124.三つの理解。魔法の属性について。
編入から1週間、学園内で徐々に『若葉組』の名が売れていた。
「ほら、見て若葉組よ」
「ホントだわ」
「ユディト様はいらしゃるのかしら?」
「本当に男子が帯同しているのね…」
「あの先の演習所が今日の午後は貸し切りだったけど、『若葉組』だったみたいね」
今のように集団で歩いていれば噂されるくらいには。もっとも、名前が売れた原因の九割は担任、『七天将星』ユディット先生のネームバリュー。残り九分がもの珍しい男子、俺の存在だろう。そして、残り一分は…。
「じゃあ、近くを通る時は気を付けないといけないわね。あの噂が本当なら」
「そうね。…今日も壁が壊れるのかしら?」
演習所の壁クラッシャーという悪名だった。そう、一目置かれるというより、一歩引かれた若葉組なのだった。
「全く!好きで壁を壊したんじゃないってのに…!」
「落ち着け、ナデシコ。初日振りに壁破壊を達成する気か」
「やったのはヤマトもでしょ!?」
「ごもっともです」
現在地は演習所。影口というには、堂々とした噂話はナデシコの耳にもばっちり届いていたようだ。
編入二日目の放課後、魔法の座学を受けた俺達は、早速エマ先生の監督の下、初のまともな魔法を撃った。
魔力の鍛錬法で学んだ約一割の魔力を込めた俺達の『ストーンバレット』同時発射は、対魔法に強化された壁に大穴を開けた。
エマ先生は修繕の手配や次の日以降の使用者に連絡に翻弄された。俺達は謝ったが、気にしなくていい、と言ってくれた。本当にすまなかったと思ってる。
そして、そのエマ先生の連絡の際に俺達の名前は出なかったが、クラスのことはバッチリ漏れてしまい、見事若葉組、壁クラッシャーの噂が流れることになった。
「ちょっと、いつまでじゃれあってるの?」
「さぁ、お兄様、お姉様。今日はわたくしたちが、指導させていただきますわ」
「普段、体術や剣術でお世話になっていますので、そのお返しです」
「ありがとう。今日はよろしくね」
「よろしく頼む。ありがとな」
今日は、メグ、ライリー、イザベラの頼れる先輩方の指導が入る。
この一週間、午後の時間のうち、何度か俺とナデシコの得意分野を教えている。ライリーはナデシコの体術を吸収する為、イザベラは俺から剣術を学ぶため。メグはその様子を見学しながら、身体を動かしたり、素振りをやっていた。
ちなみに、イザベラは毎日指導を求めてくるが、そこは上手く躱してきた。俺達も一週間、いくつかやることもあったのだ。
「では、座学の復習からですわ。魔法を使用する際の3つ理解、お姉様、お答えくださいな」
「はい!『構造への理解』『対象への理解』そして、『魔法そのものへの理解』ね!」
「お見事ですわ」
これは授業で習ったことだが、その際にはこんな例え話が用いられた。
ある日、全市民が同程度の魔法の使い手になった。
一つの家庭から使い込まれた鍋を持ってきた。何人かの市民が試しにそれを魔法で壊そうとしが、壊れない。壊すには若干威力が足りないようだ。さて、この鍋を壊しうるのはどんな人か?
答えは、鍋職人、その家庭の人間、そして元々魔法使いだったもの。
鍋職人は、鍋の構造を理解している。構造的脆弱性が分かるので壊せる。
その家庭の人間は、その鍋を理解している。どこの部分が傷んでいたり、すり減っているのか分かるので壊せる。
そして、魔法使い。どのように魔法を使えばいいか真に理解している魔法使いならば、同じ魔法を使っても高威力が出せる。とのことらしい。
構造への理解は知識を付けることで補える。
対象への理解は観察力を磨くことで補える。
しかし、魔法への理解は、普段使う中でしか補えない。
魔法を使う、その際には魔法そのものを理解せよ、との教えだそうだ。
「では、兄上、わたしからも問題をだしますね。魔力の密度による属性の変化をお答えください」
「ああ。凝縮する『ストーン』流体の『アクア』拡散させる『ウインド』だ」
「じゃ、兄貴、温度変化は分かるかしら?」
「高温の『ファイア』、低温の『アイス』だろ?」
「流石です、兄上」
「正解よ」
そもそも属性とは、魔法を使用する際の魔力の性質を決定するものだ。
付与で、斬ることに特化させたり、耐久に特化させたりした『特製付与』に似ている。
こちらの世界では、この変化が詳しくイメージ出来ず、つまずくものも多いという。しかし、俺達の世界の理科を理解していれば、余裕だった。
即ち、『ストーン』は固体、『アクア』は液体、『ウインド』は気体だ。そして、『ファイア』と『アイス』は熱運動の違いだ。
他にも、これらを組み合わせたり、個人で独自の属性を開発する者もいるという。
アーテナイの『アース・ギガント』、ユディット先生の『エレメント・イレイズ』がこれに該当するだろう。
「さて、復習をしていれば、本日の監督役をお願いしたユディット先生がいらっしゃる時間になると思いましたが…」
「……もう、来ているよ」
「きゃ!?」
いつの間にか、背後に居たユディット先生にメグは小さな悲鳴を上げた。
「……おや、驚かせてすまない。…先ほどは、いい振り返りだった、よ。…ああ、読み物をしているが、魔力で状況を把握しているから、心配無用さ。…質問があれば、聞きたまえ」
そして、椅子まで取り出し本を読むマイペースっぷりだ。しかし、質問をすればしっかり答えてくれるのはこの一週間で知っている。
監督役も来たところで、いよいよ魔法の練習が始まる。
そして、それが終われば、もう一つイベントが待っている。今日は俺とナデシコの課題の期日でもあるのだ。




