217.縁と緑の舞踏会①。知識を修めて。
6の月26日。交流会であり、舞踏会当日。
まだまだ舞踏会まで時間がある。俺は一人で図書館棟を訪れていた。
「やぁ、『若葉組』のヤマトくん。恋人のナデシコちゃんも連れず、今日は一人かな?」
「……バレてます?」
「アナタ達が一緒に居るのを見て気付かなかったら、その目は節穴なんじゃない?」
いつかのように話しかけてきたのは、図書館棟の司書フレイヤさん。
異世界の手掛かりを手に入れた俺達だったが、図書館の使用機会が減ったかと言うと、むしろ逆だ。
よく訪れては、他の『七天将星』について調べたり、各都市について調べたりしていた。
王都でも雨期に入り、屋外演習場が使えない日もあった事が一因でもある。
その時は3人娘も一緒だった。綺麗どころ揃いの『若葉組』の中に男子一人。
事情を噂程度で知っている学園生はともかく、図書館棟利用の学院生、つまり男子からの視線は夏雨より冷たかった。
「ご要望の本は?オススメは地方の祭りでの舞踊をまとめた本。今日踊れば、みんなの注目間違いなしよ?」
「いえ、今日はフレイヤさんに会いに来ました。これ、俺とナデシコからです」
「まぁ、ご丁寧にありがとう。…ああ、そう言えば、エマから聞いてたんだった。……卒業、だったわね?」
俺はお菓子を手渡した。中身は日持ちする焼き菓子などの詰め合わせだ。
フレイヤさんは受け取りながら、イタズラっぽい笑みから、口元はそのままに眉を下げた。
「ナデシコも来るつもりだったんですが…ドレスの準備に手間取ってて」
「ああ、そう言えば、相当規模が大きくなったみたいね。無料の貸衣装まであるなんて、学園初じゃないかしら?」
「あはは…ですね…」
疑問を口にするフレイヤさんに、曖昧な苦笑を返す。
なんせ、イベントのユディット先生はこのイベントの全体指揮をとったのだ。
いや、いつの間にか実権を握ってたと言った方が正しい。
ついでに、人員の増援を『王城』の職員と『エサルカ城』のエルフ達から確保している。
衣装についても、俺とナデシコの知り合いでもある呉服店経営のデライラさんの協賛を得ている。
さらにそこに、飲食物の提供まで王都の各商人も加わっている。
なぜ、学生のイベントが官民一体の大型案件になったか。
実は、きっかけは俺とナデシコが持ち込んだスポンサーという概念だったりする。
その協賛企業というものを面白いと思ったユディット先生が、実行役の高等部生に提案した。
まず、舞踏会に花を、ということで貸衣装の打診がデライラさんに行われた。
気に入った衣装は買い取り可、という店側にも利益が出る物になっていて、事実試着の段階で売れた衣装も多かったとか。
すると、その事を各家庭で学生達が話し、他商店も飲食物にも伝わり、宣伝という形で多くの食料の提供や調度品の貸し出しの申し出も相次いだ。
ここで、エルフ王家の口添えや、どこかしら、というかメグかしらで情報を入手した王家まで絡んできた。
高等部生に協力する形で人員が増員され、最終的にはここはワタシの庭だ、と言わんばかりにユディット先生が全体指揮に就いた。
こうして、学園の一イベントは、気付けば、王都でも指折りの規模のイベントになっていた。
「ま、私も学園関係者枠で交流会に参加するつもりだったし、ナデシコちゃんにはその時にお礼と挨拶するわ」
「そうしてくれるとナデシコも喜ぶと思います」
この飄々とした司書さんとナデシコは結構仲がいい。
実はフレイヤさんは、少しだけ、俺の姉ちゃんに似ている。
ナデシコは姉とも仲が良かったから、波長が合うのかも知れない。
「それにしても、アナタ達もエマも大変ね。三ヶ月目で、もう最初の卒業生なんて。
いえ、アナタ達にとっては二ヶ月かしら?」
「そうですね。あっという間でした…」
思い返せば、最初の一ヶ月も交流戦から始まり色々な事があった。
ここ一ヶ月も、なかなかの濃度だったのだが、それはいつか話そう。
「ねぇ、ヤマトくん。この図書館は、アナタにとってどうだった?」
「居心地がいい空間でした。それに楽しかったです。知らない事を知れて、特にオススメの本には助けられました」
「ふふっ、最高の褒め言葉ね。この後合流するめかし込んだ女の子達にも、今みたいに正直に感想を伝えること。それが当館司書の私からの今日、最もオススメすることです。…なんてね?」
いいアドバイスを貰った。
王都で過ごした日々は、あっという間だった。でも、このようにお世話になった人は数多い。
できる限り、顔合わせをして王都を出たいと思っている。
「そろそろ準備も終わったと思うので戻ります。教室で待ち合わせなんで」
「そう?…あ、図書館棟は卒業生でも申請すれば使えるから、分からないことがあったら、是非またのご利用を。…またね!」
「はい、お世話になりました!またいつか!」
またいつかの日のために。それまで、覚えていられるように。
俺は今、校舎に向かって歩き出した。
この二ヶ月通い、かけがえのない学友と、尊敬すべき教師陣の居る校舎に向けて。




