142.王女陛下の可愛いワガママ。繋がる過去。
その後、夕食会も無事に終わり、エマ先生に連行されるユディット先生を送り出し、今日もお城に帰るというネリーとフルリスの新旧女王陛下を見送ることになった。
「お二人とも、急な来訪に関わらず、おもてなし頂き感謝いたします」
「気にしないでくれ。その原因はネリーだろ?」
「うん、大正解!」
「褒めてないわよ?」
胸を張るネリー。俺に夕食を作って、と言った後、お城に向かうネリーが妙に軽い足取りだった事を覚えている。
「お見通しでしたか…。ですが、わたしの希望でもありましたので。お母様はきっかけになってくれたのだと思います」
少し遠慮したように笑うフルリス。さしずめネリーは健気な娘の外付けワガママ機関、とでも言おうか。
「いつでも来てね。と、言っても、もうしばらくしたら、泊まりがけの森林探索だけど」
「はい、お姉様から伺っています。かの地は魔物も出る地域、気を付けてくださいね。湖はとても綺麗なのですが.…」
そう言えば、別荘とだけ聞いて居たが、ユディット先生個人の物じゃなくて、エルフ王家のものなのだろうか。口調からして、俺達の行く場所を知っているようだ。
「だったら、女王陛下に旅の無事でも祈ってもらおうか」
「効力強すぎて魔物も出なかったりして」
「まぁ、それでは女神様には私からよくお願いしておきますね」
「わたしもー!怪我をしないように、迷子にもならなように祈るね!」
迷子は無いと思うが、有難い限りだ。二人の女王の加護の効力に期待しよう。
「それでは、お二人とも、今日も本当に楽しく過ごせました。皆があまり話してくれない旧エルフ国の話も聞けましたし、なにより今日のお料理も、お母様から頂いたドーナッツも本当に美味しかった。ありがとうございました」
「どういたしまして、気を付けて帰ってくれ」
「それからこちらこそ。お土産の果物のジャム、ありがとね」
「ふふん!わたしとフルリスちゃんの自信作だよ!料理に免じてヤマトくんの失言は忘れてあげよー」
「そりゃどうも」
全く、どこまで冗談なんだか。
それから、今日の訪問でお土産として貰ったジャムの価値がとんでも無かった。売らないけど、売ったら値段が付かないだろ。
遠ざかる二人と、それに追従する影がいくつか。やっぱりいたか、護衛さんたち。
今日はお土産を用意出来なかったのが心残りだ。家の中に戻ると、食後の後片付けが済んでいたのは軽くホラー。
今回は、ネリーのお節介がないことも確認。寝るばかりだ。
「で、ヤマト。気付いた?」
「ああ、推測の域は出ないけどな」
「じゃあ、私達が隠されてる『異世界への行き方の手掛かり』について話しましょうか?」
だが、寝る前にやることが出来てしまった。そう、聞き逃せない事ばかりの食事会だったのだ。
俺達は、誰も居ない食卓に付く、お茶と紙を用意して状況整理を始めた。
「まずは今までの整理、ユディット先生と始めて会った『エサルカ城』の時からね」
「一、ユディット先生は『異世界への行き方の手掛かり』は俺達に話せない。
二、ネリーは何か知ってる。
三、フルリスには心当たりが無い。こんなところか」
「そして、ユディット先生とネリー、フルリスの大きな違いが今日分かったわ」
「旧エルフ国、ネリー達エルフの故郷に詳しい、もしくは実際に目にしたことがあるかどうか」
ユディット先生が旧エルフ国に行ったことは今日初めて知った。『皆があまり話してくれない旧エルフ国』とフルリスが言った。
「そのうち、ユディット先生からは追加の情報があったわね」
「話せない原因は、俺達の力量不足」
確か、交流戦の後に言われた言葉だ。
「ここまでだと、情報は点のまま」
「だけど、俺達はこれらを繋げる情報がある」
「アーテナイとネリーの過去の話、ね」
アーテナイは俺達に聞かせてくれた。黒竜を討ったとされる場所は強力魔物が出現する『禁足地』になったのだと。
ネリーは話した。黒竜がエルフの王国の近くに出現して、『禁足地』になったのだと。
国は違うが、同じ言葉を別々の場所に使うだろうか?
それも、どちらも500年前の黒竜『討伐』の当事者達が。討伐は、迎撃ではない。
討伐に行ったのだ。どこに?『旧エルフ国』の『禁足地』に。
そう、力量不足の俺達が行けば命取りになりかねない。
強力魔物が出現する『禁足地』は『旧エルフ国』だ。
そしてそこに、『異世界への行き方の手掛かり』がある。
三つの単語を紙に書いた。イコールで結ぶ。
「で、どう思う?」
「100パーセント、『わざと』」
「だろうな」
そう、違和感がある。
恐らく数年単位で一緒のエマ先生の知らない話ならまだ分かる。
だが、フルリスが聞いたことが無い、あるいは今まであえて聞かせなかった、『旧エルフ国』の話。
それを今日、わざわざ話した。なぜ?
会話の流れ?いや、あれは肯定だけで十分だった筈だ。
ついうっかり?エルフでも賢者と言われるユディット先生が?
「ま、ヒント代わりなのか。試しているのか…。全く面倒くさいわね。いっそ日誌にでもこの予想を書いてやろうかしら」
「じゃ、やるべきは……これまで通り、だな」
「魔法を身につける。先走らない。答えを引き出す!」
俺達がもっと向こう見ずなら、今すぐ王都を飛び出して『旧エルフ国』を目指していたかも知れない。
だが、それは恐らく『不正解』だ。不正をして出した解になってしまうだろう。
認めさせてやろう。力を付けて、なんなら追い抜いて。大手を振って王都を出る。
「あーあ、無駄に脳みそ使って疲れちゃった」
「そう言えば、試したことは無いが、ジャムをお茶に入れる飲み方あったよな?」
「試す?」
「いいね」
こうして、夜は更ける。ちなみに、ジャム入りのお茶は……。
「「び、ビミョー…」」
俺達には合わなかった。やり方は人それぞれ。合う合わないは、やはりあるのだろう。




