199.5の月の終わりに。世間話をする。
元に戻った俺達は修行をすることにした。もちろん、休養日を経て、多少メニューは変えている。
「行くわよ!フォアハンド!バックハンド!スマーッシュ!」
「打ち返されると謎の悔しさがありますわ!」
「次行くわよ!姉貴!」
「いいわよ!二人とも!カモン!」
ナデシコは、順調そう。
メグとライリーが交互に打つ魔法に、ラケットで対抗している。
字面は意味不明、絵面はテニス部、それでも立派な魔法の訓練だ。
俺はといえば……
「では兄上、参ります!」
「ああ、頼む」
『姫桜』に魔力を付与する。『理想』は断ち切ること。
「では……『ウインドバレッド』!」
風の弾丸我迫る。その中心を捕らえ、『姫桜』振る。
風はかき消えた。しかし、分かたれた訳ではない。これでは、潰したのと変わらない。
つまり少々苦戦中だ。
「『理想付与』ですか…。
確かに、そのように定議すれば、一部の『剣聖』や最上級冒険者の数々の逸話にも説得力がでますね…。だとすると……」
エマ先生にも相談済み。しかし、有用なアドバイスは、今は、期待できそうにない。
ならば、磨こう。一足飛びで成長できないなら、一歩一歩進んでいこう。
「イザベラ!次を頼む!」
「はい!兄上!」
理想に近道はない。それでも、自分を試しながら、タイムリミットの中を駆ける。いい緊張感だ。丁度いい。
こうして、俺とナデシコは腕を磨いていく。
そして、放課後、俺とナデシコはユディット先生の研究室に来ていた。
「失礼しまーす」
「ユディット先生いるー?」
「……おや、よく来たね。二人とも」
玄関入ってすぐの応接間、書類の束を前に置き、手元の書類を眺めているユディット先生が出迎えてくれた。
そして、そのまま杖を一振り、書類がそのままスライドしてスペースが出来た。
「…月末は読み物が多い。…学生関連や教職員関連のものは読んでいて楽しいのだが、支払い関連の精査などは退屈の極みだ。…その昔、言い値でいい、と言ったら逆に商人達から説教を食らってしまった。…苦い経験だ、よ」
「俺達もお金関係は説教食らったな」
「ね。報酬を断ったら、酷い目にあったわ」
着席を促されて、目の前の椅子に腰掛ける。
お金関係は、雑にしてはいけない。俺達が得た異世界らしからぬ教訓だった。
「……さて、なにか相談事か、な?」
「いや、そういうわけじゃない。休養日前のお茶会での一件が気になってな」
「……お茶会の一件?」
ユディット先生は首を傾げた。
確かに別に約束もしてない一件だから、心当たりがないかもしれない。
「特訓も今日の分は終わって、一度家に戻って取って来たの」
「……おお、これは…」
ユディット先生は手元の書類を脇に置いて、俺達からの土産を受け取った。
中には陶器の器。それを満たすのは黄色の半固体。
「プリンよ」
「粉ゼラチンもこの為に作ってたんだろ?」
「……ほう、コレが噂の…」
その噂の出所からのお届けである。ユディット先生は、器の上から観察している。
手元に紙とペンを持って来て、なにやらメモまで始めた。
「レシピは日誌に書いておいたから読んでね」
「……ふむ、ありがとう。…あとでエマと食べるとしよう。…そう言えば、修行は上手くいっているかい?」
「内緒よ。お楽しみは取っとかないとね」
「当日の答案は出来てる、とだけ言っとく」
「……楽しみだ。質問があれば、いつでも受け付けるとしよう。…案はいくつあってもいいものだから、ね?」
勝負前でもいつも通り、いや勝負前だからこそいつも通り。
プリンを作ったのだって、まだ疲れ気味だったネリーのついでだ。
普段通りは向こうも同じのようで、俺達に探りを入れるというより世間話で、修行の話を聞いたように感じた。
俺達は、家路をめざし、夕方の学園を二人で歩く。
借家なのに、家路という言葉を思い浮かべた自分に苦笑が漏れる。
「どうしたの?鼻で笑って?」
「いや、もう一ヶ月か、って思ってな。」
「そうね。ゴールデンウィーク取り損ねちゃったわ。
多分、計画してた旅行より、こっちの方が充実した日々を送ってるけど」
「へぇ、旅行なんて計画してたのか」
「うん。ヤマトと二人のミステリーツアー」
「……初耳なんだが?」
「初めて言ったもの」
確かに誘われたら断らなかったが、それにしても独断専行である。
「秘密も程々にな」
「その台詞、今から戻ってユディット先生にも言ってくる?」
「やめとく、賭けの代金を前借りしたくない」
「そうね、しっかり勝ってふんだくりましょう!」
「うん、俺の賭けって言葉が悪かったな。もっといい感じに言い換えようぜ」
「この世に生を受けたからには、私はすべてをこの手に握る!!」
拳の王を目指そうとしてる?
「…ねぇ、ヤマト。私、学園じゃなくて高校に行ってても、こんな会話してたと思うの」
「だろうな。世界が変わったくらいじゃ、俺達は変わりなかった、ってことだ」
「ええ、そうみたい。でも、しっかり比べる為に帰りましょうね」
「ああ、二つから好きに選べるように、だな」
「分かってるじゃない!」
夕日の放課後、笑みを交え、拳を合わせる。二人で歩く、あかねさす道は明日に続く。




