123.競う個性。芽吹き始めた若葉達。
翌日、つまり学園生活二日目。ロニアの朝は朝霧と共に明ける。奇妙な同居生活だが、朝の家事は三人体勢の為かすぐに終わった。
ネリーは『エサルカ城』に日中は戻るそうだ。フルリス様には怒られるかも知れないが、自己責任、もしくはユディット先生のせいである、ということにならないだろうか。
「いってらっしゃーい」
「「いってきます」」
見送られる、というのは意外と気分が良かった。なんとなく、見た目も中身も似ても似つかないが、故郷の家族を思い出す。
湿っぽくなってしまうのは、きっと朝露のせいだろう。ナデシコと並んで風を切って歩けば、そんな気分は次第に晴れた。
「おはよう」
「おはよ!みんな早いのね!」
少し早めに出たつもりだったが、すでに俺達以外の全員が集合していた。と言っても三人なのだが。
「おはよう。二人とも」
「まぁ、ライリー?違うのではなくて?」
「…おはよう、兄貴と姉貴」
「はい。上手に出来ましたわね。改めて、おはようごさいますわ、お兄様、お姉様」
「相変わらずそつのない奴…」
最初に挨拶をしたのは、ライリーとメグ。なんとなくだが、メグとライリーの距離感が近いような?
「昨日は、メグが『わたくし達も呼び捨てで呼び合いたい』と申し出がありました。
それから、三人でユディット先生と兄上達の間には、なにか事情があるだろうと結論が出しました。
無理に聞くつもりはありません。ですが、何かお手伝いできることがあれば、力になろうとわたしたち三人は考えています。
おはようごさいます、兄上、姉上」
「なるほど、ありがたいことだけど…」
「…それ、私達が聞いてよかったのかしら?」
こういうのって、本人に伝えるものかな?何気にメグの可愛いところも入ってたけど。
「「イザベラ!」」
ちょっと素直過ぎるイザベラは、ライリーとメグに教室の隅に連行されて行った。ちなみにメグの顔は少し赤い。いい青春してるな、中学生。そして、ありがとな、クラスメイト。
「おはようございます。皆さん」
「……やぁ、皆、おはよう、揃っているようで何よりだ、よ」
それから間もなく、エマ先生とユディット先生がやって来た。席に着き、挨拶を終えるとエマ先生が生徒それぞれに小さな紙を配った。
「……では、今日の講義、の前に昨日の課題について、だ。…今からそれぞれ、手元の紙に考えてきたクラスの名前を書きたまえ。…それを匿名で発表し、多数決で決めよう。…ワタシとエマもそれぞれ1票持っている。…合計7票だね」
多数決か。教師陣が入るのは、自分のにしか投票しなかった時の為だろうか。
作業自体はすぐに終わった。紙を集めたのもエマ先生。そのままユディット先生に渡した。
「……では、読み上げよう。エマ、板書を頼むよ」
教室の黒板、それは俺達の知っている深緑の物では無く、本当に黒い。世界は違っても共通するものもあれば、微妙に違う物もある。魔法学園でも、ひとりでに板書は行われないらしい。
「…全緑疾走」
付き合いで分かるナデシコだな。体育祭のストローガンのようだ。
しかし、悲しいことに異世界に漢字は無いので、うまく伝わっていない。皆、首をひねってるのがいい証拠だ。そして、ナデシコもその反応に釈然としない様子だ。
「…剣の道」
イザベラだな。魔法学園だって言ってるだろ。
「…最強クラス」
ライリーか。こういうセンス嫌いじゃない。
「…共存と繁栄を導く賢者の子ら」
メグだ。校歌の歌詞みたいだ。
ちなみに中等部生の皆は、自分の考えたクラス名が読まれるときに、少し得意げになっているので分かった。匿名性どこ行った。
「…世界樹の若葉」
俺である。なんとなく、昨日の世界樹から落ちてきた若葉を思い出したのと、俺達の世界の初心者マークから着想を得たネーミングだ。うん、やはり俺のがいいと思う。
その後、すぐに投票に移った。結果は、
0票…全緑疾走、
1票…剣の道、最強クラス、
2票…共存と繁栄を導く賢者の子ら、
3票…世界樹の若葉。
内訳は、中等部生は自分の物に投票。エマ先生がメグの案に一票、残りの俺とナデシコとユディット先生。ナデシコが俺に入れるのは意外だった。
「……では、これよりこの特別クラスは、『世界樹の若葉』と呼称しよう」
「…本当にこれで決定ですの?」
「どうしたのよ、メグ」
「このクラス名もわたしの考えた名に次ぐ、いいものだと思いますが」
声を上げたのは、メグ。それはライリーやイザベラも意外だったようで、疑問を投げた。
「それは…その…」
「メグさん、私から解説しますね」
言い淀んだメグに助け船を出したのはエマ先生。
「『世界樹の若葉』という言葉には、いずれ大きくなる、増えていく、といった意味があり、幸先の良い始まりを意味します」
なんだ、いい意味なのか、よかった。じゃあ、なんでメグは…。
「転じてその実物には、古くから続く貴族の家にとって、プロポーズの際に贈るものでもありますね。それも……子だくさんの家庭を作ろう、という意味で」
思った以上にとんでもなかった。
女性陣、ライリー、イザベラ、ナデシコの眉が一斉に潜められた。
「……ちなみに広めたのは、ワタシの母上だ」
ネリーかよ!だから、あの時意味深に笑ってたのか!?名も知らぬエルフさん慌てるはずだよ!
付け加えられた補足に昨日、俺とナデシコの元に葉が落ちてきた時のことを思い出していた。もう顔を覆いたい。今からでも投票先を変更は出来ないだろうか。
「…言葉として、ワタシは好きだ。…今のキミ達にもよく似合っていると思う。…しかし、照れるのも分かる、か」
俺達からすると、クラス名が『12本のバラ』、みたいなものか。
「…では、通称は『若葉組』としようか。…いいかな?」
それならば、といった感じでメグを始めとする女性陣も納得顔で頷いている。俺は一層大きく頷いている。初心者クラスみたいだが、子だくさんよりずっといい。
「…それでは、『若葉組』諸君。キミ達の将来が、かの世界樹のように雄大であるように、ワタシはほんの少しの手助けをしよう」
教壇から風が吹いたようだった。優しく柔らかい、春の風のような穏やかで包まれた感覚だった。
「……では、授業を始める。…ある意味、今日が初日なのでね。お手柔らかに頼む、よ」
そんな冗談と共に、俺達、『若葉組』の授業は始まった。
次節、学園編、『若葉の協奏曲』開始します。




