154.森林探索2日目②。たとえこの目に映らなくても。
イザベラと別れた後、湖沿いに歩きながら構図を考えて居ると、目の前には見慣れた二人を発見した。
メイド服のネリーとフルリスだ。
「あれ?ヤマトくんだ、ごきげんよう!あ、今はメイドさんだからご主人様って呼ぼうか?」
「ふふっ、それとも旦那様、とお呼びしましょうか?」
「そこで組まれると非常に困る。参った、降参だ。ヤマトでお願いします」
ロイヤルエルフ親子メイドコンビが結成の前に、俺は即座に白旗を揚げた。
トランプの時から、フルリスの笑顔が増えたのは良かったが、母親を見習ってイタズラっ子はやめて欲しい。
「それより、ヤマトくん。これから先、もう少し行くと完全な安全地帯じゃ無くなるから、引き返した方がいいと思うよ?」
「そうだな。そうする。…もしかして、俺達が行きすぎない様に見張りも兼ねてるのか?」
「たまたまですよ。ここは、家族で来た思い出の地でもありますので。二人で自然と足が向いてしまいました」
「『人によって注目するところが違う』なんてユディットちゃんは言ってたみたいだけど、それに捕らわれて人と違うところに、って意識しすぎるのも良くないよね」
まさに俺の事だった。
自由という言葉に捕らわれて自由じゃない、みたいな哲学的状況だったのかもしれない。
「ちなみに、わたしはもう2枚目だよ?」
「私は全体像を描き終えて、細かい描写に入るところです」
「早いな。…俺も早く場所を決めないとな」
エルフは芸術が達者らしいが、この進行度の差は流石に不味い。
しかし、いまいちピン来るところがないもの事実だ。
どうしようか悩んでいると、ふと、ネリーの足下の絵が目に入った。
そこには、ネリーと見知らぬ男性…いや、ユディット先生に似ている顔立ちの男性が描かれていた。
もしかしなくても、エサルカさんか?
ネリーとエサルカさんが見つめ合い、周りで俺達若葉組やルスィスがニコニコ笑っている………存在しない記憶!?
「エサルカさんを描いたのか?」
「えへへ、そうだったらいいなーって」
「ふむ、ネリーは絵が上手いな」
スケッチなのに人物画か、その発想はなかった。……あ、俺の描きたいもの、見つかったかも。
「ただ、皆さんに見せるわけにはいかないので、お母様はもう一枚描くようにしたそうです」
「いっそ帰ったら、絵の具で塗ろうかな!」
「学芸員に見つからないでくださいね?是非展示を、と数年間はうるさくなりますから」
「はーい、個人的に大事にしまーす」
時々どっちが親なんだか分からないな、この二人は。
「二人ともありがとな。おかげで描きたいものが見つかりそうだ」
「うん、またねー」
「はい、またお昼に」
二人と別れた後、描きたい絵を思い浮かべながら歩き出した。
時刻は昼前、集合場所で集まった後、別荘に戻っていた。そして、大広間には、皆がそれぞれの絵を持って集合している。
誰もが、胸を張っているので、自分の描きたい絵は描けたようだ。
無論それは俺にも言えること。
これまでの学校の美術で、課題として描いた絵とは違う、中々の自信作だ。
ただ、もう少し書き込みの時間が欲しかった、最初の時間ロスが悔やまれる。
「……皆、絵は描けたようだね。…ワタシは集合場所に一番乗りだったので、皆の絵をすでに見せてもらったのだが……少々、予想外が過ぎた」
「ははは…そうですね。学園長…」
なんだか二人は力ない。また出たのか、問題作。もはやこのクラスの風物詩だ。
「……では、まず、私達、教師陣のスケッチから見て貰おう。…これだ」
おぉ…。
皆から、どよめきとまではいかないが、感嘆の声が漏れた。
二人は、森の中から見た通り道を描いていた。
しかし、ユディト先生は高いところから見下ろしたように、続いていく道と生い茂る道ばたの草を描いている。
それに対して、エマ先生の絵は見上げるように、どこまでも陽光を目指し伸びてゆく木の幹の真っ直ぐさを絵の中心に持って来ていた。
「……これは、エマと事前に打ち合わせをしたものなので、露骨に違いを出したが、個人差や視点で見えようは違う、ということを分かって貰えただろうか?」
皆、頷いていた。まさに視点が違う。それが言葉無く伝わるスケッチだった。
「……では、続いて、メイドの二人の絵を見てみよう。…お願いします」
「はーい!」
「お任せください」
俺は事前に知って居たことだが、二人は同じ場所から描いていた。
筆の速さの違いはあるが、そっくりな二人に違いはあるのだろうか。そう思っていたが、違いはすぐに気付いた。
ネリーの絵の方が、『広い』のだ。
二人とも、湖から同方向の視点で、森や別荘、湖面を描いている。
しかし、ネリーは森を越えた先の空まで描写している。
これもまた、視点の違いであり、捉える範囲の大小が現れている。
しかし、フルリスの絵の方が時間をかけて範囲を絞っている分、細やかな所まで描写されている。
どちらも、白黒なのに色まで伝わってくるような見事な絵だ。美術館もこれは欲しがるだろう。
「違うから分かり会えないのでは無く、もしかしたら相手の見方は違うのかも知れない。そう思う事は、戦いに置いても、実生活を送る上でも重要ですよ。……という締めを予定していたのですが…」
最後の方はエマ先生の苦笑が混じっていた。いや、締めとか言うなよ。
「まったく、誰かしら先生を呆れさせたのは」
「ああ、真面目にやれよな」
「本当にそうよね」
「その通りです」
「恐らく、誰かが自覚無くやらかしましたのね…」
皆で、やれやれと首を振る。一体、問題作を書いたのは誰なのか、次回に続く。
「……いや、所謂『やらかした』のは、キミ達全員だが?」
「「「「「…!?」」」」」




