225.縁と緑の舞踏会⑨。王家、ミッドガルド。
「なるほど、私が楽しくおしゃべりしてる間に、ヤマトは二人とよろしくやってた、と?」
「誤解だ。いつも通り、ただの雑談とお菓子の試食をしてたんだよ」
「それがいつも通りなのが、そもそもおかしいんだけど、本当にいつも通りなのよね」
そう。最近ではフルリスも週に2回は遊びに来ているのだ。
ナデシコと合流した俺は、誤解を解きつつもう一つの貴賓席に向かっていた。
人間側の王家、ミッドガルド家。俺達のクラスメイト、メグことマルグリット・ミッドガルドの生家でもある。
「結局、近くは通ったけど、中には入らなかったわよね、ロニア王城」
「用がなかったしな」
エルフの王家、ユグドラシル家が『世界樹の若木』や魔法技術や芸術面で王都を盛り立ててるのに対し、ミッドガルド家が行政や、地方都市や農村の管理を実施している。
俺とナデシコの王都滞在に関しては、ほとんどユディット先生が整えてくれたものあって、行政機関でもある王城とは縁遠かった。
一方、エサルカ城には週一くらいで通っていた。
エルフのお料理教室に講師として招かれたことまであった。
「まぁ、ヤマトの場合、美人人妻剣士と一日中…」
「語弊が凄い」
俺の場合、俺達のクラスメイトであるイザベラのお母さん、王室護衛官のイングリットさんから教えを受けた事はあったのだが、かなり特殊な事例だろう。
間もなく、貴賓席に到着するところで、一人の人物が立ちはだかった。
「よくぞ、いらっしゃいました」
「……イングリットさん?」
「え?この人が…?……っと、失礼、初めまして。私はナデシコです」
噂をすれば影。始めて会ったナデシコが戸惑うのも無理は無い。
イングリットさんが、イザベラの姉と間違うほど若く見える。この話はナデシコにも話して居たはずだが、今日は特に若々しく見える。濃い緑のジャケットに、細身の剣を帯剣している。
「職務中は、二人とも初めまして、になりますね。いつも娘がお世話になっています」
いや、生き生きとしてる、と言った方がいいか。
威圧感はなく魔力を漲らせている訳でもない。しかし、その魔力を探ろうとすれば、奥に得体のしれない物を感じる。
イングリットさんが見せてくれた魔力付与の極み、『理想付与』。
その時に、イングリットさんが思い浮かべるのは、『護衛官である自分』と言っていた。
ならば、今日この時がベストコンディション、のかもしれないな。
「ですが、娘は渡しません」
「「いや、なんの話だよ」」
しかし、イザベラの母親であることは間違いない。突然ぶっ込んできた。
「そうですか。……王都を出られる、ということだったので、もしや娘も同行するのかと…」
そんな予定は無い。…まぁ、楽しそうではあるけどな、その珍道中。
「私達の事に無理に巻き込むことはしないわよ」
「もしそう言ってきても、親に無断なんて許さねぇ…ですよ」
ナデシコは借りてきた猫を外して反論する。俺も言葉つがいに関してはギリギリだな。
「流石あの子が認めた『兄上』『姉上』ですね。…あなた達との出会いは、娘にとって得がたき経験になったようです」
そう言って微笑むイングリットさんは、やはり凜々しい。女剣士、というより、女騎士、と言うべきかも知れない。
「そこは、娘達、と言って欲しかったですわね?」
俺とナデシコが照れくさで返答に迷っていると、不意にその声が聞こえた。
その声を例えれば、一人の女性がいた。
メグに顔立ちは似ている。だが、メグの可愛らしさからは繋がらない。妖艶、そのような表現が相応しい女性だ。その女性に、イングリットさんは恭しく頭を下げる。
「言葉が足りませんでした。王妃陛下」
「ふふ、冗談よ、イングリット。お二人も、おしゃべりに急に参加して、申し訳なく思いますわ。楽しそうだったから、つい」
「いえ、お招き頂きありがとうごさいます。初めまして、ナデシコと申します」
「ヤマトと申します。ご挨拶の機会を頂けて光栄です」
付け焼き刃のマナーだったが、恐らく問題ないはずだ。
ネリーとフルリスからの教えはナデシコとは共有済み。過剰にかしこまる事無く、何か話しかけられたら、嘘無く素直に答えることが最大の処世術らしい。
無論、言いたくないことは言わなくていい、とのお墨付き。
「気を使わなくても、いいのですのよ?お二人は、ユグドラシル家の方々と親しいのでしょう?
こちらにだけ、気を使われては、私も立つ瀬がありませんわ。
どうか、フルリス陛下やコルネリア陛下と語らうように話して頂ければ、嬉しいですわ」
にこやかだった。親しみさえ感じさせるほどに。だが、どうにも企んでる時のメグの雰囲気をかすかに感じる。気のせいにした方が楽になる程の微量だが。
「さぁ、こちらにいらして?私、学園の様子や王都での噂、それを聞いて、お二人と話してみたいと思っていましたのよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて…失礼します」
「どうぞよろしくお願いします」
俺とナデシコは、とりあえず、少々力を抜いて、素直に案内されることにした。
やがて、貴賓席の一角に設けられた円形のテーブルに通され、着席を促された。
王妃様は奥に座り、側にはイングリットさんが控えている。
「私としたことが、まだ名乗っていませんでしたわね。
私はヴァイオレット・ミッドガルド。肩書きは…今日は、マルグリットの母、と思ってもらえれば、幸いですわ」
力を抜いていい、ということでそう名乗ったのだろうか。
流石に、ネリーのように接する勇気は無いので、暫定的にヴァイオレット様、としておこう。
「さて、この場は親交を温める時間としたいところなのだけど、折角の舞踏会。
お二人の時間を長く貰うのも悪いので、簡潔に要点だけを申しますわ。
ナデシコさん、ヤマトさん、ミッドガルド家に仕えてみる気はありませんこと?」
ヴァイオレット様はいきなり、不意打ち気味に俺達を勧誘した。




