは『若葉組』。わたくしはマーガレット、親しみを込めてメグと読んで頂ければ、幸いですわ。
我々は日々、ユディット先生のご指導の下、日々鍛錬を続けて参りました。本日はその一端を、披露いたしますわ」
座長のように挨拶をしたのはメグ。
学園の生徒中の注目を集めても物怖じせず、微笑み一つで受け止めてしまう。俺達のパーティーリーダーだ。
その優雅な一礼に続くのは、ナデシコとライリー。
2人は、左手のひらで右拳を包む『抱拳礼』の型を取った。
ちなみに、ナデシコの発案で、ライリーもすっかり気に入ってしまった。やっぱり感性が似てる2人だった。
「ロニア魔法学園『若葉組』、ナデシコ」「同じく、ライリー」
「「瞬き禁止でご覧あれ!」」
――パァン!
2人の手の平、手の甲がぶつかる破裂音。それが演武の開始の合図だった。
演武とは、武芸や武術の技、型を披露することなのだが、2人の技はまったく実践的ではない。
「はッ!」「やッ!」
それは派手なアクションだった。一撃を受けた後は派手に飛び、投げ技では一回転し、見事に着地する。
特撮やカンフーアクション、プロレス。ナデシコの原点とも言える見栄えと格好良さの世界。
それを、魔力で強化した身体能力で実現している。
ちなみに、下着は見えないように演武が組まれてる。念のため、運動用の短いズボンもはいている。
「答えろ!我ら!ロニア魔法学園『若葉組』は!」
「王都の学徒!」
「勤勉!」
「実直!」
「「月破嬌乱!」」
いきなりの相殺ラッシュの後、拳を激しく付き合わせた2人。
……おい、その台詞、打ち合わせの時になかっただろ…。やりやがったな、2人とも。
「「見よ!学園に風が吹いているぅぅぅぅ!!!」」
2人の後ろで風が爆発した。
ちなみに、安全に十分に配慮されていると言っておこう。なんせ、演出用の魔法を使ったのはメグだ。
学園の生徒は今、ライリーとナデシコを見ている。しかし、教師陣やエルフメイド、一部の高等部生徒はメグを見ている。
その魔力の精度に関心してるのだろう。…使い方に呆れてるとも考えられるが。
「「ありがとうごさいましたッ!」」
ともかく、2人のターンは終わった。今度は、俺達の番だ。
2人が注目を集めている内に、ルスィスさんからイザベラは木剣を、俺は腰の『姫桜』を渡し、木刀を受け取っていた。
「ロニア魔法学園『若葉組』、ヤマト」「同じく、イザベラ」
「「いざ参るッ!」」
――カァン!
俺達の演武、それは最初の一太刀のぶつけ合いこそ音を響かせたが、後に続くぶつけ合いはゆっくりと始まった。
この世界、対魔物戦に特化した剣術が一般的だ。もちろん、イザベラのお母さん、イングリットさんは達人故に、その対魔物剣術を対人に応用している。
だから、今日は軽く、付与の方向性も軽さに特化させ、徐々に早くし、周囲を驚かせる曲芸程度に留めるつもりだった。
だが、徐々に早くなると同時に、その太刀筋には鋭く、重くなっていった。
「兄上、やはり、わたしは我慢が出来なかったようです」
「……仕方ねぇな、来いよ。いつでもいいぜ?」
イザベラは苦笑し、俺は笑った。そして、イザベラは嬉しそうに微笑んだ。
――カンッ!
瞬間、馴れ合いが終わった。
平突き。刀身を水平に寝かせた状態で、相手の喉元を狙って突く古流剣術の技法。
それを俺は紙一重で叩き落とした
イザベラは天才だ。教えれば教えるほどに、その剣は研ぎ澄まされていった。
それを自己解釈し、己に取り込んでいったのだ。思えば、水泳の時からその片鱗はあった。そして、その自己解釈の果て、イザベラは今まさに目覚めた。
――殺人剣開眼。
イザベラは、こちらの世界で、俺から人を殺す剣を覚えた。だがそこに殺意はない。殺人剣を一つの型にとして、身につけたのだ。
「さぁ!兄上!受け止めてください!」
「ああ!ちょっとだけだぞ!!」
そこから、俺は目の前に、こちらを殺しに来る可愛い妹の剣を捌くことに集中した。
喉突き、手首を狙う籠手斬り、すねへの打突。人体の構造、特性を理解して、どうやれば殺せるかを突き詰めた殺人技達。それらは、殺意のない状態で繰り出される。
殺意なき殺人剣。
殺意あれば読める。ただの技なら受けても問題ない。
だが、今のイザベラの剣は読めず、受けてもいけない。
故に俺がとった手段は、至極単純。見てから反応する、それだけだ。
意志が読めぬなら、肉体の駆動、わずかな筋肉の収縮を見極める。そして、躱す。防ぐ。後退し、前進し、間合いを潰す。
「やぁあああ!」
「おぉおおお!」
鍔迫り合い。拮抗は一瞬。そこで、俺は木刀を手放した。
「なっ!?」
その木刀が落ち、乾いた音を鳴らす前、俺は木剣を握っていた。
それ即ち、無刀取り。
相手の剣を奪う。一瞬の緩みを見極めた故に、可能となった技。即ち…。
「俺の勝ちだ」
「流石ですね。兄上」
その言葉を何度聞いたか忘れたが、今日くらい素直に受け取っておくか。
後で聞いた話になるが、周囲は剣が分かる人間はドン引き、一般生徒は無邪気に歓声を上げていたという。
ちなみに、メグは途中から頭を抱えたくて仕方なかったそうだ。ごめんね?




