213.見慣れた女王。スパゲッティ。
あの後、授業では各都市の特徴や地理などを勉強した。
俺達の為だったのかも知れないし、中等部の通常通りの授業だったのか、定かでは無い。
しかし、今後、間違いなく使う知識の数々だった。
そして、午後の自学の時間では、昨日の模擬戦での課題や、身体を変化させた状態での魔法が使えないことなどを、改めてユディット先生とエマ先生に質問したり、検証を行っていた。
出発までの一ヶ月、この学園で身につけた魔法や、魔力の運用をより高める期間に使うつもりだ。
それに加えて、可愛い妹分達の訓練も手伝う。
ここ最近はずっと付き合って貰ってたから、そのお返しをしなくちゃね、とナデシコと俺で決めた。
今日一日、大いに学び、沢山身体を動かした。
先生にお礼を言って、友人と学園内を軽口を叩きながら歩き、別れる。
卒業、その言葉が改めて浮かんだのは、ナデシコと二人きりになってからだ。
どちらととも無く、二人で手を繋いで、借家への帰路に着いた。
終わりを意識すると少しだけ寂しい。
それでも、帰る為に、という選択肢を変えるつもりは無い。
「そっかー…改めて、今月まで、だね」
「……寂しくなりますね」
今日もフルリスは食卓に着いていた。ルスィスさんから届けられた専用食器すら食器棚に並んでいる。
それにしても、ネリーと並ぶと親子というより、やはり姉妹のようだ。
二人の表情も似ていた。眉を下げながらでも、微笑んでいる。
「二人は昨日聞いたでしょ?」
「ルスィスさん以外の護衛の皆さんにも、一度挨拶しとかないとな」
もう伝わって気もするけど、挨拶は大事だろう。
ろくに顔も合わせてないのに、顔見知りとは奇妙なものだが。
「その場はいずれ設けましょう。というより、お礼を言いのは私達の方です。お土産やお弁当、皆感謝しています。もちろん、私も」
「日頃から、色々珍しい食材とか貰ってるし。それに、ネリーを借りっぱなしだしね」
「わたしは色んな恋物語を聞けて大変満足なのです。…お気に入りはヤマトくんとナデシコちゃんの話だけどねー」
「食事の席では止めてくれ、むせそうだ」
まさに、食事が喉を通らないという現象なりそうだ。
ちなみに、今日の夕飯はスパゲッティ。
ラケルやロニア、いずれもパンが主食だが、海洋都市では乾麺が好まれてるらしい。
なんでも、ユディット先生の考案した浄水装置で、海に面しているのに飲み水に苦労せしておらず、茹で水に苦労しない。
加えて、商人は乾燥したパンを行商の最中食べるので、町では違う物を求めるのだとか。
他の要因もあるらしいが、丁度今日、話を聞いた俺達は、王都では珍しいスパゲッティを作った。
獣人の行商人から、以前購入していた乾麺が日の目を見た。
「おいしいですね。乾麺を茹で、昨日のあまりの燻製肉と野菜を香味油で炒めて作られたものですが、これはお二人の世界の料理なのですか?」
「シンプルにスパゲッティなんだが、こちらではないか?」
「似たものは食べたよ。焼いた麺を『焼き麺』、スープと一緒だと『ゆで麺』って感じだったかな?
でも、二人の『スパゲッティ』は海洋都市で食べた『焼き麺』よりおいしいかも!」
「そう言えば、ネリーは海洋都市に行った、って話してたっけ。
つまり、だいたい一緒だけど、すでにこっちだと別の名前があるパターンね」
二つの世界は似通っている。だが、俺達の翻訳スキル(仮)も万能では無い。
時々、このようなすれ違いもあるが、それも結構楽しいものだ。
「俺達の世界には、専門店があるほど『焼き麺』の種類が豊富だ」
「っていうか、茹でた乾麺と好きな具材を合わせて香味油で炒めれば、炒めたメシ、イタメシの完成よ!」
「へぇー」
「そうなのですね」
このように、変に誤解を与えてしまうこともしばしば。今回はナデシコの悪ふざけだが。
俺はこの後、俺達の世界には別の国があるという、今更なことを説明することになった。
イタ飯、古い言葉、おそらく、ナデシコのじいさんの仕込みか。
あと、今後カルボナーラとペペロンチーノを作る約束もした。
食事も後片付けも終わり、団欒の時間。
話題は、この一ヶ月を振り返るような話が続いた。
初対面の話では、ネリーの時にはフルリスが頭を抱え、フルリスとの謁見時の緊張を見抜かれていたことを今更知った。
「この一ヶ月といえば、ヤマトくんは基本的に公衆浴場通いだったね」
「まぁな」
そこはあまり突っ込まないで欲しい。こちとら思春期の男子。一緒の屋根の下で、普段通りに過ごせてる時点で、理性との戦いに常に勝利してると思ってほしい。
「一回くらいお家で一緒に入る?」
「そんな記念要らねぇよ!?」
どんな実績解除!?
「じゃあ、フルリスちゃんも一緒なら」
「えぇ!?お母様!?」
「……どうされますか、ヤマト様」
どっから出てきたルスィスさん!?
いつの間にか背後に立たれてたこの状況、冷静に言葉を選ばなくては……。
ここで、じゃお願いしようかな、なんて冗談を飛ばそうものなら、打ち首もあるかもしれない。
「……丁寧に、お断りします」
「返事、遅くなかった…?」
ナデシコの目が怖くなっていた。前門の虎、後門の狼。となりのナデシコ、背後のルスィスさん。昨日の勝負並みの緊張感だ。
昨日との違いといえば、頼りになるパートナーが追い詰める側に回ってることだろう。
………え?昨日より悪化してない?
「そっかー、じゃー、ナデシコちゃんと二人で入るのかー」
「「入らない!!」」
棒読みのネリーに、二人で突っ込む。
ネリーが頼りになる点を忘れないようにしなければいけない。
そうで無ければ、この一ヶ月は『ラブコメに飢えた同居人がいる生活』などとトンチンカンな状況になってしまうからだ。




