223.縁と緑の舞踏会⑦。来賓席にて。
歓談の時間からしばらく経って、俺はエルフ側の来賓席へ来ていたやって来ていた。
「あ、今まで、もみくちゃにされてたヤマトくんだー。おいでー」
「急にお呼び立てして申し訳ありません。ヤマトさん」
今日は正装しているネリーと、フルリスに呼び出されていたのだった。
今日くらいは、コルネリア様とフルリス陛下とお呼びした方がいいかな、なんて考えていたが、あまりにもいつも通りで拍子抜けだ。
「いや、助け船だったんだろ?恩に着る、二人とも」
「「どういたしまして」」
九死に一生、とまでは行かないが、そこそこピンチだった。
俺の身に何が起こったのか、簡単に言えば、珍獣扱い。
歓談の時間に入った際、俺は今日卒業ということもあるし、『若葉組』と雑談でもするつもりだったが、あっという間に分断された。
そう、学園生に囲まれたのだ。ナデシコも反応が遅れる早業で、辺り一面の女性生徒に囲まれた。
姦しい、というレベルでは無い。誰が何を言っているか分からないレベルで話しかけられ、表面上はにこやかに、でも内心は右往左往していると、
「ヤマト殿、よろしいでしょうか?貴賓席より、陛下がご挨拶を、と申しております」
これまたいつの間にか現れたルスィスさんから声を掛けられた。
周囲の反応は劇的だった。急に静かになり、道を譲られ、貴賓席まで難なく来れた。
大階段を上る際に、みんなの方を確認したが、仕方ない、みたいな苦笑で送り出された俺だった。
そして、今に至る。
通された席は、フルリスが座る長椅子だった。
その同席は流石に遠慮したかったのだが、やって来たネリーに引き込まれた。
唯一の救いは、貴賓席のあるバルコニーに張り巡らされた御簾、カーテンのようなものの存在だろう。
外から見ると薄暗く中の様子が分からないが、中からは外が見える。
スモーク硝子の理論を魔法技術で再現したようなものか。
「それにしても、囲まれるのもわかるなー。カッコいいよ!ヤマトくん」
「ええ、本当に。白はエルフにとっても縁深い色ですから。嬉しく思います」
「ありがとな。白は世界樹が付ける花の色、なんだろ?
そんな二人の正装は、俺にとって新鮮でより一層美人に見えるよ」
「ふふっ、ありがと!」
「まぁ、お上手ですね」
美人親子に褒められても、平然と返せたのには秘密がある。
この王子様風衣装で、教室に戻った際に、ものの見事に褒め殺しにあったのだ。
俺が服装を褒めた以上の言葉がそれぞれから帰って来たり、謎のポーズをとらされたり、ユディット先生が歴史を引用したり、エマ先生がナデシコとの対比を言ってみたりと。
実際、もう止めてくれ、というまで続いた。
世界樹の白い花も、そこで聞いたことだった。
ただ、『世界樹の若木』はまだ花を付けたことがないらしいので、伝承の類いらしいが。
「もう少ししたら、会場も落ち着くと思うよ?さっきまでは浮き立ってたけど、今は落ち着いてきたから」
「確かに、ここからは、会場全体が良く見えるな」
ネリーの言うように、会場の動きが忙しないものから、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。皆、話し相手を見つけたのだろう。
上から、『若葉組』を探すとすぐに見つかった。
ナデシコとエマ先生は、赤いドレスのフレイヤさんと何やら話し込んでいる。
珍しい組み合わせだが、和やかな雰囲気で談笑している。
若葉組では姉貴分なナデシコだが、俺の姉ちゃんと絡むときは妹分で甘え上手でもある。
フレイヤさんに対しては、その側面が出るようだ。
メグとライリーは一緒に行動していた。
ライリーが自分の入学前の友達を紹介して、メグがそれに心良く応じている。
それを遠巻きにしているのは、豪華なドレスの貴族子女。どう対応していいのか、計りかねているのだろう。
メグも気付かないフリで通すつもりらしい。
イザベラは、なんとも自由だった。
提供された料理の内、甘いものをその場で試食させて貰ったりしていた。
途中、背の高い高等部生が立ち塞がった。立ち振る舞い、姿勢から見て、女剣士、といった所だ。
何やら因縁ありげだったが、イザベラは首を傾げ、そっと避けていた。
女剣士は、酷く落ち込み、近くに居た知人らしい女生徒から慰められていた。
天然ぶりは、教室外でも遺憾なく発揮されるらしい。
ユディット先生は、どうやら挨拶のようだ。
対面のバルコニー、人間側の王家の席から魔力を感じる。
「折角来たのですから、今しばらくはゆっくりされてはいかがですか?…ルスィス、貴女も是非食べて頂きたいものがあると言っていましたね?」
「はい、フルリス様。機会を頂き恐縮です。ヤマト様、よろしければこちらを……」
フルリス言葉が終わる頃には、ルスィスさんはすでに小さな器を持ってきていた。
「エサルカ城で教えて頂いたものより、試行錯誤を重ねました。
この度に舞踏会へも『エサルカ城』の品として提供させて頂いています。
どうぞ、一口一口、ゆっくりとご賞味下さい」
いつもより、真剣な目つきに気圧されつつも、受け取った。横目で見れば、ネリーもフルリスも受け取っている。
陶器の器に入れられたのは、オレンジ色のゼリー。よくあるオレンジゼリーに見える。
しかし、何故陶器に?清涼感を出すなら硝子の方が優れていると思うが……。
「では、いただきます」
小さな疑問、それから最後の台詞…若干の違和感を感じつつ、スプーンで掬い、口に運ぶ。
瞬間、香りが弾けた。




