220.縁と緑の舞踏会➃。引き立て役で終われない。
あの後、俺は教室を追い出された。
いや、これでは誤解を招いてしまうな。より正確な経緯を話そう。
「……さて、気を取り直して…。…ヤマトくん、キミには私の指定する場所に行って貰おう」
「その間、メグさん、ライリーさん、イザベラさんは私達三人で軽いお化粧をしてしまいましょう」
「私の世界のナチュラルメイクとこちらの世界の化粧技術の超タッグよ!」
「まぁ、是非お願いできますこと?」
「今日は姉貴も先生なのね。よろしくね!」
「興味深いですね。受けて立ちます」
こんな感じで、仮に教室に居ても少し居づらかったかも知れない。
そして、俺が指定された空き教室に行くと、そこには……
「まぁ、いらっしゃい。よくぞお越しくださいました、なんてね」
「お邪魔します。…って、デライラさん、今日は忙しいんじゃ…」
貸し衣装の提供店の店主、デライラさんが居た。今日も、搬入と引き渡しの作業が予定されていたはずだ。
「ふふ、幸運なことに従業員には恵まれてるの。
それに、ユディット様へお化粧なんて、他の娘達は指が震えて出来ないと思うわ。
アーテナイ様贔屓も役に立つでしょ?」
先生方とナデシコのメイク担当をしていたらしい。服飾店のはずだが、美容全般に通じているのだろう。
「でも、一番の幸運は二人と先んじて出会えたことかしら?
おかげで、今回の貸し衣装の話も貰ったし、例の件もつつがなく進行中よ」
「貸し衣装の件は王都で一番の店だったからだろ?
……まぁ、あの件は…俺達も驚いたというかなんというか…」
「携帯ぬいぐるみぬいさま、王都バーション、モデル、ユディットさま。
近日発売だけど、王都中に広がる光景を見せられないのは残念ね…」
「あはは…」
曖昧に笑う俺。むしろ一安心だ。
約3ヶ月程前から、鉱山都市ラケルで流行っているものがある。それがぬいさま。
俺達の恩人、アーテナイをデフォルメしたぬいぐるみである。
俺とナデシコは、ぬい活文化をこの世界に広めていた。まぁ、色々あって。
その王都バージョン、つまりユディット先生をデフォルメしたものを発売しようとしているのが、王都の商人、デライラさんである。
ラケルでぬいさまの販売元である、俺達が世話になったラケルの服屋アレクさんにも許諾を得ようとしたようだが、ぬいさまの権利は自分ではなく俺達にあると突っぱねたそうだ。
まぁ、交渉に来た商人が俺達の知り合いであるデライラさんの配下であること察しろ、と言うのは無理な話だ。
こうして、俺達にお鉢が回ってきて。
デライラさんならと思い、ユディット先生にも許可をとって、現在量産体制を整えているそうだ。
ちなみにユディット先生曰く、俺達関連以外からの話なら突っぱねていたそうだ。
そんなわけで、俺とナデシコはこの一ヶ月、設計図や試作品づくりもやっていた。
試作品は複数個作ったが、ネリーに渡したり、ユディット先生に見せに行ったとき、エマ先生にお迎えされたりしていた。あの時のエマ先生は、少し怖かった。
「ちなみに先ほども、ほどほどに、って釘は刺されたわ」
「でしょうね」
「王都各店舗に卸して同時発売予定だけど、今の所、一家に一つの数は揃えるつもりよ」
「…大事業だなぁ」
ラケルでは数が揃うまで軽い混乱もあったし、大事業ではあるが大袈裟ではないのが怖いところだ。
ちなみに、この世界にも印税のような、売り上げの一部を考案者に還元する仕組みがあり、俺とナデシコの資金源もここからだったりする。
ラケルで口座も作っており、残高はそろそろ家が建つ額がある。
異世界ものの定番、お金稼ぎイベントを蹴り飛ばしている俺達だった。
「ところで、この時間はその話を?」
「あら、いけない。ついおしゃべりをしてしまったわ…。私は、衣装を届けに来たの、女学園唯一の男の子にね?」
楽しげなデライラさんは、俺に一セットの服を差し出した。
それは、膝丈まである装飾豊かな上着、ジャストコール。装飾があるフロッグコートと言えば伝わり安いだろうか。
それに合わせた胸元にフリルをあしらったブラウスや、ベスト、ロングパンツ。
全体の色は白を基調としていて、金色の差し色で彩られている。
現代日本では、男性アイドルくらいしか着ていないでだろう、見事な王子様服だった。
思わず受け取るのを躊躇するほどに。
「これを、俺に?」
「ええ、採寸の数字は貰ってたから、サイズはピッタリよ。それに、想像してみて、この服で並び立つ所を…」
採寸は水着を発注した時のものか。まさか、これを見越したわけでは無いだろうが。
並び立つ、か。今の従者服で十分だと思っていたが、それでは引き立て役で終わってしまうだろう。
なにより、うんとお洒落した彼女に対して、いつもの服では相応しくない。
少々気恥ずかしい、という思いもある。しかし、俺だって負けず嫌いだ。
とびきりのお姫様を迎えに行くのなら、最高の装備を選ぼう。
負けないくらいの。主役は俺だ、と言うほどの。
「デライラさん、この服の着こなし、教えてくれ。速攻でマスターする」
「まぁ、気合い十分ね。……勿論、お任せあれ。黒いお姫様を照らせる程に、輝く王子様にしてあげるわ」
俺達の世界のおとぎ話の魔法使いは、女の子に魔法を掛けるものだろう。
しかし、今日、この世界の見習い魔法使いは、服に詳しい女性にその着方を習うのだ。




