226.縁と緑の舞踏会⑩。忠言。
「私、お二人を高く評価していますの。
特異な発想のより現在進行形で市場に与えている影響力。アーテナイ様やユディット様を始めとするユグドラシル王家とのコネクション。国庫を使った事業を企画を任せてもいいのでは、と考えていますわ。
無論、部署を新設するとなれば、優秀な部下を付けましょう」
ヴァイオレット様はあくまでもにこやかに、言葉を続ける。
「また、鉱山都市での活躍や、イングリットの話と学園内の噂から察するにその力は、すでに冒険者で例えるところのAランク相当。護衛官入りというのもいいですわね。
…次代の王にとっても心強い支えになるでしょう」
その言葉と同時に、眼下に目を向けた。視線の先にはメグが…いや、マルグリット・ミッドガルド姫がいた。
その時、初めて俺達にも分かるほどに、娘と同じ色の瞳に温かみが宿った気がした。
「ああ、それとも…魔法の研究の道に行きたいのかしら?
ミッドガルド家には、魔法学園や魔法学院への教員推薦枠をもっていますの。
『若葉組』、そう言ったかしら?彼女達とまた変わった日々を過ごされるのも、いいのではないかしら?」
まさに、よりどりみどり、おそらく、元の世界に戻ってもこれほど自由に進路は選べまい。
「この王都、我々の都市を共に、支える一助になって頂けないかしら?」
どこまで知って居るか分からない。だが、破格の待遇というのは分かる。だが……。
ナデシコと顔を見合わせた。頷き合う。
「王妃陛下、僭越ながら一つ、魔法学園で学んだことを披露させてもらっても、よろしいでしょうか?」
「少々、この口調では話しづらく、無礼を働くことになりますが…」
俺とナデシコが揃って頭を下げた。これから言うことは、下手すりゃ無礼打ちされる。
しかも、王妃の隣には、今は敵わないイングリットさんも居る。
なにより、俺達がやらかせば、エルフ王家にも迷惑がかかるかもしれない。
でも、言わずにいられない。一欠片だけ見えた、その本音を見過ごせない。
「構いませんよ?どうか、あなた達の言葉で教えてちょうだい」
微笑みは崩れない。なんならより深まった。深まった隔たりはまるで谷のようだ。
「それじゃ…」「お言葉に甘えて…」
「「メグを舐めんな」」
空気が凍り付いた。微笑みのまま。隣のイングリットさんは目を見開いた。
「メグが私達の残留を望んだ?…いいえ、違うわね。察したんでしょ?…お気に入りのオトモダチが居なくなったら悲しむ、って」
「それが舐めてるってんだよ。…ああ、そう言えば、イザベラにメグを守ってやれ、って言ったのもアンタだろ?イングリットさん越しにな」
イングリットさんの身体は動かない。だが、動揺を表すように眼球が揺れた。
「イザベラは気にしなかったみたいだけどね。なんでか分かる?」
「メグは守られる程弱くないからだ。イザベラは、メグの強さをすぐに分かったみたいだぜ?」
「確かに、たまに抜けてて、策謀家のくせに突拍子もない事に弱かったり、予想外の事には思わず突っ込んじゃう可愛い所もあるけどね。
計画して実行する、それに関しちゃ私達も一目置いてるくらいしっかりした女の子よ」
「仕切り屋で、頑張り屋。冷静なのに、情が深い。時々俺達じゃ見通せない位の遠くを見てる時もあるけど、ノリのいいところもある。友達で、妹分だ」
やっとの事で、ヴァイオレットさんの眉が僅かに揺れた。
「保護者視点で勝手に心配して手を回す。…私もされた経験あるわよ。これでもそこそこお嬢様だったしね。有難いっても思う」
「だから、これは親心を無視した子供の戯れ言に聞こえるかもしれない。それでも、言うぜ。
メグだけじゃ無い、ライリーも、イザベラも俺達の妹分達は、一人も例外なく強い」
故に、
「「余計なお世話だ、親バカ」」
この言葉を選んだのだが、流石に最後の一言は余計だったかもしれない。
しかし、そのお陰で、微笑みはゆっくりと消えた。
「………ふぅ」「………はぁ」
ナデシコと俺の吐いた息だけがそこに流れた。
「「…すいませんでした」」
「出来れば国外追放とかで許してください」
「今の言葉は、周囲や縁者に一切関係ない、俺達の言葉です」
立ち上がり、頭を下げる。始まる前にも下げたがより深く。
この世界でも土下座って有効かな?それとも五体投地の方がいいか?
「……ふふっ……なるほど、学園で学んだことは、あの娘の…あの娘達の強さ、ですのね」
零れた笑み。その声を聞いて、俺達が顔を上げれば、その言葉の主は、眼下を見ていた。ライリーとイザベラに囲まれ、笑っているメグを。
「4月、あの子には、戸惑いがありました。月末には解消された思ったら、5月には、様々な感情が…戸惑い、何かに及ばない自分への怒り、喜び、楽しさ。そして、今月……いえ、ここ数日、寂しさがあったように見えましたの…」
俺達には向けられないその目の色は、王都で何度も見た。少しだけ、羨むほどに。
「つい、傷に目を向けてしまいますの。立ち上がって胸を張っている姿よりも、座り込んで涙を流す光景が焼き付いて、余計な事までしてしまう。…忠言、感謝します。ヤマト殿、ナデシコ女史。
娘達と出会ってくれて、ありがとう」
「もったいないお言葉です」
「寛大なご裁定、感謝します」
それでも、それと似たような色は先生から、ネリーやフルリスからも感じていた。そして、今のヴァイオレット様からも。
「ああ、勿論、二人を高く評価してることは嘘ではありませんのよ?私の手札に欲しいと思ったのも、また事実ですわ。…そうだ。なんなら、私の側仕えでもいかがかしら?」
「いやー、それはちょっと……」
「私達にも事情があるっていうか……」
メグと似ているその微笑みは、先ほどまでの作り物じみた微笑みよりも魅力的で、断るのに苦戦させられた。




