134.夢の幕間。個性を見つめ直す。
ナデシコを送った後、今日ばかりは、魔力の鍛錬も休みにして俺は眠ったはずだ。
だからこれは、ある日を境に時々見る夢だ。
手には日本刀を握っている。
俺の手を飛び出し、それはたちまち少女の姿に変わる。
現れるのは、桜色の髪をした少女。黒い羽織には桜の花びら、赤い着物には桜の花。
「はぁぁぁ……、もうちょっと、じゃったのになぁ…」
「どうした?話、聞こうか?」
そして、その少女は体育座りを決め込んでしまった。ため息は深い落胆。呟きは嘆きだった。
とりあえず、隣に座る事にした。夢の中だ、声かけ事案ではないだろう。
「……途中までいい感じ、じゃったのに送り狼も出来ぬとは情けない」
「同じところ住んでるっつーの、知ってるだろ『姫桜』?」
なんだ、いつもの癇癪か。
この『姫桜』は、刀の化身みたいなもので、夢の中でしか会えない。俺は起きたら忘れるが、本人?は刀を通して外を見ているらしい。そして、目下の目標は、俺とナデシコがくっつくことらしい。
「まぁ、良いわ。最近は行ける筈じゃったスクールライフをこの世界でも体験できて、ちょいとこぶ付きではあるが同棲もしておる。お互いの好感度も高まっておるじゃろ」
なので、余計な世話を焼いてくるのが若干うっとうしい。反論も面倒なので、黙っておくに限る。
「さて、最近は魔法にかまけて、お主が最も信頼すべき『刀』がおざなりじゃ!今日はとことん鍛錬に励むぞ!」
「はいはい」
勝手に落ち込んで、勝手に立ち直った『姫桜』に俺は力が抜ける思いだ。
「思い返せば、我らの桜然閃を見て『魔法でいいような…』じゃと…!?今思い返しても腹が立つわい!」
「まぁまぁ…」
確かに本来のものでは無いとは言え、侮られたら腹も立つか。
俺はこの『姫桜』が作り出す夢の中で、いくつかの技を、姫桜風に言うなら奥義を持っている。
それは、思うままに身体が動かせる夢の中特有の技なのだが、刀と身体に魔力を纏うことで、斬撃を届かせる技、『桜然閃』は再現できた。
使えるようになったのは、恩人達の命が掛かった状況だった。再現性があったとしてもあまり訪れて欲しくない。
「という訳で、今日は徹底的に『花筏』をやるのじゃ!」
「『花筏』?…思いっきり、守勢の技じゃないか」
このキレっぷりから、てっきりもっと攻撃的な技をやるもんだと。
「うむ、無論理由はある。お主達、いわゆる林間学校に行くのじゃろ?」
昼間にユディット先生が言っていたことだろう。
「ああ、そうなるな。魔物が出るかも知れないからか?」
「そうじゃ。コレまでのお主達を思い返してみよ。行く先々で魔物だの魔物もどきだのに出くわしおって……」
「好きで出くわしてねぇっての」
「今度は魔法学園の林間学校じゃぞ!そんなの、ここに居るはずがない魔物に遭遇だの、あるはずが無い迷宮に迷い込む、みたいなイベントが起るに決まっておる!」
「決まってねぇよ」
メタ読みすんな。確かに学園物で林間学校でのトラブルは定番だけども。
「故に、今一番身につけるべきは『花筏』!これしかあるまい!」
「はいはい…」
何を言っても無駄だ。年寄りのわがままだと思って、付き合おう。
起きた俺は夢の事を覚えていない。しかし、僅かばかりだが、夢の経験は無意識下に反映される。
だから、繰り返した技は使えるようなる、かもしれない、多分きっとメイビー。起きている時の俺、任せたぞ。
「……ん?」
「どうしたのじゃ、ヤマト?首など傾げて」
「なぁ、姫桜って何年前作られたんだっけ?」
「……急にどうしたのじゃ?まぁ、よくは覚えておらぬが……戦国と呼ばれる時代にはあったのではないかの?」
つまり、ざっと600年前か……。
「『姫桜』って、ネリーより年下じゃね?」
ネリーの過去話から察すると、黒竜誕生の500年以上前には100歳近かった筈だ。
「………妾の唯一性が長命種のせいでピンチなのじゃ!!」
そこまでのことじゃねぇよ。
「よ、よくよく考えれば、師匠的立ち位置も、二人をくっ付けようとするところも被っておる!」
確かに?
「あと童女のような見た目も!」
そこ重要?
「………………盛るかの」
「自分の胸見て、なに言ってんだ」
なにやら、自分の胸元をペタペタと触りながら、極めて深刻に呟いた『姫桜』。確かに彼我の戦力差は絶望的ですらある。
「てか、変えられるのか?」
「出来ぬな。この姿は妾の魂の形じゃ。お主が夢の中でも現実の姿を保っているように、妾は己の本質である刀とこの姿以外は取れぬわ。もう少し精神的に成長すれば、『姫桜』大人モードも出来るじゃろ、多分きっとメイビーじゃが」
薄々察していたが、『姫桜』は精神的には未熟らしいな。本人曰く、昔は自我も曖昧だったらしいし。
「しかし!ここは夢の中!物ならある程度再現できるわい!」
「ああ、そう言えば、その服も再現だったな」
元ネタはナデシコが小さい頃に着ていた着物だ。
「という訳で、ヤマト」
「なんだ?」
「補正用下着とパットとやらを、今度詳しく見といてくれぬか?」
「…………元の世界に戻れたら、な」
こんなに元の世界の事を思って気が重くなるなんて、思いもしなかった。
この後、めちゃめちゃ修行した。『姫桜』が忘れる可能性に賭けて。




