126.魔力の量。異世界の菓子折。
「……改めて、おめでとう。…ヤマトくん、ナデシコくん、キミ達は、ワタシの想定を上回った」
俺とナデシコの息が整った後、ユディット先生は改めて声をかけて来た。思わず少しニヤけてしまう。
「……さて、キミ達がこの課題をクリアしたから、という訳では無いが、折角全員揃っているから、ね。…良ければ、これからお茶でもどうだい?」
「はい!是非にお願いしますわ!」
「…凄く乗り気ね、メグのやつ」
「…一瞬、顔に『コネ』と見えた気がします」
メグの素早い反応に、ライリーとイザベラは少し引き気味だ。俺とナデシコも断る理由もないので、その誘いに乗ることにした。
「え?みんなは5分も出来るって言うの!?」
「わたくしはなんとか、でしょうか」
「あたしは余裕ね。よく一人でやってたし」
「わたしは母に習いました」
ユディット研究室の応接間。席に着いた俺達の前には、冷えたお茶。先ほどの魔力鍛錬法の話になり、そこで驚愕の話になった。
「流石にへこむぜ…」
「そうね…」
4分で記録更新と喜んでいたのに…。
「魔力量が違うでしょうが。馬車で牽くような大荷物抱えてる奴が、背嚢背負った旅人と比べて『歩くのが遅い』って言ってるようなものよ。旅人からすれば『むしろなんで動けてんだ』って話よ。……言ってて少しムカついたわ」
「まぁまぁ、比べる対象が少々常識外れなだけですわ」
ライリーからフォロー入り、そのフォローをメグがする。なるほど、納得。そう言えば、先程の課題の最中も、魔力の大小に関わる話を聞いたような気がする。
ちなみに俺とナデシコが常識から外れているのは、もうツッコむ気すら起きない。むしろ、ナデシコはどや顔だ。
「……確かに魔力量は違うが、キミ達の年齢からすれば、魔力量もその制御の精度も、十分上澄みだ。…あまりやっても次の日に響くから、三人は一日に15分以内、二人は10分以内にしておくといい、よ」
そう言えば、俺達にも一日三回の制限が付けられてたな。ネリーも、その回数で止めていた。もし、オーバーワークを続けていたら、記録も伸び悩んでいたのかもしれない。
「皆さーん、お菓子はいかがですか?」
「お菓子ですか!?」
エマ先生が人数分のお皿に『ある物』を乗せてやって来た。それに食いついたのは、イザベラ。
暇さえあれば剣を振るイザベラは、いつもうっすら空腹だ。剣の達人が甘い物をあげよう、と言えば誘拐されそうな危うさだ。いや、そんな状況は無い。
「折角ですが、もう夕食も近いので……あら、甘い香り、ですわね…」
「…嗅いだこと無いわ…香ばしくて……」
「…お菓子ですね」
断ろうとしたメグも、ライリーも気がつけば引き寄せられている。ちなみに最前列はイザベラ。
「パウンドケーキ。小麦粉、バター、砂糖、卵を同じ比率で混ぜて焼いたものよ。というか、まだあったのね」
これは、数日前、俺とナデシコがエマ先生に贈ったものだ。壁破壊の件の謝罪で用意した菓子折とも言う。
砂糖は、ラケルでは少し躊躇するほど高い物だったが、王都ではラケルに比べればお手頃価格だったので購入。
タイマー付のオーブンはないので、この一週間の途中にあった、休暇日を一日使って試行錯誤した大作だ。
「あれ?これ比率を守れば、わざわざ一つの材料1ポンド、454g用意して作らなくてよくね?」
と気付いた時には、力の抜ける思いだった。
ネリーに給料代わりに1/3。残りを研究室に贈った。出来たての味見分の端っこを除く。
ネリーは一口食べるなり、あげた分を持って『エサルカ城』に走った。その日の夕方に、悔しそうな顔をしたお城のメイドさんが来訪して、レシピを聞きに来たのはかなりの珍事だったりする。
「ははは…最初のうちは、おいしく食べてたんですけど…」
「味に飽きたとかか?」
「……ワタシがレシピから、その栄養価を計算したら、エマがあまり食べなくなってしまった。…一日一切れなら問題ないと思うのだが、ね。…量もあるし、皆手伝ってくれるとありがたい」
「納得だわ」
カロリー計算しちゃったわけね。
なお、この間に三人娘の前には、いつの間にかお皿が並んでいる。いや、自分たちで手で取っていっただけなのだが。
「なので、どうぞ召し上がってください」
その言葉を待っていたかのように、祈りを捧げる三人娘。いつもより、少し短い食前の祈りを終えると、みるみるうちにパウンドケーキは削られていった。メグはまだ優雅さを保っているが、ライリー、イザベラの物はすぐに無くなってしまった。
「素晴らしいお味ですわね。とても気に入りましたわ!……これを手土産にすれば…あの案件も…」
「美味しー!なにコレ!ふわふわして、さっくりして、口の中あまーい!」
「お菓子ですぅ!」
砂糖の暴力の前には、いかに優秀な成績を残す三人の才女もご覧の通りらしい。一人、普段の仮面から『なにか』はみ出してるけど、スルーする優しさは持っている。
ナデシコも食べているが、焼きたてほどの感動はないのだろう。皆のようにオーバーリアクションではない。それでもニコニコと食べている。俺も食べよう。
「うん、我ながら、いい味だ」
元をたどれば、謝罪の菓子折なのだが、折角なのでお茶と一緒にいただこう。甘い甘味にお茶の風味がよく合う。おもわず心も解れる。
「「………我ながら?」」
「……ひょっとして、兄上が作ったのですか?」
メグとライリーから鋭い視線がこちらに来て、イザベラが言葉を取り戻していた。
しまった。失言だった。
俺は三人にあっという間に囲まれていた。しかし、年下の美少女に囲まれるという絵面に反して、この状況はパウンドケーキのように甘くない。クソッ、なんて目をしてやがる。
「……ヴェロキラプトルみたいね」
横から見ていたナデシコが一言。いや、ジュラシックな世界のワンシーンじゃねぇよ。
「冷静になれ。…レシピなら渡そう。そう、座って、いい子だ…落ち着いて…」
じりじりと下がりながら、手の平を向けて降参のポーズ。そして、皆席に着いた。
「……そう言えば、このパウンドケーキ、味のバリエーションがあると、言っていたね」
――ガタッ!
「座ってろ!」
結局、レシピとアレンジ案を紙にまとめて提出することが、直近の課題になった。あとで、ナデシコにも手伝ってもらおう。




