227.縁と緑の舞踏会⑪。円舞曲は始まった。
なんとかヴァイオレット様からの勧誘退けた俺とナデシコ。
あと、途中から自分の娘についても詳しく話して欲しいと言ってきたイングリットさんへの対応も終わった。今日は良く人を褒め、褒めれる日でもあるようだ。
照れくさいという感情も麻痺しそう。
「やっと合流できたわね、兄貴」
「ああ、待たせたな。みんな」
「はい。兄上、姉上と一緒に食べたい甘味に目星を付けておきましたっ」
「作戦もあるんだから、そこそこにしなさいよ?イザベラ」
「わたくしとしては、お二人が『あの方』と話されていた内容にも興味がありますわ」
そんなわけで、ようやく大ホールでの合流が叶ったのだった。大ホールの女生徒は今では大人しい。
と、いうのも、貴賓席の御簾、目隠しが開かれ、両王家の姿が見えるようになったのだ。
俺達にとって見慣れた顔でも、一般生徒にとっては見えれば緊張感が走るものだろう。
「悪いわね、メグ。口止めされてるのよ」
「…本当に何を話しましたの?」
「止めときなさいよ、メグ。胃を痛めるわよ?」
「大丈夫ですよ、ライリー。あの場には母上もいたので心配ありません」
「……イザベラ、好きな甘味、取りに行こうな」
そんなこんなで、俺達は会場を満喫した。
顔見知りとの挨拶や、料理を摘まみつつ雑談をして、これ以上無いほど英気を養った。
やがて、楽器を伴った一団が現れ、チューニングの音が会場に響いた。
こちらの世界の楽器も、似通った物が多い。管楽器や弦楽器、様々だ。名前も把握していないが、響きが似たものも存在する。
収斂進化。
血縁関係の遠い全く異なるグループの生物が、似たような環境や生活スタイルに適応した結果、同じような姿や機能を獲得する現象を指す言葉なのだが、これに近いのかもしれない。
美しい音を出す形を追求して、同じような形の楽器を作ったように。
異なる世界に、同じ学園という文化が出来たように。
卒業という儀式が、この世界にもあるように。
「……皆、楽しんでいるか、ね?」
ユディット先生は、大階段の踊り場、開会の宣言をした所に立っていた。
そこから、学園生を見下ろしていた。学生達は騒がないまでも、色めき立つ。
「……今日、演奏してくれるのは、王都の市民楽団。…幾人か、学園生も参加している。…興味があれば、見学を申し込むといい。…初心者も、歓迎しているそうだ、よ」
改めて目を移せば、その年齢層はバラバラだ。メンバーの構成はエルフ、人間、数は少ないが、ドワーフや獣人も居た。人種の垣根を越えた混成楽団だ。
「……かつて、この世界は、人類種同士で争い合う時代があった。…それを乗り越え、今日、学園に集った諸君に感謝を示そう。…我々、『七天将星』の戦いは、無駄ではなかった」
学園の構成も、楽団の割合に似ている。ライリーの友達にも獣人と思われる女の子がいたし、教員にもドワーフが居る。
みんな仲良く。
安い言葉だ。小学校低学年の学級目標のよう。
だが、世界規模で実施しようとすれば、これほど難しい課題はそうない。
理想だと言ってもいいだろう。
それを実現しようとし、実行した内の一人が、俺達の担任、ユディット先生だ。改めて、誇りに思う。
この先生に教えを受けたことに。
「……さて、語りはここまで、後は…音楽に任せよう。…音に任せ、身体を揺らすのも、誰かを誘い、踊るのもいいだろう。…ああ、ただ、ワタシには先約がある、そこはご了承願おう」
「ユディット様…!?」
側に控えたエマ先生は、ユディット先生に引き寄せられて声を上げていた。…アドリブでやったな、あの先生。
一瞬、ざわついた会場だったが、直後始まった音楽と、その音楽に乗って踊る二人に、誰も何も言えなくなった。
踊り場という舞台で踊る二人は、お互いを見つめ合い、揺れるように踊っている。
……同棲したり、見せつけたり、結局あの二人って……まぁ、言うだけヤボか。
『作戦』は、舞踏会の後半、それまでは、音楽に身を任せるか。
「俺と踊っていただけますか、何者にも染まらない、俺の黒いお姫様」
「喜んで。貴方の光で照らしてみせて、私の白い勇者様」
ナデシコと笑い合う。誘い文句については引き分けにしておこう。
ちなみに、3人娘にも聞かれていたのだが、その視線の色は見えなかった。幸いなことに。
会場に響くのは、三拍子のリズム。1拍目に強いアクセントがある独特の3拍子。躍動感がある音楽。
俺達の世界では、もともとは農民の踊りだったが、またたく間に上流階級の舞踏会を席巻した音楽。
その名前は円舞曲。あるいは、その原型とも言える音楽が、この世界の学園で流れている。




