211.祝勝会。バーベキュー。
今後の事や、いくつかの取り決めを終えると、時刻は夕暮れ時になっていた。
そして、以前から計画していた夕食会が催されていた。
夕食会となっていたのは、俺達が負けた場合、残念会になる予定だったから。
だが、見事勝利した俺とナデシコによって、今日の夕食会は祝勝会と相成ったとさ。
会場はユディット研究史の屋上。
王都で『天衣無法』と『開花仙現』の初披露の場所である。
メニューは、バーベキュー。
俺達の話を参考に、ユディット先生の人脈と資金で、俺達の世界のBBQセットとほぼ同じ物が出来上がってる。
金網と墨入れを組み合わせたシンプルなもので、性能も俺達の世界と同じだろう。
いや、職人の手製なので俺達の世界より高性能かもしれない、な。
「なるほど。つまりお兄様とお姉様は、100年に一度行われる黒竜討伐後の調査活動に参加する、と仰るのですね?」
「ああ、そうだ。…メグ、この肉、食べ頃だぞ」
「では、頂きますわ。…まぁ、脂身も多めなお肉なのに、食べやすく、香りもいいですわ…」
網焼きにすることで、肉の余分な脂が下に落ち、しつこさのない肉となっている。
さらに、肉から落ちた脂が炭に触れて煙となり、その煙が肉を燻すことで、BBQ特有のスモーキーな風味となるのだ。
メグは、以前食事の感想で、香りに言及していたからな。気に入ると思ったぜ。
「そのために、これから世界各地を周って、『七天将星』に会いにいくって?」
「そうよ。…ライリー、野菜も食べなさいよ、美味しいから」
「素焼きで塩でしょ?確かに焼き目がついて美味しそうだけど、そんなに変わるわけ……なにこれ!おいしいじゃない!」
ライリーが食べたのは、小ナスに似た野菜。
炭火の強力な遠赤外線で加熱された野菜は、表面を素早くカリッと焼くことで旨味と水分を閉じ込め、内部をじっくり蒸し焼き状態なっている。
それにより、甘みが凝縮され、美味いのだ。
「ユディット先生の紹介状はあるものの、『七天将星』の方々との面談はどうなるか、想像がつきませんね。
……あっ!一瞬目を離した内に『ましゅまろ』が黒く…!」
「どうぞこちらを、イザベラ様。レシピを貰った者として、このルスィス。完璧な状態で味わって頂きたく思います」
「なんと、見事な焦げ色の『ましゅまろ』…!お見事です…!」
メンバーは教師組を加えた『若葉組』に加え、フルリスも引き続き参戦。ルスィスもいつの間にか合流していた。
それにしても、ゼラチンで作れる『マシュマロ』の作り方を、この前渡したと思ったらすでに完成させているとは恐れ入った。
量産型マシュマロ、完成していたのね…!
「マシュマロは締めで食うものなんだがな…」
「いいんじゃない?自由で。私達らしいでしょ?」
BBQの仕組みを観察しているメグ、次はどの野菜にしようか迷ってるライリー、頬を押さえながらマシュマロを頬張るイザベラ、そんなみんなを見て、俺達らしさを感じていた。
「ま、それもそうか。やっぱ、野菜と肉を一緒に食うのが最高だよな!」
「ふっふふ、私なんて、厚切りベーコンの上に肉よ!」
「姉貴、人に野菜食えって言っておいて、随分やんちゃな食べ方するじゃない。あとで真似しよ」
「自由、素晴らしい言葉です。食事の最中、甘味を味わうことの正当性にもなります。
ですが、私も野菜を食べたくなって来ました。自然な甘みもまた甘味なので」
「…それにしても、かなり衝撃的な事を聞いた気がするのですが、全然頭に入ってきませんわね。
まぁ、今日の労いの場、難しい話は明日以降と致しますわ」
主催のユディット先生曰く、BBQは俺達が主賓であるらしい。
食材の準備は教師陣が、当日の調理はルスィスさんをリーダーに3人娘が助手を務めた。ちなみにフルリスやネリーもそこに混じっていた。
そして今は、調理の最前線を生き生きと張っているルスィスさん。今日はBBQ奉行メイドだ。
教師陣は、少し離れたところから、こちらを見守っていた。
「……今日は勝利をかみ締めるといい。
…しかし、最も血の気の多いアーテナイ、最も平和主義なワタシを破っているが、他の連中もクセの強いから、ね?」
「ですが、その実績とお二人の魔力見れば、同行の許可を出す、とユディト様は読んでいるのですよね?」
「……『橙』と『藍』は理性的な判断が出来るはずだ。
…『黄』と筆頭『紫』は、ワタシには読めない。
…『青』は、剣に目がない。…ヤマトくんの『刀』は目を付けられるかもしれない、ね」
何やら不穏な事も聞こえたが、それはともかく肉が美味い。野菜も甘く、副菜も充実してる。後は……
「おまたせー!お米炊けたよー!」
「「待ってました!」」
「ふふっ、私も手伝いましたよ?」
「「フルリス、ナイス!」」
俺とナデシコは、待ちわびた白米に飛びついていくのだった。
「……二人には、まだ合体魔法の影響が残ってるのだろうか、な?」
「いつも通り、ですよ。…『若葉組』らしい、光景ですね」
「……確かに、見ていて飽きない、ね」
そんなやり取りが聞こえた。だから、俺とナデシコは振り返って駆け寄った。
「なーに、達観してるのよ!ユディット先生!エマ先生もこっち来て!」
「見てるだけじゃ腹が膨れないぞ?本日のスペシャルBBQ丼を味わって貰おう…!」
俺達が、教師陣の手を引く。
「まったく、兄貴も姉貴も、お米が絡むと様子がおかしくなるんだから…」
「そんな二人も、わたしは大好きです」
「やれやれ、ですわ。身分や立場も形無しですわね」
三人娘が、それに続く。
「ですが、それ故に、賑やか楽しい。ですよね、お母様?」
「もっちろん!みんな、可愛くてサイコー!」
「……なるほど、一見、米の上に焼いた食材が無造作に置かれたようでいて、それらは渾然一体となっている。それらをまとめるのは炭火香り…!……はっ!いけませんね。両陛下に相応しき具材の組み合わせ、探し出してみせましょう…!」
お城のエルフも輪の中に居る。
「分かりました!分かりましたから、引っ張らないでください!」
「……ああ…とっくに、当事者になっていたのだ、ね。…ワタシ達は…」
みんなでご飯を食べる。
何回目数えていないこの集まりが、何回目か分からなくなるほど集まれればいいな。
そう思ったのは、きっと俺だけじゃ無いはずだ。




