130.お味はいかがですか。エルフさん。
「熱いから、よく冷まして召し上がれ」
それぞれに串を刺し、皆の前に並べる。
俺の味見は、先ほど中身を確認したもので済ませる。
うん、いいと思う。二度揚げは手間だが、この衣のサクサク具合には変えられない。有名店、とは行かないまでも、美味しい家庭のからあげだ。材料を準備してくれたネリーには感謝しなければ。
「いいじゃない!久しぶりの味だわ!いい味付けだし、いい揚げ加減よ、ヤマト!」
一口食べたナデシコも自分でやった味付けを自画自賛、そしてこちらに親指を立ててきた。俺もそれに、同じポーズを返す。
「はふはふ…!うん、美味しいね!フルリスちゃんが揉んでくれたお肉かな?お肉によく味が染みてるよ!」
「まぁ、お母様の作ってくれた衣あればこそです」
「みんなのおかげだね!」
「ええ、本当に」
熱さに苦戦していたネリーと、優雅に食べていたフルリス様。こうしていると、仲良し姉妹だ。
「素晴らしい」
聞き慣れない声だった。いや、先ほど聞いた声だ。そう、ちょっと厳しめの目つきのメイドさん。
「まずは香り。ラケルにて最近発明された大豆を使用した『醤油』の香ばしさと、ロニアの香味野菜の香りが鳥のもも身の油に溶け、実に食欲をそそります。
次に食感。二度揚げ、でしたか。これにより肉は柔らかいままに衣が硬質化、歯を入れれば心地よい音と共に衣が割れ、肉が弾力をもって押し返します。堅さと柔らかさの対比は美しくすらある。
無論、味も語らねばならないでしょう。肉の味わいは『醤油』の塩味、鶏肉の旨み、それらを香味野菜の風味が繋げている。
衣は咀嚼の度に、変化をしています。始めは、油で上がられた小麦の軽さ、それらが噛む度に肉汁を吸い味を纏っていく。そう、まさに、真の完成は口の中で行われる!
『からあげ』、大変美味でごさいました……はっ!」
何かに気付いたような声とともに、その詠唱は止まった。
「…それは、どういたしまして」
「でいいのかしら?」
驚きの表情のナデシコと顔を見合わせる、きっと俺も似たような表情だ。いや、……めっちゃ喋るじゃん。
メイドさんの身体は震えている。そして、フルリス様に深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。フルリス陛下、一時でも側仕の任を忘れ、私情を優先させるなど、あってはならないことでした」
私情とは、食レポのことだろうか。しかし、あの長台詞、誰かを思い出すな。
「いいのですよ。ルスィス。むしろ貴女は、堅すぎると思っていたのです。そうですね。この機会に、お二人に自己紹介をしなさい」
「はっ…!」
にこやかなフルリス様に対し、メイドさん、改めルスィスさんはどこまでも堅かった。そして、軍隊を思わせる、早い方向転換で俺達に向き直る。
「改めて、私はルスィス。フルリス陛下には側仕として、そばに置いて頂いています。身の回りの雑務から、身辺警護まで任せて頂いています。業務上、お二人には不躾な視線を送ることもありましたが、不快にさせてしまっていたのなら、大変申し訳ありませんでした」
「別に気にしてないわ。ナデシコよ」
「ご丁寧にどうも。ヤマトです」
鋭い視線だと思ったら、警戒されていたらしい。無理も無い。俺達の旅の経緯など眉唾もいいとこだ。ネリーを始め、エルフ王家の皆さんとよく顔を合わせる風来坊を、護衛が警戒するなという方が無理だろう。
もしかして、この前のパウンドケーキのレシピを聞きに来た時も、何か企んでないか、と思われたのだろうか?悔しそうに見えたのは勘違い?
「ルスィスは料理が趣味なのですよ。この前のクッキーも、ルスィスの作です」
「今までにないレシピの数々。お二人には敵いません。学ばせて頂きます」
あ、違った。本当に悔しがってたみたいだ。逆に今は、まるで一戦を終えたようにすっきりした顔をしている。
ルスィスさんに勝手に脳内バトルを挑まれて、いつの間にか俺達が勝利してたらしい。
「あ、ちなみにラケルのシェーヌくんのお姉さんだよ?」
「「へぇー……えぇ!?」」
ネリーからとんでもない補足が入った。
シェーヌ。ラケルでアーテナイに仕えるエルフ。俺達も世話になったり、シェーヌからの仕事を受けたりした。ここロニアが故郷で、親父さんのアイヒェさんもここに暮らしているらしい。
もっとも、俺達とアイヒェさんとは、軽く顔を合わせただけだが。
そう言えば、シェーヌが会ったら頼ってみろ、なんて言ってたけ。
「って、事はアイヒェさんの娘さん?」
ナデシコも驚きながら確認している。
「父と弟をご存じでしたか。ええ、その通りです。…二人には、最近は会っていませんが…」
少し言い辛そうにしている。家庭の事情だ、深く突っ込んではいけないな。
改めて、顔立ちを見れば、切れ長な目元などに、シェーヌと似た面影がある。身長は、ロイヤル親子以上、ナデシコ以下だ。女性としては平均的だろう。
「私の話はもういいでしょう。これからも、フルリス陛下の側仕として侍りますが、警戒中はあまり話しかけないで頂ければ助かります」
「ルスィスちゃん、かたーい!」
「コルネリア陛下、お戯れを…!」
「か、かたーい…」
「フルリス陛下まで…!?」
分かったのは、姉弟揃って弄られキャラであるらしい事。フルリス様も慣れない言葉使いで弄ってる。
「まぁ、分かったけどさ。調理工程を知って体験しておくことで、こうなんかいい感じに護衛の役に立っちゃったりも、するんじゃない?だから、次、からあげを揚げる係はルスィスちゃんを任命します!」
ナデシコのフリが雑。いや、それより、ちゃん付けで通すのか?
「……なるほど、一理ありますか…」
いや、ねえよ?
余裕が無いのか、それとも揚げてみたかったのか。ともかく、残りの肉は次々揚げられていった。
「ねぇ、フルリスちゃん。この『からあげ』浮いてきたよ?」
「そうですね。引き上げ時かもしれません」
その後も、親子の共同作業もありつつ、順番に皆で揚げていった。
なお、途中で油はねから、親子をかばい、名誉の傷を負った勇敢な側仕の話は、本人の名誉のため、秘するものとする。
とっさに出た声が、意外と可愛らしかった事と、涙目は俺達の記憶にだけ記し、記録には残さないようにしよう。




