197.もはや秘密はない。力に身を任せる。
ぐっすり眠った次の日、つまり休養日開け、ついでに5の月30日。月末である。
ユディット先生は各所から上げってくる書類のチェックがあると、授業終わりにいつもより気だるげに愚痴をこぼしていた。
一方、生徒一同は、いつも通りに授業を終え、午後の自由学習、演習場に集合していた。監督のエマ先生も居る。
「…異常事態ですわ」
「…いよいよ誰かに話しても、信じてもらえない領域になってきたわね」
「わたしはいいと思います。絵物語のようで」
「「大袈裟だなー」」
「……いえ、皆さんの指摘ももっともだと思いますよ?私も初めて見た時は圧倒されましたから」
今、俺の髪は桜色に染まり、ナデシコも白髪になった上にツバサが生えている。
そう、決戦前に俺達の『奥の手』を3人娘にも見せることにした。
「というか、話したじゃない。これまでの経緯」
「普通は、羽が生えた、など聞いても比喩、例え話と考えますのよ、お姉様?」
「それはごもっとも」
ユディット先生も結構驚いてたしな。
魔法があるこの世界でもなお、意味不明な現象である。
「ねぇ、姉貴、大丈夫なの?背中から生えてるけど痛くない?」
「痛くないし、大丈夫よ。出しっぱなしだと疲れるくらいかしら?むしろ、ライリーにはどう見えるの?」
「嫌な感じや違和感はしないのよね…。魔力は上がってるけど、手足と見るのと変わらないわ」
魔眼視点でも元からあった手足とツバサが変わらない、か。
常識で考えると不自然だが、自然体に見える。魔眼を持つライリーであっても。
「姉上、どの程度飛べるのですか?」
「最近は試してないけど、自由自在よ?試しに飛んでみましょうか?」
「ナデシコさん、あまり目立つのは……」
「分かってるって、エマ先生。低空飛行で一回りしてくるわ」
言うが早いが、ナデシコは飛び上がり、演習場の縁をなぞるように一回り。
残された3人娘その動きに合わせて首を動かし、驚きの声を上げる。
「ま、ざっとこんなもんよ!ちなみに誰かを抱えて飛ぶことも出来るわよ?」
「手を広げられても困りますわ」
「命が惜しいっての」
「大丈夫だ。俺も数回運んで貰ったが生きてる」
「では、わたしを運んでくださいますか?姉上」
「いいわよ!きりもみ回転コースも選べるけど?」
「お願いします」
「止めとけ、イザベラ」
「では、普通で」
イエスマン、いやイエスウーマン過ぎて、たまにイザベラの信頼が怖い。
結局、イザベラが終わった後、ライリーもメグも体験した。
イザベラは静かに体験していたが、終わった後しばらく放心していた。本人曰く、楽しかったそうだ。
ライリーは悲鳴こそ凄かったが、終始楽しそうだった。本人曰く、全然平気とのこと。
ここまではよかったのだが、メグは二人の反応を見て、きりもみ回転コースを選んでしまった。
その結果…
「行くわよ!720度回転!」
「いやぁあああ!お父様ー!お母様ー!」
「ねぇ、あれって王城に聞こえないかしら?」
「母上が駆けつけるかもしれませんね」
「エマ先生、顔が真っ青だぞ?」
「……メグさんの覚悟に水を差したい訳ではありませんが、出自を聞かなければよかったと思ってしましたした…」
空中旋回を地上から見る、ナデシコとメグ以外は1名を除き、のんきなものだった。
メグの尊厳の為に補足するが、泣いてないし漏らしてもない。
「ドキドキが止まりませんわ…!」
帰還したメグは、手で心臓の位置を押さえていた。
少女漫画のような台詞だったが、それにしてはアドレナリンの成分が多めだった。
将来、王都にジェットコースターが出来たら俺達のせいかもしれない。
「ナデシコ、どんな感じだ?」
「まだまだいけるわ。ヤマトも動いとく?」
「そうだな…軽く走るか」
今日は何も自慢やお遊びで、この状態になった訳ではない。
試運転。約一ヶ月の魔力の鍛錬で、この状態がどれだけ維持できるか、何が出来るか測るためにやってきたのだ。
身体の調子がいい。
前までは、強化された身体能力に制御が追いついていなかったのが、今なら分かる。
この状態での動作は、魔力制御の感覚に似ている。
『姫桜』を抜くことはしないが、急加速、急制動、壁走りや感覚の強化などを走りながら行った。
その感覚を強化したとき、こんな会話が聞こえてきた。
「お兄様は軽く、と仰っていましたが、とんでもないですわね…」
「そうね。兄貴は分かりやすく、常識から外れるわね」
「ヤマトはすごいわよ!…ねぇ、ところで私は?」
「姉上、我々は飛べる人を見たのが今日初めてなのです」
「唯一無二ってことね!」
「「「ポジティブ」です」のね」
ナデシコが、胸を張ってるのが、見なくても分かった。
ツバサが生えてる今、それはまさに鳩胸……いや、本人には言わなくていいな、コレは。




