219.縁と緑の舞踏会③。それ以上はいけない。
何故か、三人娘から距離を取られた時、教室のドアが再び開いた。
「戻ったわよー」
「……やぁ、みんな、揃っている、ね?」
「女性陣の準備は万端ですね」
「「「……!」」」
俺がドアの方を向くより早く、3人娘はナデシコの前に回り込んだ。お陰で、俺からはナデシコのドレスが見えない。
それにしても、この一ヶ月で三人も魔力の使い方が向上したな。
今のだって、魔力による身体能力強化と、ヒールへの付与を同時に行っていた。
「……どうしたのよ、三人とも?」
ただ三人の身長では、隠しきれないので、ナデシコの顔はこちらからでも見える。当惑気味なその顔には、珍しくメイクがされてる。
「ナデシコ。今日はいつも以上に華やかだな」
「でしょ?正直かなり盛れてるわ!」
ナデシコは堂々と胸を張った。
嬉しそうなナデシコ、それと逆に、3人娘はあっけにとられ、こちらに歩み寄るナデシコに道を譲った。
「ドレスはスリットの入ったマーメイドライン。美しい立ち姿と、動いたときの大胆さ。それに、胸元はしっかり隠しているのに、片側の肩を出すアンシンメトリーのデザイン。二つの矛盾に思わず見とれるな」
「そうよね。よそ見してる暇なんて無いわよ?」
「ああ、それに髪色と合わせた黒。まるで何者にも染まらないという強さを感じる。
今日のいつもより赤い唇に、目が吸い寄せられるな。綺麗だ」
「ふふっ、今日はいつもより素直ね。ぶっきらぼうな言い方でもないし、褒めてって言う前に褒めるし」
フレイヤさんの助言のお陰なのだが、ここでフレイヤさんの名前を出すほどバカじゃ無い。
「ちょっとした心構えの変化だ。ダメだったか?」
「いいえ、めっちゃアガがるわ。今日は90点をあげる。今後も精進してね?」
「もちろんだ」
ナデシコは、近年まれに見る上機嫌だ。まだまだ10点分の伸びしろがあるので頑張ろう。
「……ねぇ、姉貴、質問なんだけど、普段からこんなやり取りを二人でしてんの?」
「んー、わりと小さい頃からやってるわ。
こっちだと、5歳頃の私って、ちょっと自分に自信が無かったんだけど、ヤマトったら『おめかし』すると凄く褒めてくれたりしたの。
ただ、こっちだと中等部に入る前に頃なると、ぶっきらぼうにもなったわ」
ライリーの質問に少し考えてから答えるナデシコ。そんな冷静に分析されてたのか、俺。
「まさに森林探索の水練の時ですね。そう言えば、皆の水着に対してぶっきらぼうだった気がします」
「それでも、褒めてって言ったら、褒めてくれるから、そこまで気にしてなかったけどね」
イザベラが持ち出した水着の時の話となると流石に困る。
あれは下手に言及すると、ファッション、というより肉体美の話になるからな。
もし、誰かに俺の考えてた事がバレたら必死で口止めすると思う。
「それでは先ほどのやり取りは照れが無くなった、お兄様の素の言葉、というわけですのね。……なんと厄介な」
「そうね。ほとんど口説きに近いけど、ヤマト本人としては、見たまま、ありのままを伝えたつもりのはずよ?」
厄介、厄介ですか、メグさんや……。少し凹む。
そして、理解のある彼女って言葉が似合うナデシコは、俺の心境を読んでいる。
……ん?口説きに近い、って言った?そんなバカな…。
「ねぇ、ヤマト。先生達のドレスはどう思う?」
「え?この状況で言えと?」
「いいからっ」
仕方ない。ナデシコに目を奪われて、視界に入らなかった先生達をよく見る。
「あはは…、なんだか照れますね?」
「……問題ない。…ワタシを讃える言葉など、年代表を作れるほど聞いてきた。…ちなみに歴代でももっとも、くどかったのは、とある王家の人間からの言葉だ」
「忘れてくださいまし…」
ユディット先生に恥ずかしい事を言うと、その子孫にまで伝わるらしい。こっちの方が厄介だろ。
「そうだな。まず、二人とシンプルなデザイン、フォーマルドレスだな。おそらく、会場を回ることを想定しているのか、ヒールが高くないパンプス。落ち着いた大人なデサインだ。髪も編み込まれてて、いつもより正装であることを際立たせている。
エマ先生が薄緑、ユディット先生が深い緑。所々の差し色にはエルフの正装の白が使われているな」
「兄上、まずは静かな立ち上がりですね…」
「いいえ、兄貴はここからよ…!」
「なんの実況やってんだか…」
「しかし、ところどころの装飾品、指輪、ネックレス。及び、髪に編み込まれたリボンが…」
「…そこまで、だ。…まさか、そちら方面で来るとは…。…参った、よ」
ペア、対のデザインになってる。そう言おうとしたら、口止めが入った。
「「「「……あー」」」」
「み、見比べないでください…!」
女子生徒の納得の声と視線から、エマ先生は先ほど指摘していた部分を隠してしまった。
教訓、匂わせは本人に伝えると嫌がられる。




