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【学園編佳境】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章六節】  作者: 沢クリム
『緑ノ章 愛歌のロニア』 第六節 円舞曲を止めないで

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204.夏風の中で⑤。暴風を破るもの。

 


 自分身体が空中にあることに気付くまで、数瞬かかった。重力の消失?違う、飛ばされたのだ。それも風に。

 そして、今は落ちている。演習場の端へ向かって。


「ヤマト!手を!」

「あ、ああ!」


 ナデシコがこちらに手を伸ばす。しっかりと握り合い、演習場に降り立つ。とても空中に居られない。

 そして、目の前、そこには暴風が柱の如く立って居た。


「……キミ達は、よくやった。…数度、ワタシの予想を超え、非常手段のつもりだった『アトモスフィア・イレイズ』もこうもあっさり使わされるとは、ね」


 後方から声が聞こえた。2人で振り向けば、風によって壁に押付けられてるれているユディットが居た。


「なにやってんだ…?」

「…ワタシの最大の誤算は、ナデシコくんの魔法が拘束だけではなく、魔力を分け与える効果まで持っていたことだ。…これは、杖に込められた魔力が暴走している状態、と言えるだろう。

 …ちなみに見学の皆の無事は確認している。……まさか、ここまでの規模になるとは…。」


 この事態は、ユディットにも予想外のことだったらしい。

 その言葉を受け、ナデシコは目を全力で泳がせながら、


「こ、これも予想通りよ!このナデシコは、なにからなにまで計算づくってねー!

 …私の杖も、どっか行っちゃったけど…」


 暴風の中でも伝わる声の震え。ああ、知らなかったのか。魔法の効果。

 深く突っ込むと、俺もぶっつけ本番だということがバレるからやらない。


「……ワタシの杖は渦の中心にある。込めた魔力を吐き出している状態だ。…せめて手の内にあれば、制御も出来るのだが……ワタシの手からは離れている…つまりこれは…」


「先生の負けなら認めないぞ?」

「そうそう、勝負はまだまだでしょ?サガがること言わないでよ?」


 ナデシコと意見は一致している。ここで終わりじゃ、あんまりだ。



「……では、風が静まるのを待つ、ということか、な?…確かに、あの状態は長続きは、しないだろうが…」


「違うな、不正解だ、先生。…ナデシコさん、あの凄い魔法をどうしますか?」

「はい、風穴開けてあげます!」

「大正解!」


 俺達は、それぞれの『天衣無法イノセント・アウトロー』と『開花仙現ブルーム・ハーミット』を解除した。

 直後に踏ん張れなくなり、風にじりじりと身体が押され始める。

 だが、構わない。構ってる暇が無いほど、一つの事に集中する。一つにすることに集中する。


「……これは『合体魔法』…属性は…『ウインド』と『ストーン』…!?」


 驚く声が聞こえた。そう、この組み合わせは相反する属性だ。

 拡散と凝固、堅めながら拡散させる。矛盾している。だが、2人なら使える。


 成功は訓練では一回。失敗は数え切れない。

 唯一の成功もネリーに監督してもらいながら。

 今は消耗もしている。集中出来る環境でもない。


「でも、ここで決めたら?」

「超格好いい、だろ?」


 二人の心、考えまで今は一致している。ナデシコの魔力を感じ、俺の魔力を開示し、溶け合わせる。

 もう、十分だ。今なら出来る。風に阻まれながら、ナデシコと手を伸ばす。


「「現れろ!『サンドストーム・ドリル』!」」


 まず現れたのは、砂粒程の魔力の結晶。それは増える、増え続ける。

 やがてその中心に、微かな空気の渦が生まれた。強風の中でもその渦は止まらない。

 その名が示す通り砂嵐となった。


 そして、俺とナデシコの魔力を食らい、目の前の暴風より鋭利に凝縮されていく。


「「貫け!」」


 同時に命令を下す。凄まじい回転、それは加速し、暴風に食い込む。

 はじき返そうとする暴風、その風を削り続ける砂嵐。


 やがて両者は拮抗し、文字通りの風穴を開けたのは、暴走した『アトモスフィア・イレイズ』により生み出された暴風。

 砂嵐は、暴風に打ち勝ったのだ。


「さぁ、先生!」

「行くぜ!」

「…なに?…おぉ…!」


 俺とナデシコはユディットの手を引き、砂嵐が開けた道を行く。

 妙な感覚だ、先生の手を引いて走るなんて。俺達の世界でも滅多にないレアなイベントだ。

 やがて、杖の前にたどり着く。


「じゃ、後はお願い」

「まだ暴走状態みたいだしな」

「……キミ達は、人を頼ることを覚えたようだね。…それは、とても、喜ばしいことだ、よ」


 ユディット先生は、勝負は始まってから初めて、表情を柔らかくした。


 そして、杖を手に取ると目を閉じた。魔力の暴走を制御しているのだろう。

 その証拠に、次第に荒れ狂っていた魔力は、落ち着き、静まった。


 風は止んだ。

 

 杖を持った、ユディト先生はこちらに向き直る。


「……さて、キミ達の選択は二つ。

 …助けられたワタシの恩を素直に受け取り、勝利するか。

 …それとも、まだ戦いたいというワガママを通して勝負を続けるか。

 ……どうする?」


 さて、どうしたものか。ま、勝ちを貰う選択肢はないが。

 

 身体の状態を自己診断する。最悪だ。魔力も体力も切れかけ。

 おまけに、ナデシコの杖はかなり遠くに飛ばされている。

 

 仕切り直しにしても、分が悪い。

 賢く考えるなら、ちょいと休憩して魔力も体力も回復してから勝負したいところだ。


 でも、それ言うのダサくね?


「ワガママ上等!」

「すぐ始めるわよ!」


「……まったく、不正解だ…。…だが、嫌いではない、ね」


 俺達は勝負をした。


 実はユディット先生も魔力も体力も尽きかけだったというのは二、三度打ち合っただけで、すぐ分かった。

 それでも、杖術の合間に飛んで来る魔法は厄介極まりなく、二対一というハンデでようやく、一進一退の攻防が実現した。


「そこよ!姉貴!」

「お兄様!お姉様!攻め時は今ですわー!」

「兄上!今こそ剣を!」


 体力の限界、魔力の消耗のせいでギャラリーが近づいていると分かったのも、随分と掛かってしまった。


「三人ともー!がんばれー!」

「ユディット様!頑張ってください!」



 先生も俺達も、返答も出来ないほど消耗しきった頃、


――カラン

 

 ユディット先生が杖を落とした。それに手を伸ばすより前に、俺とナデシコは接近する。


「今よ…!」

「ああ…!」


 ほとんど、最後の力を使って、ユディット先生に抱きつき、押し倒した。杖を拾わせない為だ。


「………これは……ああ、参った、な…」


 10秒のカウントはゆっくり過ぎ、俺とナデシコは、勝利した。



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