146. 森林探索1日目③。結んだ縁、握った物、合わせる手。
皆が思い思いに、試食する。そして、その顔は驚きに代わり、すぐに笑みにも変わった。
「わたくし、このタマネギのマリネが気に入りましたわ。酸味と塩みが丁度良く、持参したパンにもよくあいますわね」
上品につまんだメグが、はにかんでいる。酸味は唾液の分泌を助けるので、パンとも合うのだろう。
また、刻んだハムは当然パンとの相性もいい。パンにも挟まれているが、ハムが増えて困ることはないのだ。
「あたしは断然お肉ね。口に入れて噛んだ時の、肉の旨みがたまわらないわ…」
ライリーはどこかうっとりとしながら、一口ハンバーグを噛みしめている。
出来たてであれば、肉汁もたっぷりで提供出来る。ただ今日は、お弁当用に冷ましたのでそうはならない。
だが、しっかり焼いた表面が肉汁を閉じ込め、旨みを逃さない。
ライリーも言ったように、噛んだ時にその閉じ込めた旨みが解放されるのだ。
「いえ、真の主役はこの『おにぎり』でしょう。『お米』は初めて食べますが、この甘みが素晴らしいです。口に入れた最初こそ、塩味が広がりますが、噛めば噛むほどに自然な甘みが広がりますね」
イザベラは言われなくても、噛めば噛むほど甘くなる米の魅力に気付いたようだ。
塩は薄めにしてある。米の味を味わってもらう為だが、そこには狙いもある。
その狙いに、ライリーは無意識に気付いて、『真の主役』という表現を使ったのだろう。
「……なるほど、この三品。…お互いを引き立て合っているね。…タマネギのマリネの酸味、一口ハンバーグの旨み、そしておにぎりの甘み。…これらは循環しており、おにぎり帰結する、ということか、な?」
ユディット先生も気付いたか。
そう、どれからどちらのおかずを食べようとも、お米が欲しくなる。そう構成した。
塩味を含んだマリネの後に、お米の甘み。
旨みの強い肉の味の後に、お米の甘み。
お米の後に、味変で異なるおかずを食べても、行き着くのはお米だ。
「とにかく、どの品も美味しいですわね」
「ねぇ、おにぎりの上にハンバーグをのせて食べてみなさいよ。とっても合うわよ!」
「ハンバーグの旨みの後に、マリネで口の中をさっぱりとさせるのも、またいいですね」
独自の味わい方を見つける皆に、作った俺とナデシコも鼻が高い。俺達も食べるとしよう。
「やっぱり、遠足と言えばこれよね。おにぎり!」
「ああ、『我ら』ながら上出来だな」
「うーん、美味い!」
なじみ深い味だ。ネリーから貰ったお米のまさに使いどころだと言っていいだろう。
しかし、お米残り少ない問題もある。
流石に来年まで長居する気もないので、どこかで調達出来ないだろうか。
「それにしても、お二人とも『お米』の調理がお上手ですね。実家では、スープに入れたり、挽いて小麦粉の代わり位しか使ってなかったので、いつも食べてたけど新鮮です」
「い、いつも…!」
「食べてた…!?」
思わず声を上げる。俺とナデシコ。ちょっと待て、『お米』去年まで不人気食材だったのでは!?
「え、どうしたんですか?二人とも…?」
「……エマの実家は、所謂地方貴族で領地に水田の実験場があってね。…栄養価も高く、私も気に入っていると話したら、毎年の様に贈ってくれているよ」
エマ先生、時代と世界が違うけど所謂庄屋様だったのか。年貢という概念はあるか分からないけど。
そして、当然のようにエマ先生の実家とも付き合いがあるのか、ユディット先生。
人のコネを羨む気持ちが分かったぜ。
「…今年は、『みりん』の発見もあったので、研究がてら市場に出回っているものも買い足して、研究室に置いている、よ?」
「品薄だった原因の一端、先生だったのかよ!」
「私達、買えなかったんだからね!」
「……すまない…?」
どうやら、Sランク食材(俺達目線)はすぐ近くにあったようだ。追放系かな?いや、青い鳥とでも言おうか。
「……事情はよく分からないが、ヤマトくんとナデシコくんがこの森林探索を頑張ったら、ご褒美に『お米』を分けてあげよう。…他の三人には、今回貸し出したナイフを始めとした装備をあげようか、な?」
「言ったわね!ゼッタイ忘れないから、覚悟しなさい!やるわよ!ヤマト!」
「ああ!俄然気合いが入ったぜ!」
俺達が改めて気合いを入れていると、三人もそれに続く。
「ホントですか!?やった!このナイフ、気に入ってたから、欲しかったの!」
「ふふっ、記念の品、謹んで頂きますわ。……お揃いの品、いいですわね…」
「ナイフもまた短い剣。修行に使ってもいいか、母上に確認しないとですね」
三者三様、喜び方にも個性が出ている。ともかく、生徒一同、やる気は絶好調だ。友情トレーニングも起きそう。
「学園長、あまり物で釣るようなことは控えるべきかと…」
「……きちんと刃引きをして、教材の一部にするさ。……付与の対象に金属製のものも欲しい所だったし、ね。…故郷の味が食べれない、とういう辛さは想像でしか分からない。…しかし、解消の手伝いは、して上げたいと思うだ、よ」
「…分かりました。学園長にお任せします」
「……エマも、ご褒美が欲しいのか、な?」
「い、要りません!」
飄々としたユディット先生と顔を赤くしたエマ先生による、俺とナデシコに負けず劣らずの夫婦漫才だった。
食事中の騒がしさもあったものの、皆満足して、食事を終えた。
「じゃ、今日は特別に、私達の育った場所での食事の締め方でいくわよ!」
「手を合わせて、食材と関わった人達に感謝だ!」
「はい、ごちそうさまでした!」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
これは故郷を懐かしむ、俺達のわがままだ。
心地のいい響きが、湖畔を見下ろす丘に響いたのだった。




