209.転移。禁足地の魔物。
「……始祖王は、まず間違いなく、転移や転送といった魔法体系を持っていた」
そんな語りから始まった始祖王の話。
根拠となるのは、先ほどもあった、手記の記録。
セザール王は扉をくぐると、見たことも無い空間に『飛ばされた』。
そこには宙に書架が並び、視界に満ちるは用途の検討も着かない道具。
まるでこの世のどこでも無い、そう感じたと記されていた。
それから長い間歩き、見て回り、書を手に取ろうにも届かず、困り果て、望みを口にした。
すると、知らない知識が頭に流れ込み、意識を失った後、気がつけば扉の前に戻っていたという。
そして、臣下は口にした。王は瞬きの隙に帰還なされた、と。
「ちょっとまって…その現象って…!」
「……そう、キミ達の『取り寄せバックパック』、だったかな?…そこから時計を取り出したとき…」
「時間は進んじゃいなかった…!」
奇妙な共通点。異世界から来た俺達と、どこかに飛ばされたセザール王。
時間の流れが異なる空間。異空間とも形容すべき場所。
そこに移動する技術は、転移や転送と呼べるものではないだろうか。
「……キミ達が、招かれたのか、送られたのか、呼び出されたのか、移動させられたのか、思考の上でも答えは出ない。…だが、無関係ではあるまい。…尋常の力ではない、という点についても。
…そして、これが妄想の産物で無いことは、母上とかつてのエルフの民が証明している。
…これが一つ目の根拠」
ネリーが帰国できなかったこと。
そして、逃げ出さなかったエルフの民の異常な様子。決まりを守っていたのではなく、『禁ずる』ことを強制されていた、のだろうか。
どちらも、既存魔法というには当てはまらない。
言葉を換えるなら、『次元』が違う。
「それから、もう一つあるよ。別世界や異世界って、考え方が無かったから最近気付いたの事がね。
普通、エルフのみんなが亡くなったとき、『還った』って表現するの。森の中で生きたエルフは森に還る、って。
多分、わたしが生まれるよりずっと前、それこそ始祖王の時代にもこの『還った』って表現は使われてるはずなの。
でも、旧エルフ国『 ルグス』にあった王墓、歴代の王の慰霊碑ね。
そこには、歴代の王が『偉大なる王、母なる森へ還る』って碑文が刻まれる中で唯一、始祖王だけ『始祖なる王カアル、久遠の理想郷へ旅立つ』って刻まれてたの」
ネリーもユディット先生に続いた。
追加の情報、それもまた、転移を示唆しているようにも感じる。
「……なるほど、確かに『異世界の手掛かり』だわ」
「魔力不足の頭には、ちょっぴり重い情報だな」
そうは言っても、普段通り頭は働いている。嘘や騙りは、恐らく無い。
あるとすれば、読み違いか…勘違い…。いや、これまで考慮すると、話が進まない。
お茶と一緒に、飲み込むのが精一杯だ。後でノートにでもまとめよう。
簡潔にまとめると、
『異世界の手掛かり』は、『始祖王カアル』の宝物庫『セックヴァベク』に納められている。
そこへ通じる扉は、旧エルフ国『 ルグス』のどこかにある。そう、今は禁足地の…………ん?
「あの、一つ、いいですか?お姉様。
……『セックヴァベク』へ通じる扉は、黒竜が暴れた『 ルグス』に今も、残っているのですか?」
フルリスの言うとおりだった。俺とナデシコは同時にお茶を飲む動きが止まった。そのまま、コップを置き、ユディット先生の方を見る。
ま、まさか、ね…?ここまで話して、昔はあったそうな、的なオチじゃないよ、ね?
「……焦ることは無い。…この目で確認しているよ、500年前だが。…扉と言っても、古代遺跡の一部なのさ。
…じっくり調査しておきたかったが、ご存じの通り、気軽に立ち入れなくなってしまって、ね。
…500年間塩漬けにしていた案件だ」
500年間の塩漬け案件って、もはや化石じゃねぇか。日本だと戦国時代だ。
「ねぇ、ちなみに、さ。…もし私とヤマトが禁足地に行ったら探索出来ると思う?」
ナデシコは意を決して聞いた。
「……なんとか、トンボ帰りは出来るだろう」
「それ出来るって言わない…!」
そう言えば、『それだけの力があれば、どんな状況からでも撤退できると確信出来た』なんて言われてたっけ…。
俺達が万が一先走っても大丈夫な段階まで鍛えられたから、話したのか…!
「仮にアーテナイが居たら?」
「……禁足地の魔物と互角以上に渡り合える。…連戦を考慮しなければ」
「そこにユディット先生も居たら?」
「……片道は保証出来る。…帰りは厳しいだろう、ね」
「どんだけ強いんだよ…!?」
「……それって詰んでない!?」
世界最強格の二人と、その弟子兼教え子、ただし合格点ギリギリの四人で片道レベル…!?
今更ながら思い出した。
俺達とユディット先生が初めて会った時、事情を話した後に零した言葉。
それは『……恨むぞ、アーテナイ…』、という呟き。
その真意は、『キミ達の欲しい情報はある場所は知ってるけど、そこに行ったら死んじゃうゾ』という意味だったのか。言える訳ないな。
「……だが、キミ達は実に運がいい。…いや、もはや、運命か、な」
え?この状況で入れる保険があるんですか?
ユディットが「……恨むぞ、アーテナイ…」を言った回。
『96.求めるのは一つ。全てを賭ける。』
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