149.森林探索1日目⑥。湖畔に浮かぶ。
バタバタとした準備運動の時間を終わり、泳ぎの練習になった。
ユディット先生が言ったように、水温はお湯とは呼ばないまでも暖かく、身体が冷える心配はなさそうだだった。
地熱や、大地を流れる魔力の関係まで話が行きそうになり、エマ先生がそれを止める、といった場面はあったが。
「……まずは見本を見せよう。…これでも兄妹の中では、泳ぎは上手い、らしい」
最初にユディット先生が見せた見本は平泳ぎに似ていた。
俺とナデシコは言わずもがな、ライリーも楽勝といったように泳いでみせた。メグは多少苦戦したが、なんとか。
だが、意外な事に、一番苦戦したのはイザベラだ。
「木剣を放すと上手く泳げませんね…」
いや、そのりくつはおかしい。
何でも、剣を持った状態の泳ぎは、母親から習ったそうだが、普通の泳ぎ方は習わなかったそうだ。
速度順を作るなら、俺とナデシコ、剣を持ったイザベラ、ユディット先生とライリー、メグと剣を持たないイザベラだ。
もちろん、魔力は考慮しない。なぜなら、
「……と、このように正確な魔力の出力をコントロールし、放出する。…さらに、その上に乗れば水面も移動可能だ」
「あくまでも一例なので、皆さん、今日のところは真似しないでくださいね?」
水走り出来るユディット先生が最強になってしまうからだ。
水面に杖をつけた状態でスライド移動するユディット先生は、ボートがないのに水上スキーをしているようで奇妙な光景だった。
その後は、水中で魔力を集めてみたり、岸辺から魔法を水面に打って、属性ごとの違いを見たりした。
「やっぱり、『ファイア』は大きく減退するわね。水蒸気もすごかったし」
「『アイス』も『ストーン』も大して先まで進まないな」
「『ウインド』は水面すれすれなら問題ありませんが、水中を進ませると手応えが重く感じます」
「『アクア』は、すべるように先に進みますのね。見えず辛い、というのも利点かも知れませんわね」
一端、みんなで考える時間を取られた。水着で腕組みをしてる集団はなかなかシュール。
俺は天を仰ぎ、考えている。空が今の所一番安全なのだ。
「ねぇ、先生。もし、アタシ達が水中にいる魔物と戦うなら、『アクア』を使えばいいんですか?」
「……いい質問だ、ライリーくん。…だが答えは、岸辺にいるなら陸地へ逃れるべきだ、ね」
「水中は水棲魔物の領域です。なので、なるべく陸地で戦闘しましょうね」
「……基本的には、魔物は人に引き寄せられる。…ならば、自分の得意な場所で戦おう、というわけだ。…引きずり込まれそうなら、全力で身体強化が有効だ、よ?」
なるほど、相手のフィールドに立つ必要はない、ということか。こと魔物との戦闘においては、フェアプレーなんてクソ食らえだ。
「ですが、先生。水に落ちた場合はどうするのでしょうか?」
「……それもまた、いい質問だ、イザベラくん。…よし、実戦してみよう。…見ていたまえ」
そう言うと、ユディット先生は水に飛び込んだ。水しぶきが上がり、澄んだ湖面越しに潜水してる様子が見える。
しばらくすると、水中で魔力が高まったと思ったら、水底で空気の爆発が起った。
まるで、逆再生のように、先生が岸辺が打ち上げられて、戻ってきた。
「……『ウインドブラスト』。固めて放つのではなく、方向性を決めて一気に放出。…至近距離で当てれば、魔物も怯むさ。…あ……」
「学園長…」
「……すまない、エマ」
水しぶきをもろに浴びた生徒一同、すでに濡れていたので、それは別にいい。
しかし、一人上着を着ていたエマ先生は、上着ごとずぶ濡れになっていた。
「……あくまで緊急避難だ。…学園に戻ったら、練習もしよう」
「その時は……皆さん『は』、周囲に気を付けましょうね」
生徒の元気な返事と、しょんぼりしたユディット先生が声が重なった返事は湖畔に響いた。
「ねぇ、ヤマト。ユディット先生、うっかり説が有力になっちゃったんだけど…」
「それを言うなよ…」
ユディット先生が、自分の上着をエマ先生に被せ、俺の上着を借りて別荘に戻った後、ナデシコは俺にこっそり耳打ちした。
約一週間前にした考察が、全部うっかりで片付けられるのかもしれない。それはないだろう。ないよね?ないといいなぁ。
こうして、休憩や自由時間を挟みながら、数時間ほど湖畔で過ごした。
今日だけで、クロールとバタフライ、背泳ぎを会得したライリー。クロールは、ほぼ完璧なメグ。
木剣を手に、古式泳法巻き足で立ち泳ぎを覚えたイザベラ。なんか一人おかしい。
俺とナデシコも三人に泳ぎ方を教えたり、水中で、魔力鍛錬を試したりと、為になりつつも楽しい時間を過ごした。
途中、別荘にいくつかの気配が向かったような気がしたが、メイドさんだろうとスルーした。
ユディット先生も反応してないし、問題ないだろう。
なお、後で大問題だったことが分かるのだが、このときの俺は水に体重を預け、浮かぶ心地よさにすっかり警戒を解いていた。




