212.二人の今後。学園の今後。
楽しい祝勝会から一夜明けて、6の月3日。
昨日の激闘による後遺症もなく、概ねいつも通りの時間に登校した。
「……さて、今日の授業に入る前に、今後の予定を話そう。…二人の大きな予定を、ヤマトくん、頼めるかな?」
ユディット先生に名前を呼ばれ、立ち上がる。
「はい。俺とナデシコは、自分たちの世界に帰還する為、今年行われる禁足地の調査の参加を目指す。
その同行許可を得るため、世界各地の『七天将星』の元を訪ねる。
そのために、6の月の終わりに、王都を…学園を出発する」
三人娘が、メグもライリーもイザベラも例外なく、少しだけ俯いた。
近くに居れば、その頭にも手が届くのだろうが、手を伸ばしても届かない距離だ。
例え、同じ教室に居ても、遠くに感じる。
「……では、その時期の理由を、ナデシコくん」
「6の月は、雨期で海洋都市へ通じるの大橋が、通行止めになるから、でしょ?
これじゃ、海洋都市に居るっていう『七天将星』にも会えない。ついでに、その道の先にある、禁足地への封鎖港もいけないわね」
そう、俺達が先走った時の対策まで取られていたのだ。
もし、俺達がすぐさま禁足地を目指そうとしても、強制的に足止めを食らい、追いつかれるように。
生徒に対しても用意周到過ぎる先生に、少しだけ呆れたものだ。
「……次に、海洋都市と王都に位置関係について…イザベラくん、教えてくれるかな?」
「…はい、先生。…わたし達の居るラディス大陸は、中央に内海を抱く、円形大陸です。
その南東に位置するのが、王都ロニア。そして、内海から外海に流れる大河『水竜の顎』を越えた先、大陸の南の外海沿いに『海洋都市レアン』があります」
天然ながらも優等生なイザベラは、一度俺達を見てから、淀みなく答えた。
ちなみに、俺達がこの世界に来た時、初めて訪れた鉱山都市ラケルは大陸の東。
北には豪雪地帯があり、それをラケルと隔てるのが鉱山群『地竜の背びれ』だ。
付け加えるなら、昨日話に上がった禁足地、旧エルフ国『 ルグス』はその内海の中心に座する。
ラディス大陸大陸の全体像は、下が一部欠けた円に加え点が中心にある、と言えば伝わるだろうか。
「……今話に出た海洋都市レアンに居る『七天将星』について……キミが知っている範囲で構わない、二人に話してあげてくれ…ライリーくん」
「はい。…名前は、橙のライル様。あたしに話が振られたってことは、話すべきは商人としての実績の話ね。
王都と帝都、最大の人口を誇る二つの都市の中間で物流を仕切ってる商人よ。
世界で一番多くの種類の獣人が済む海洋都市のトップ、ライル通商連合の初代会長、冒険者ギルドを凌ぐ規模の商人ギルドの大幹部。
商人のアタシのおじいちゃんが、過去を抜きにしても、商人にとっても英雄って言ってたわ。
……なにかしたら、世界中の商人と喧嘩することになるわよ、兄貴、姉貴」
先生に話を振られたライリーは、俺達に向き直り、しっかり釘を刺してきた。
いきなり勝負や喧嘩を仕掛けたらどうなるか分かってるだろうな、みたいな言外の圧を感じた。このライリー、凄味がある。
「……まぁ、ワタシの仲間でもある、多少付け加えよう。
…強化の系統、治癒に関してはワタシを凌ぐ腕がある。…加えて500年間、医学薬学の勉強も行い、多忙故、研究などが行って居ないが、医師とも呼べるだろう。
…着いた二つ名が『地を駆ける癒し手』。…黒竜との戦いで、ライルが居なかったら、皆、生きていなかったかもしれない、ね…」
商人にして医者。『七天将星』の治癒師。ユディット先生でも、一目置く相手、か。
「……ちなみに、ワタシの『エルフの大賢者』と並んで、本人が納得していない二つ名だったりする。
…呼ぶと苦い顔をするので、なにかイヤミでも言われたら、呼んでやるといい」
一目置く相手、か?
「……さて、海洋都市に関わる話は、一旦止めよう。
…これからの学園の予定について…メグくん、話してくれるかな?」
「はい。学園では、6の月の末に中等部と高等部の交流会がありますわ。
高等部一学年が企画準備し、わたくし達、新入生を含めた中等部と高等部の交流の場となりますの。
毎年企画は変わりますが、二つの王族関係者にも招待状が届く…いえ、招待状を送る王都でも名物行事でもありますわ」
途中、メグらしくないミスもあったが、出自を考えれば無理も無い、言い間違いだった。
「ねぇ、メグ、話の腰を折って悪いんだけど…。そこで王族の婚約についての発表やったりしない?」
「よくご存じですのね。今年度はありませんが、過去に何度かありましたの。学園在籍の婚約者を伴って参加された、歴代王太子もいますわよ。…お姉様の世界でも似たような行事がありますの?」
「いや、むしろ婚約破棄イベントみたいだな…って」
「……なぜ、王家の恥部を大衆にさらすような真似を…?」
メグは本気で困惑していた。
そうだよね。あれって、仮に本当でも騙されてた、っていう自分の無能をさらすイベントでもあるよね。
「すまん、メグ。俺達の世界の創作上の話だ」
「ごめんさい。つい、恰好のシチュエーションだったから…」
「なにか有名な逸話の類いなのかしら…?」
いいえ、悪役令嬢ものや、その原作の架空乙女ゲームの話です。
「……ワタシが補足しよう。…今年度の高等部一学年は優秀でね、すでに申請が来ていたのだよ。…今年は舞踏会。…競い合うものでは無く、王都の祭りなどで行う民間舞踊、音楽に乗せて身体を動かすだから、気軽に参加出来るよ。…例え、世界が違っても、ね?」
ユディット先生は、俺とナデシコの前に立ち、肩に手を置いた。その手からは、重さよりも暖かさを感じる。
「……そして、ここからは、我々『若葉組』の話だ。…その舞踏会終了後、この教室に集まろう。…このクラスだけの、二人の卒業式を行う」
俺達の、学園最後のイベントが決まった。




