122.夜更かし厳禁。課題をこなす。
「うん!まだまだこれからだね。頑張ろー」
「「お、おー」」
あの後、思わぬ家庭教師の指導の下、なんとか3回目には1分まで記録を伸ばした。お手本になったネリーの淀みの無い魔力の集約は、まだ俺達が荒削りだと分からせてくれた。背にはじっとりと汗をかいた。
「じゃ、いってくるな」
「全く律儀ね。そこまで気にしなくていいのに」
「なんなら三人で入っちゃう?」
「それはない」
俺は公衆浴場まで走った。やはり魔力より体力を使う方が楽だ。そして、帰る頃にはすっかり月が昇っていた。知らず、長湯になっていたようだ。
「おかえり、ヤマト」
「ああ、ただいま、ナデシコ」
俺を待っていたらしいナデシコに出迎えられた。寝間着に着替えて、食卓で暖かい白湯を飲んでいた。対面の椅子に腰掛ける。首にはタオルを残したままだ。俺にもついでくれたので礼を言って、受け取った。
「ネリーは?」
「今は部屋でぐっすりなんじゃない?色々質問攻めにされたわ」
この世界の夜は早い。体感8時頃には町は寝静まる、公衆浴場も営業時間ギリギリだった。こちらに来て1ヶ月程になるが、未だに10時頃に就寝する俺達は立派な夜更かし組だった。
「へぇ、何を話したんだ。」
「ひ・み・つ」
そう言うナデシコは、どこか楽しそうだった。ガールズトークというやつか。年の差は10倍は軽く越えるが、女の子はいつまでもガールらしい。
「ねぇ、そっち行っていい?」
「ああ。いいけど…って、おいおい…」
返事をしてすぐ、ナデシコは俺の大腿部に座った。お互いに、落ちないように背に手を回す。ナデシコからは、いつもと違う香りがした。
「なによ?」
「…いや、なんでもない」
何気なく髪を撫でる。身体が預けられた、ナデシコの体重をよりはっきりと感じた気がした。
「家風呂。なかなか良かったわよ。ま、アーテナイの温泉には負けるけどね」
「比べる対象が悪すぎるだろ」
ラケルでは、アーテナイの家の温泉に招かれたことがある。お互い水着を着ていたが、その時に…いや、ダメだ。この密着状態で思い出すのは大変よろしくない。
「でも、石鹸。これは、この世界で一番かも。公衆浴場の石鹸とは別物ね。高級品かしら?」
「ユディット先生の実験品かもな」
「怖い話しないでよ…」
香りの正体が分かった。これまで同じ公衆浴場で同じ石鹸を使って居たが、今日は違う。どこか花の香りが混じっていた。髪のつやもいい気がする。購入出来る物か聞いてみよう。
その後も、今日の出来事や年下のクラスメイトの事を話した。
「そう言えば、イザベラにかなり懐かれてたわね」
「あれは自分より上手いプレイヤーに会ったゲーマーって感じだろ?」
「…それもそうね」
ナデシコは納得してくれた。少し、罪悪感を感じる。
イザベラの発言、いっそ勘違いであれば楽なのだろうが、妙に耳に残ってしまっていた。
だとしても、ナデシコに話すのは躊躇われる。抱えていこう。そう決めた。
「それに誰に懐かれようが、俺の一番は変わねぇよ」
「……バカね。そこは一番が誰なのか、分かるように名前を言いなさいよ。…ヤマト」
「そうだな。…ナデシコ」
少し顔を赤くしたナデシコに、より強く引き寄せられた。同じだけの力を返す。しばらくそのままでいた。
しかし、ナデシコはいきなり俺の首のタオル取ると、ブーメランのように投げた。
「そこッ!」
「あいた!」
ペッし、っと間抜けな音がして、そこからは、ネリーが現れた。いや、いつのまに!?
「うぅ…エルフ秘伝の姿隠しの術が…」
「見破ってないわ。ただ、なんとなく何か動いた気がして、やっただけよ」
ナデシコの直感にその秘伝は及ばなかったらしい。ニュータイプか。ちなみの俺は全然気付いてなかった。
すでに俺から降りたナデシコは、ネリーの前に立ち塞がる。
「さて、どうしてやろうかしら?」
「わ、わたし今来たとこだよ?ちょっと喉が渇いたから来ただけ…」
「姿を消してか?」
「二人が寝てたら悪いかなーって、姿隠しって音も消せるんだよ?」
証言に矛盾はない。しかし、どちらの発言も目を反らしながらだから信憑性はない。
「……分かったわ。信じましょう。その代わり、他言無用よ。……私も場所を考えないでやっちゃたし…」
「うん!…ちなみにエルフの秘伝には避妊薬も」
「言わせねぇよ!」
結局、水を一杯飲んだ後、ネリーはナデシコによって客間に担ぎ込まれた。
少し目が冴えた俺は、あてがわれた部屋で日報に野球のルールを書きながら、なかなか来ない眠気が来るのを待った。
「……そう言えば、特別クラスの新名称を考える、って課題もあったな…」
学園で、ロニアで見た物を思い返す。印象的だったものは数あれど、クラスの名前となると…。
「……ああ、そう言えば、丁度いいのがある」
これも一つの現代知識の利用だろうか?
明日の事を思っていると眠気が来た。ベッドに横になる。真新しい寝具は、なんだかんだ忙しかった俺を受け止め、眠りに誘った。




