192.見切る。逆流するもの。
ナデシコが戸惑ったのは、数秒。だが、すでに身体にの準備は完了済み。
足に力を入れて、踏み込む先は
「なるほど、こっちね」
左に飛んだ。だが、ネリーと手を繋いだ状態のライリーに先回れた。
だったらと、その場から棒を使って跳躍、
「えいっ」
しようとする前に杖の先端が地面に着く寸前、ネリーが杖を払う。
地面と接地していなかった棒は空を切り、自然に体勢も崩れた。
「「ここで『ウインドバレット』ね!」」
二人から放たれる2発の風の弾丸。
ネリーにしては弱く、ライリーからしたら強力なそれらは、一方は正確杖の持ち手を打ち抜き、一方は杖を宙を飛ばす。
「………やるわね」
「「まずは一勝!」」
武器を落とした。ナデシコの即ち敗北である。
「おっと、解除解除…」
「うっ…」
魔力の同調状態を解除したのだろう。ネリーは手を離す。それと同時に、ライリーは目を押さえた。
その様子に、ナデシコは敗北の悔しさも忘れ、ライリーに近づき覗き込む。
「ちょっと、ライリー、大丈夫なの?」
「…ええ、大丈夫よ。心配ないわ」
そうして、ライリーはナデシコに手を伸ばし、その頭を撫でた。
「……?」
その意図が分からず、ナデシコも固まる。
そして、ライリーは自分の動きを見て、飛び上がった。
「うわっ!何これ!?」
「…うーん、わたしの影響だね。
わたしの同調は、魔力を合わせる相手のフリをして魔力を合わせてるの。
だから、考えの読めない相手とは同調できないし、無理矢理合わせてるから、逆に相手に影響が出ちゃう。
今回は、みんな頑張ってて可愛いなー、なでなでしたいなー、って欲求がライリーちゃんに残っちゃったみたいだね。
よし!もう影響を与えないように、次の作戦会議はなでなでの時間にしよう!ナデシコちゃんも参加で!」
「「それはお断り」」
「えー!」
ナデシコはライリーに同調した。無論、魔力は別である。
続く二戦、つまり4戦目と5戦目、相手はネリーとライリー。メグは観察。
その二戦、ナデシコは勝利した。ただし、辛勝である。
「ライリーちゃんの魔眼は、魔力を通じて力の大小が分かるもの。ついでに、視力もいいみたい。
そして、力の大小がわかると言うことは、その移り変わりも分かる。魔力の流れ、とも言い換えていいかな?」
つまり、動きのことごとくが、メグと魔力を同調させたライリーに読まれている。
いや、『見切られてる』と言った方が正しいか。
「ナデシコちゃんも経験あるよね?魔法を使う前に使い手の魔力が高まるのを感じるのを。
それを、ライリーちゃんは魔眼で捉えられる。意識下、無意識下関わらず、ね?」
次の6戦目を前に種明かしと称して、メグを含む全員が集められた。
「どんなもんよ!」
「わたくしを撫でながらで無ければ、格好がつくのですが…」
「抗えなくなってるのね、ライリー…」
そして、動きが『見切られる』ことについてはナデシコも早々に理解出来た。
故に、接近を避け、身体能力の差を生かして、なんとか勝利を掴んでいた。
ネリーは言わなかったが、明確な弱点もある。
相手に合わせる性質上、魔力が同等の相手と魔力を同調させれば強力だ。
だが、自分より魔力が弱い相手と同調させた時、総合的には戦力が減る。
しかし、今回、ライリーはその若さでは驚異的な使い手ではあるのだが、ネリーと比べると数段劣る。
仮に、戦力を数字に換算するとして、ライリーを10、同調で強化された状態を20としよう。
ネリーが同調時、強化されたライリーが二人、40戦力が期待できる。
しかし、ネリーの戦力は約100だ。つまり、ネリーとライリーが別々に戦うときは110。
40と110、より戦力が高いのは別々に戦うとき、となるのだ。
無論、この事実はこの場に居る皆、気付いている。
「ついでに作戦会議もやっちゃうよ!」
「いや、ネリー?私もここにいるけど?」
「いーのいーの。今度は、ライリーちゃんは少し離れててね。メグちゃんとわたしのコンビで頑張ろー!」
「分かったわ」
「心得ましたわ」
すでに、ライリーとメグはネリーを否定する気はなかった。
ネリーの指示の方がナデシコを追い詰めている、という実感があったのだ。
6戦目。人は変われど3戦目と同じ構図。
ナデシコは、二人の同調に最大の警戒をもって、その場に立つ。
「…ネリーさん。見学の意図、分かりましたわ」
「うんうん!流石だね!」
「……一体なんのこと、って聞くだけヤボね」
「この修行が終わりましたら、話しますわね。お姉様」
メグは微笑む。それを余所行きの笑みだと、ナデシコは知っている。
何かを企んでる顔だと、この一ヶ月で見てきた。
そして、休憩時間が終わる。それは、次の勝負の合図だ。




