198.失敗は戦略の元。ツバサよ、自由であれ。
「さぁ、ガンガンいくわよ!」
「ああ、バッチリがんばるか」
準備運動を終えても、俺達の魔力はまだ持ちそうだ。
3人娘もこの俺達に慣れたみたいだ。先ほどまで俺の頭や、ナデシコの背に視線がいっていたが、今は目が合う。
「まずは…昨日の新魔法ね!」
「あの魔法を打ち返す『ウインドラケット』、ですわね」
「魔力も上がったみたいだし……もっと巨大なったり?」
「いや、そこまで大きくならないな」
「兄上も使えるのですか?」
「いや、試したけど俺は武器だと刀以外、とんとダメみたいだ。
でも、魔法がイメージで象られるなら、俺達の世界の『ラケット』から大きく外れないと思うんだ」
ナデシコの魔法『ウインドラケット』、手に持った杖を中心に『ラケット』を生成する。
魔法と付与の合わせ技のようなものだ。網の部分、ガットで捕らえた魔法を打ち返す。
「それはあり得る話ですね。『魔法におけるイメージは骨子のようなもの』、学園長の著書にもそうあります。……テストに出しましょうか」
エマ先生も補足する。
イメージの枠組みに魔力で肉付けをして生成する。
それが魔法。授業でも習った。
「ま、とにかく見てなさい『ウインドラケット』!………あれ?」
しかし、なにもおこらなかった。杖を掲げたナデシコは首を傾げる。
その後、何度か唱え直したり、杖を何度か振るが、なにも起こらない。
「……まさかの一日限定!?」
ナデシコは頭を抱えてしまった。
……いや、おかしい。昨日、外で俺も試した時、ナデシコは事もなげにお手本と称し、俺に見せていた。どや顔で。いや、表情のことはどうでもいい。
もしかして…。
ある仮説を元に、手を誰も居ない方へ向け、唱える。
「『ストーンバレッド』!……やっぱり、出ないな」
「ってことは……」
「そう、つまり……『この状態』だと魔法が使えない」
「……マジで?」
残念すぎる新発見だ。…これ、どうしよ。
皆で考え込んだが、エマ先生が一番最初に口火を切った。
「これは仮定ですが……。お二人の『その状態』、すでに複雑な魔法を使っている状態なのかもしれませんね」
「つまり、この状態で魔法を使うことと、二つ同時に別の魔法を使うことは同義。俺達の魔法の腕前が足りない?」
合体魔法も訓練中だ。今は、小規模なら出来るようになった程度。それこそ、炎と風で熱風を作り出したネリーの芸当に追いついたくらい。
魔法には向いていないのか?
「そう単純には『見えない』わ」
「ライリー?なにか心当たりがあるのですか?」
「さっき、見てたけど、二人の手に魔力が集まろうとはしてたのよ。でも、身体に魔力が戻っていったわ」
「魔法失敗の時、使おうとした魔力はどうなるか。定説としては二つありますわ。
生成し損ねて空中に霧散する。そもそも魔力が足りなくて魔力が出ない。
お兄様とお姉様には当てはまりませんわね…」
「ですが、このようには考えられませんか?
全身に力を入れている状態で、拳を握り込んでも全身に力が散ってしまうのと同じではないでしょうか?」
3人娘も考察する。
理屈は付けられるが、そうなると俺の『桜然閃』やナデシコの蹴り技『アマリリス・ストライク』はなんなのだろう。
学園の授業を通して魔力に詳しくなったら、分からないことが増えた。
混乱もあるが、それは同時にこうも思うのだ。
「……面白いわね」
「…ナデシコさん?」
エマ先生が呟いたナデシコを見る。実は、俺もそう思っていた。
「つまり、一人でも戦えるし、魔法も制限無く使える状態。
ヤマトと二人じゃないと使えない、使ってる間は魔法も使えない、そんな制限有りだけど色々パワーアップしてる状態。
その二つから好きに選べるってことよね!」
ナデシコは楽しんでる。おれも知らず、口角が上がっていた。
「昔から好きだよな、タイプチェンジやらフォームチェンジやら換装システムやら…」
「ヤマトもでしょ?」
「ああ、好きだぜ。それにしても、本番前に気付けてラッキーだったな」
「ホントね。空から魔法を撃とうとして慌てふためくなんて、カッコつかないこと勝負の場でやらかすとこだったわ」
正直、俺の態度は2割ほど虚勢混じりだ。しかし、ナデシコを見ていると、不思議と不安が無くなる。
楽しそうなナデシコを見ていると楽しくなる。
それは、二つの世界を股にかけても不変の法則だ。
「まったく、人が真面目に考えていれば…」
「兄上も姉上も、二人お揃いで…」
「ポジティブですね」
「……エマ先生に台詞取られましたわ」
3人娘に加えて、エマ先生も呆れ顔だ。
出来ないなら仕方ない。じゃあその状況を楽しもう。
この姿勢は、のーてんきにも見えるのだろう。でも、俯くよりは、大分マシだ。
「ああ、そうですわ。聞き忘れていたのですが、『その状態』に名前はありますの?」
メグから話題を切り替えるように質問が来た。実にいい質問ですね。
「ふふっふ、もちろんよ!この一ヶ月、どんな名前がいいかな?どう名乗ったらカッコいいかな?なんて、魔法の事くらい真剣に考えてたわ!」
「いや、そこはついででいいんじゃないの?」
「ライリー、好きな格好で剣を振るうことは重要だと母上もいっていました。格好よく、とは大事なのです」
「嘘おっしゃい」
ごめん、ライリー、それ本当。証人は昨日の俺だ。
いつかライリーとメグでイザベラの家に遊びに行ってほしい。
「まぁ、もちろん、今言ってもいいのだけど…」
「いいのだけど?なんですか、ナデシコさん?」
「勝負の場で、初名乗りを決めた方はカッコいいから、そうするわ!」
返答は無かった。ただ、イザベラ以外のより深まった呆れの表情は語っていた。
……すきにしたらええがな、と。




