202.夏風の中で③。雄風。
『理想付与』、完成せず。付与にて魔法を断つことは叶わなかった。
しかし、ナデシコの魔法がヒントになった。
ナデシコは、魔法を打ち返すというイメージで、魔力を杖の周辺に生成している。
それがテニスラケットだったのが、らしいといえばらしいのだが。
だったら、魔法を断つ刃というイメージで、『姫桜』を覆ってしまえばいい。
こうして、付与に加えて魔法を『姫桜』に纏わせる事で魔法を斬れるようになった。
このイメージを固める為、特訓では、イザベラとエマ先生の敬語コンビが付き合ってくれた。
魔法の名前すら着いていない中途半端、『理想付与』まで道半ば。
それでも今日の勝負には間に合った。
そして、これが最初から『あの状態』にならなかった理由だ。
俺達の魔法でユディットの魔法を防ぐ以上、魔法が使えない状態にはなれない。
すでに知られている身体能力の向上より、知らない筈の新魔法が有効、だと思った。
「……なるほど、回答意図は分かった」
俺達に相手は、返された『ウインドバレッド』驚きもせず、杖を横に振った。
横殴りの風が俺達を襲い、返された軌道も逸れる。防御と妨害、両方を兼ねた一手だ。
おそらく、これは『ウインドブラスト』。なんて範囲と風圧だ…!
「まだよ!」「ああ!」
だが、その妨害は想定済みで、訓練でも練習していた。
いよいよ、腕輪型杖『オレノデ・バンクル』の出番が来た。
「「『ウインドブラスト』!」」
そして、突風の魔法の使用意図は防御では無い。さらなる推進力の獲得。
それぞれ杖を装備した左腕を後ろに回す。魔力で強化した跳躍力に加え、突風の推進力。
「お待たせ!」
「しました、ってな!」
横風を越え、ユディットに迫る。あと一歩踏み込めば武器の間合いだ。
ユディットは飛び退いてる最中、その足が地面につくより、俺達の一撃が早い…!
「……ちょっとした応用だ。覚えておくといい」
ユディットは杖を持ってない方手の人差し指を、持ち上げるように上へ向けた。
「なっ!」
「どうなってるの!?」
奇妙な光景を見た。空中を蹴ったと思ったら、最高到達点でまた空を蹴り、上に、空に駆け上がっていったのだ。
「……風を固める『ウインドハンマー』を自在に調整出来れば、こういう芸当も出来る。
…紙を持ちあげることから、自分を空中に運ぶことまで、ね?」
そうか、今までユディットが魔法ものを運んでいたのは、全て『ウインドハンマー』の応用…!
日常動作にまで落とし込んだ、魔法の訓練だったのか…!
上からする声。驚いてばかりで黙って聞いては居ない。
「ナデシコ!やるぞ!」
「もちろんよ!」
魔力を同調させる。ここまで接近出来れば、魔法より早い対空を手段を持っている。
「見なさい!これが私の『天衣無法』!」
「そして、こっちが『開花仙現』!」
ナデシコが白いツバサを生やし、俺の髪が桜色に染まる。出来れば大見得切って格好つけたいところだが、そこまでの余裕はない。
「『ウインドバインド』」
ユディットの声。詠唱が出来る程に離れたか。地面から俺達に風の鎖が伸びる。
「「そっちは任せた!」」
ナデシコは空を、俺は足下を見て同じ言葉を発する。ナデシコは飛び立ち、俺は刀を走らせる!
ナデシコに伸びる鎖も、俺に伸びる鎖も一斉に『姫桜』絡みつく。直後感じる強烈な地面への引力!
「『桜然閃』!」
巨大魔物の首を断ち切ったこの技なら、通じる!
ただし、問題なのは、その巨大魔物の首より抵抗が強かったことだろう。魔力の消費がそれを証明した。
見上げる。ナデシコは間もなくユディットへ届く!
「『ウインドボルテックス』」
ユディット詠唱と同時に、台風が顕現した。
そう思う程の、風圧。俺はなんとかその場の、地面に踏みとどまる。
ナデシコも、空中でその風圧に耐えている。ただし、距離が縮まらない。
推力と風圧が拮抗してるのか…!?
援護を!いや射線上にナデシコが居る!だったら、ここから動いて『桜然閃』を…!
「任せな、さい!今!思い、ついた!」
「……興味深いな。何を、と問わせてもらおう…」
風を隔てて、2人は見つめ合っていた。
風に飛ばされないように懸命に羽ばたくものと、その風を操り見ているもの。
同じ空中にあって、あまりにも対照的だ。
「勝利を掴み、獲る方法!やぁああああああ!」
ナデシコの白いツバサに緑の燐光が宿る。だが、進むことは出来ない。
それでも、ナデシコは杖を伸ばす。空の上にあっても、一歩を歩むように。
ユディットは、ただ見ていた。やがて、コツン、と二つの杖は接触した。
「……見事、届いた。…しかし、届くだけでは……?」
下から見上げた俺の目に映ったのは三つ。
戸惑うユディット。不敵に笑うナデシコ。
そして、ナデシコの杖から伸びた植物の蔦のようなものが、ユディットの杖に絡みついていた。




