140.推しが一緒だと楽しい。世間は狭い、パート2。
王都でも一等地と呼ばれる場所がある。人通りが多いところだったり、主要施設の近くだったり、王都の入場門の正面などもそうだろう。
デライラさんの商店は、まさに大通りに面した商店の一つだった。店は大きく、門構えも立派だ。
「まぁ、二人ともいらっしゃい」
「こんにちは!デライラさん」
「お久しぶりです。デライラさん」
「はい、こんにちは。さぁ、上がって上がって」
招かれてから、お店に入る。今日も営業中の用で、複数の店員の人たちに頭を下げられる。
会釈を返しながら、デライラさんの後ろを歩くが、少しだけ場違い感がある。
「それにしても、ね…」
「ああ、俺達は服屋に縁があるみたいだ…」
店内を見回しながら、ナデシコとこっそり話す。
デライラさんのお店は服屋だった。それも、呉服店やドレスショップといった少し上級な人向けの。
どうしてもラケルを思い出す。俺達は、こちらの世界に来て一ヶ月間、ラケルの服屋の一室に間借りして過ごして居たのだ。
少し胃の弱い、アレクさん。異世界の服に強い興味を持っていた、カレブさん。俺達の料理の先生、シャーロットさん。そして、もう一度会いたい、アメリアちゃん。
皆、すばらしい人たちで、この世界での恩人だ。
「ごめんなさいね。学園と学院の進級の時期はお披露目の季節で、お店を閉められなくて」
「ううん、むしろ、珍しいお店が見れてラッキーって感じ」
「俺達だけだと、少し入りづらいし…いや、悪い意味じゃなくてな」
「ふふ、よかった。来てくれて嬉しいわ。なんなら、一着仕立てていく?お安くしとくわよ」
「また今度ね」
「まだ身長伸ばすから、大きくなったらな」
「それはいいわね。楽しみが増えたわ」
そんな会話を交わしながら、居住スペースまで案内された。
ラケルに居たときもだったが、お店と家が一体になっているのが標準的なのかもしれない。
しかし、そこは立派なお店の居住空間、家というよりお屋敷だった。
「さあ、掛けて?今お茶をいれますからね」
「あ、デライラさん、これお土産。焼き菓子なんだけど、よかったら食べて」
「まぁ!ありがとう二人とも。お茶菓子にしようかしら」
机とテーブルがあり、応接間のような所だった。お土産はデライラさんは少しお年を召しているので、焼きドーナッツにした。
その後は、楽しいお茶会になった。学園の話や、王都の話をした。しかし、一番話したのはアーテナイの話だった。王都での演劇での扱いや、どんな食べ物を美味しそうに食べていたかなど、思う存分話した。
「ふふっ、色んな話をありがとう、二人とも。とっても楽しかったわ」
「こちらこそありがとう、デライラさん」
「お茶も美味かったし、話も興味深かったわ」
「美味しかったのは、二人のお菓子もね」
一時間以上は話しただろうか、お茶も何回もおかわりしていた。そこで、今更気付いた。カップがもう一つあったのだ。
「デライラさん、誰か来る予定だったのか?」
「……実はそうなの。私が小さな頃に、私にアーテナイ様がすごい、とっても素敵、って話してくれた人がいて、ファンになったのも彼がきっかけ。二人にも紹介しようと思ったのだけれど……はぁ、来るって言ったのに、すっぽかされたのかしら?」
デライラさんは困ったように肩をすくめた。それは一体誰だろう。
疑問に思っていると、部屋の入り口が開いた。
「すっかり遅れてしまった、すまないね。デライラ……おや?」
「「………え?」」
「遅いですよ。アイヒェさん。あら、もしかして知り合い?」
そこに居たのは、ルスィスさんとシェーヌと父親、エルフのアイヒェさん。……いや世間が狭すぎる!?
「私、王都生まれでは珍しい、全く魔法に適性がない子供だったの。緑のユデッィト様に憧れてた私は、とっても落ち込んだわ。そんな時、アイヒェさんに声を掛けられたの」
「魔法だけが魔力の使い道じゃない。それに他にも、英雄は居る。そう、私を助けてくれた赤のアーテナイ様とかね。……確かそんな事を言ったかな?」
「ええ、それにしても、あの頃から変わりませんね。お顔も態度も」
「私にとっては、君は今も可愛い女の子さ」
「まぁ、光栄ですわ」
軽く挨拶を交わしてからアイヒェさんが席に着き、話は出会いのきっかけになった。
俺達も話したが、祭りの最終日に会って挨拶をした程度の仲なので、次はアイヒェさんとデライラさんの話になったのだ。
「という訳で、私達は同好の士、という訳だね。まだ50年程かな?」
「もう50年ですよ。時には相談役、今では茶飲み友達ね」
長い付き合いだ。俺とナデシコが約10年幼なじみやってるが、その五倍か。
「さて、二人の話は後からデライラから聞こうかな。代わりに、デライラには何度か聞かせた話になるが、まだ各都市を復興していた頃のアーテナイ様の話をしようか」
「ええ!是非!」
「お願いします!」
「ふふっ、お茶のおかわり、持ってきますね」
こうして、同じ恩人を持つ物同士の親交を温めることになった。周囲からは、それこそ話をねだる子供と好々爺の様に見えるだろう。
しかし、俺達は同行の士。推し活に年齢は関係ないのだ。




