145.森林探索1日目②。お弁当箱に詰めるもの。
俺達は今、湖畔を見下ろせる丘の上に居る。
水面に陽光が反射する様は、先ほどまで説教を食らっていた俺とナデシコの心を癒やしてくれる。
丘を下った所には、洋館のような建物があるが、あそこが別荘だろうか。
「……さて、起きないと思っていたトラブルが起きたが…皆、お疲れさま。…今歩いた森は『世界樹の若木』の影響で、魔物の出現しない安全地帯だった」
「もし魔物の出現地帯を歩く場合には、今の道行きに魔物への警戒、いざと言うときの迎撃が含まれます」
そうか、道中、こまめに休憩を取ると思っていた。あれは、周囲の警戒を続けた場合の疲労度を考えての休憩だったのか。
もし、冒険者パーティーだったら、あの時間は体力のみならず集中力を回復させる時間だったのだろう。
「……出現地帯の中にも、しばらく魔物が現れていない場所や何故か忌避する場所、空白地帯はあるがね。……魔物討伐に慣れた冒険者は、例外なくその見極めが上手い」
「この辺りは経験に寄るので、皆さんは魔力を感知して近くに魔物が居ないことを確認した上で、動物の通り道ではないかを観察してみましょうね。魔物は動物も狙いますから」
そう言えば、一度冒険者の『双杖』に森に同行してもらったことがあった。
その時、周囲の魔力を探って大丈夫と分かった後も、周囲の形跡などを確認してから、休憩場所を決めていた。
あの時は分からなかったが、より詳しく探って居たのか。
「……さぁ、少々話が長くなった。…お弁当の時間にしようか、な」
「今日は一緒に頂きましょうか」
待ってました。そう思ったのは俺だけでは無い。
元気に返事をすると、敷物をして各々背嚢を下ろしていた。
ちなみに、俺達のレジャーシートは見事に悪目立ち。ユディット先生が素材を観察するという一幕もありつつも、食事の時間になった。
この世界での、食事の時間は俺達の世界と同じ程度には重要視される。
それは、魔力を使うとお腹が減るからだ。つまり、食事は体力のみならず、魔力の回復手段にもなっている。
ただ、『お弁当』とは言っても、流石に日本のような発展はしていない。そう、弁当無双の時間だ。
……いや、ナデシコと同じ内容だから、『無双』ではないな。『快進撃』とでも言おう。なんかしっくりくるし。
「お二人の、お弁当、それはなんですの?」
「あたし達のとは違うわね」
「兄上のは透明な容器ですが、ガラスではないようです。姉上のは金属でしょうか?」
一番、最初に食いついたのはメグだった。ライリーの比較に続き、イザベラの観察も入る。
ちなみに、俺達以外の弁当は、教師陣を含め似たようなものだった。堅めのパンにハムとチーズを挟んだものだ。すでに食前の祈りは済んでいて、食べるばかりだ。
冒険者になると、ハムとチーズの代わりに干し肉になるとは、またもや友人も冒険者からの知識。
…ん?よく見たら、メグのは少し上等なものを使ってるな。保護者は張り切ったのかも知れない。
「ふふっふ、よく聞いてくれたわね…!」
「あ、これは長くなる予感がしますわ」
「早まったかしら?」
「食べながら聞きましょう」
なんだか対応が雑じゃない?半月を超える付き合いだ。三人とも俺達にも慣れている、と解釈しよう。
「まずは入れ物だけど、これはタッパーだ。軽くて丈夫、機密性も高い」
「まぁ、こちらはラケルのものですの」
「…まぁ、そんなとこだ」
「……キミ達は時々、迂闊が過ぎないかいかな?」
ユディット先生からもツッコミが入った。いや、便利だからつい。
大小二つのタッパーを並べる。中身はこの後すぐ。
「私のはちゃんとラケルで作ってもらったものよ。ブリキのお弁当箱、説明したらクプファさんが作ってくれたわ」
「気のせいかしら、今ドワーフ工房の職人長の名前が聞こえたけど」
「そもそもですが、私『のは』ということは……」
「イザベラ、私達のお弁当味見したい?」
「はい!」
いい返事だ。買収じみた推理の妨害だが、誤魔化せてないよな。ライリーの追求含め。
ブリキは鉄板にスズをメッキしたものだ。おじいちゃん子のナデシコは密かに、話で聞いたブリキの弁当箱に憧れていたらしい。少し大きめなその箱は、荷造りの際にも苦労していた。
「それじゃあ、いよいよ…」 「オープンね!」
俺達は同時に開ける。合計三つの弁当箱を開ける。そこに詰まっていたもの、それは…
「俺の弁当箱にはおかずを入れた。
前菜代わりに、タマネギのマリネ、酢漬けだな。
生のままだと痛みやすいから、軽く火を通した後、水気を十分切って酢に漬ける。
細かく刻んだハムも入れて食べやすくすれば完成だ。
もう一つはメイン、一口ハンバーグ、ま、焼いた肉団子だな。
一口大にしたのは、中までしっかり火を通すためだ。
豚と牛肉の合い挽き肉で、これにもタマネギだ。疲労回復効果を期待できるぞ」
「それから、私の弁当箱には『ミニおにぎり』ね。具材は入れず、シンプルな塩むすび。みんなにも『お米』の良さを教えたたかったの」
そう、俺達はみんなに味見してもらう用に少し多めに作って来ていた。小さめにしたのも、手軽につまめるようにだ。
ついでに、箸は慣れないだろうから、フォークと取り皿も用意した。
「「さぁ!味見をどうぞ!」」
米の布教、これが将来の増反に繋がると信じて。
「というか、もしかしてだけど、休養日前にアタシ達に『お弁当は少なめに』って言ったのは…」
「この為よ?」
「旅の経験から来る、わたしたちへのアドバイスではなかったのですか?」
「驚かせたかったからな」
「この二人、全く悪びれませんわね…」
……いや、一緒の物を食べたかったと、素直に言っておくか。




