153.森林探索2日目①。描く前に思い描く。
二日目の朝、皆で身支度と朝食を終え、若葉組にネリーとフルリスを含めた7人が湖の前で集合している。
「……それでは、各自、好きなところで描かくといい、よ。…未完成でも時間になったら持ってくるように」
軽い説明や注意事項の連絡を受けた俺達はその場で解散した。
魔物の出る対岸側以外でそれぞれスケッチする場所を探し始める。
ちなみに画材は木の板と紙、それから鉛筆だった。所謂白黒デッサンだろう。
今日ばかりはナデシコと一緒の行動ではない。
昨日、意図も聞いたし、ナデシコもそうするつもりのようだ。
皆動き出したが、俺はその場から動かず、静かな湖面をなんとなく眺めていた。
「ふぁ……」
あくびが出た。十分な睡眠を取ったが、やはり昨日のトランプ大会が響いたのだろうか。
昨日の夜の話になる。
結局、トランプはメイド一同や風呂上がりのメグ、大人しく読書をしていた二人、つまり全員を巻き込み、大規模な大会になった。大いに熱くなり、消灯時間も30分延長することになったのだった。
最初こそ、俺とナデシコは経験と定石のアドバンテージがあったが、それも時間が経つにつれ無くなり五分の勝負を演じた。
メグの飲み込みは早く、イザベラのポーカーフェイスは崩れず、ライリーは少々顔に出やすいが勝負勘は冴えていた。
大人組だと、ユディット先生は運が絡まないと負け無し。
そんなユディット先生に運で勝ったのは、フルリスだけだった。
ネリーは勝っても負けても楽しそうで、ルスィスさんは接待プレイをして怒られていた。
エマ先生は堅実派で、ゲーム事の順位も中間くらいだったのだが、ペア競技でユディット先生と組むと手がつけられない強さを発揮していた。
もちろん、俺とナデシコも組んで応戦したが、引き分け。
コンビプレイで迫られるのは初めての経験だった。
こうして、一夜限りの新人メイド、フルリスによる伝説『緑のユディット』越えは、その後、誰にも喧伝されることもなく、俺達の記憶にだけ残る栄光になったのだった。とさ。
「ここも悪くないけど、もう少し別の眺めも見てから決めるか」
皆から遅れること、約五分。俺もその場から足を動かした。
「まぁ、お兄様もこちらに来ましたの?」
「メグか。俺はどこにしようかと思って歩き回ってる途中だ」
昨日弁当を食べた丘に来た。
そこには特等席で、別荘と湖を見ながらペンを走らせているメグがいた。
「もう書き始めたのか、早いな」
「昨日の時点で、一番の場所はここと見定めましたの。ご一緒されますか?あの方々のように」
メグは別荘を指す。その屋根をよく見れば、ナデシコとライリーが逆方向に座っていた。
「何やってんだ、アイツら…」
「今は落ち着いてますが、最初は鉢合わせして揉めてましたのよ?…聞こえはしませんでしたが、内容は恐らく…」
「自分がここに先に目を付けた、ってところか。それで、ライリーが森方面、ナデシコが湖方面だったから和解、合ってるか?」
「わたくしの見解と一致しますわね。…お姉様への理解がさせる技なのかしら」
「そういうメグは、『親友』への理解で予測か?」
「……からかう殿方は嫌われますわよ?」
否定も肯定もしないメグ、イヤミも頬を染めながらでは可愛いだけだ。
「ハハ、悪かったよ。今度、好みのお菓子でも作るから許してくれ」
「まぁ、これは大物が掛かりましたわね。ご自身の、いえ、お二人のお菓子の価値を把握されてないのですか?」
「友達に笑って許して貰える以上の価値はいらねぇよ」
「ふふ、では今までにないものを、とリクエストさせてもらいますわ。なんなら、わたくしの実家の料理場を使って頂いても構わなくてよ」
「結構だ。わざわざ隠してるものを暴く趣味はない。じゃあな、楽しみにしてな、お姫様」
「……!?」
俺は、声にならない驚きの表情を見せたメグはそのままで、その場を後にした。
そして、しばらく歩いてようやく……。
「やっべ、当てちまった……」
軽口のつもりだったのに、メグの反応で察しが付いてしまった。
……マジかよ、メグってお姫様だったの…?
ナデシコにも言えないことが一つ増えた。ちなみに態度は変えるつもりはない。
こちとら、女王陛下と同居してんだ、友達に一人お姫様が増えたからなんだってんだ。
無論、強がりである。
「さすが兄上、ここに目を付けられるとは……やはり昨日の水着を思い出して?」
「違うよ?」
あと、何がさすが?
動揺しながら、丘を降りていたせいか、昨日の水練の場所に着いてしまったようだ。
そこでは、イザベラと出会った。
「そうですか、何度か視線を感じていたもので…」
「いや、授業の途中で同級生を見るのは自然だから、関係ないから!」
自分の胸元を押さえるイザベラは、いつになく女の子の表情をしていた。それを俺は慌てて否定する。
「そうですね。邪推でした」
「ああ、分かって貰えて助かる」
……ごめんなさい、下心は1割くらいありました。つい、目が行ってしまうのです。
教会の懺悔室はこの世界にもあるだろうか。繁盛すると思う。予約1名いいですか?
「では、兄上、私は絵の準備を続けますね」
「ちょっと待て、俺の目には木剣の先端に鉛筆をくくり付けてるように見えるんだが、気のせいか?」
「…?見たままかと…?」
キョトン顔で首を傾げるイザベラ。そうか、気のせいじゃなかったか。
この後、イザベラの説得は意外とすぐ済んだのだが、少し疲れた気分になった。
全く、お兄ちゃんはつらい。……いや、誰がお兄ちゃんだよ!?
油断してるとお兄ちゃんになってしまう。俺は大丈夫だろうか?




