151.森林探索1日目⑧。水魚の交わり。
快適な風呂の後、着替えなども済ませ、別荘に戻ってきた。帰りは視線を感じなかったので、どうやら杞憂のようだったらしい。
集合場所でもある大広間で待っていると、女子一同が戻ってきた。
ライリー、イザベラはすっきりした顔で、ナデシコはいつも通り、メグは…。
「……お兄様、もし明日もメイド様がいらっしゃいましたら、お風呂を変わってくれませんこと?」
「それ、俺が犯罪者になっちゃいますわね」
消耗していた。何だよ、メイド様って。
その後、教師陣とメイド一同の合流したのだが。ネリーは髪型が変わり楽しげで、エマ先生も消耗した様子だったので、なんとなく察しが付いた。
メイドネリーがお背中流します、をやったに違いない。真相は闇、いや湯煙の向こうだ。
「……皆、揃っているね。…今晩の合同料理、それは王都近郊の湖や河川で採れる淡水魚を使った魚料理だ。…皆でルスィスくんから魚の下処理を習った後に、三人と二人に別れ、スープとソテーを作る」
「魚の下処理を覚えれば、料理に魚を使えるようになりますからね。野外活動での食料確保に役立ちますよ」
ユディット先生とエマ先生は俺達を集め、話し出す。
そう言えば、この森林探索の目的は、緊急時の対策もあったあったはずだ。
朝の森での歩行ペース、昼間の水中での泳法、そして夜の食料確保、どれも学びだ。
取り方よりも調理法とは、魔力と魔法が前提のこの世界らしいと言えばらしいのかも知れない。
「じゃ、ルスィスちゃんよろしくー」
「ルスィス…先輩、お願いしますね?」
「それでは皆様、本日は指導役として、手の洗い方から食器の片付けまで、全てをお教えします。ええ、一切の抜かりなく…!」
ルスィスさんはとんでもない入れ込み具合だった。ちょっと王家ブーストが効き過ぎてる。
学校行事ってこと忘れてないよね?
エサルカ城新人料理人スパルタ育成コースじゃないよね?
ただ事ではないと思ったのは、俺だけではないらしい。
皆、背筋を伸ばして、ルスィスさん、否、ルスィス先生に向けて傾注の構えだ。
「……なぜだか、このクラスはワタシの計算の斜め上をいく、ね。…興味深い」
「観察の構えもいいですけど、私達も指導員ですよ、学園長」
その後、移動した調理場で待っていたのは、怒鳴りも声を荒げるわけでもないのに、多大な圧を感じながらの川魚の処理だった。
恐ろしいのが、その圧をネリー、フルリス、ユデッィト先生には一切かけてない所だ。プロって怖い。
しかし、魚の処理法については、俺達も勉強になることも多かった。
特に内臓処理、わたぬきの綺麗に出来た時には達成感もあったし、ルスィス先生も皆を褒めることも忘れなかった。
「出来たわ!」「出来ました」「出来ましたわ」
「お見事です、皆様。一連の工程、もはや一人前かと」
結果的に、川魚の処理に関しては全員が同程度の速度、練度を手に入れた。
元々ある程度は包丁が使えた俺とナデシコ、力加減に苦戦していたライリーや、そもそも料理初心者を自称していたメグ、切りすぎていたイザベラも変わりなくだ。
俺達が昼間にした水泳の指導は、得意な者はより得意に、苦手な者はそれなりに、特異なものは特異なまま、個性を伸ばすやり方だ。
それに対してルスィス先生は、徹底的な底上げ、皆を一定の水準に押し上げる指導だった。
これが、プロメイド…!
などど、勝手に戦慄している間に、下処理も終わり、調理に移った。
班分けはやはりというか、俺とナデシコがソテー、三人娘がスープ。
指導員はそれぞれ、メイド親娘、ルフィスさん含む教師陣。丁度マンツーマンだな。
「この魚はね、エ……わたしの夫がこっちに来て初めて釣って、食べさせてくれたお魚なの!」
「はいはい、裏面にも焼き目を入れような」
一応、隠すつもりはあったネリーが俺に付き、一緒に調理。
「ナデシコ様、ソースはこの味付けでいかがでしょうか?」
「…うん!いい感じね!練習したの?」
「はい、事前にメイドの皆から習いました」
「バッチリよ!いや、バッチリリーね!」
「バッチリリー…?」
なんだか指導者逆転が起きてる、ナデシコとフルリスコンビ。
「この小魚は骨まで食べられます。細かく刻んで、つみれ状ににましょう。マ…そう、豆などもペーストにして加えるアレンジもあります」
「まぁ、丁寧なご指導ありがとうごさいますわ。…お気遣い頂き恐縮ですわ……」
今日だけで、料理に関してはかなりのレベルアップを見せたメグをさらに指導するルフィスさん。
「以前から思っていたのですが、ユディット先生の立ち姿はとても美しいです。何か武器術を?」
「……杖は少しかじったか、な。…それより、後入れの香草の調理を続けようか、イザベラくん」
「質問の回答、ありがとうございます。切り終わりました」
ユディット先生とイザベラのマイペースコンビは意外なシナジーで作業を進めている。
「ライリーさん、ここで混ぜる手を止めて、ちょっとスープの味見をしてください」
「はい!…ええっと、小皿に掬って……ちょっと薄い…?」
「そうですね。ですが、後で追加の具材や、香草も入りますので、丁度良く味付け出来ていますよ。そして、完成後にまた味見をして、調味料で味付けで調整しましょうね」
「わかりました!」
ライリーに気づきを与えながら指導するエマ先生。
生徒と指導者、合わせて十人十色の合同料理だ。
それが間もなく完成を迎えることを、調理場に立ちこめる香りが物語っていた。




