119.後悔しないために公開する。出来る事の確認。
現在、ユディット研究室の屋上。屋上には物が無く、何かを壊す心配はないようだ。この場には、4人、俺とナデシコと教師陣。そこで俺達の『切り札』を見せる事になった。
「……いつでもいい、始めてくれたまえ」
「分かったわ。手順は、めちゃくちゃ気合いを入れる。以上よ」
「そのために、魔力の波長を合わせて…っと」
ナデシコと手のひらを重ね、魔力の波長を合わせる。先ほど魔力を内と外で捉えたからだろうか、はっきりと使える魔力が増えていると分かる。そう言えば、これにも名前がないな。同調?共鳴?
しかし、この行為も前座だ。
「す、すごいです。こんな瞬時に魔力の波長を合わせられるなんて…」
「……元々似通った、二人だからこその芸当、だね。…しかし、続きがあるようだ」
ナデシコと手を離す。ナデシコは力を込めるように両手の平を握り、俺は腰の日本刀『姫桜』へ手を伸ばし、その柄を握る。
そこから必要なのは、意志。今まで使った時には、助ける為、というお題目があった。しかし、今、それはない。
だから、これからも使いこなす為に、力を引き出す。あえて言うなら、これからの俺達を助けるため。
『姫桜』から手応えが返って来たような感覚があった。
それに返答するように、引き抜く。全身に力が満ち、視界の端で桜色が揺らめく。
そして隣で、白いツバサが舞う。ナデシコもすでに魔力のツバサを展開している。
「……想像以上だ」
「誰も想像出来ませんよ、きっと女神様でも…」
すでにユディット先生とエマ先生には、俺達が変わっている事が見えているだろう。
俺の髪は桜色に染まり、ナデシコの髪は白、そして、その背にはツバサ。
「……ヘヘ、久しぶりに外に出られた。この小娘は意思が強すぎて困るぜ」
その言葉に、ユディット先生とエマ先生は懐から即座に、杖を取り出しナデシコに向ける。
「ナデシコ、シャレになってない。ほら、先生達、構えちゃったじゃん」
「ごめんなさい。冗談です。許して…」
ナデシコは上半身を倒して頭を下げる。ツバサも追従するので、一歩避けなきゃいけなかった。先生達も嘆息と共に、構えを解いた。
「……中身は変わっていないようで安心、いやある意味残念なまま…なんでもない」
「もう!変な冗談は禁止です!」
そう、この状態になっても中身、性格に影響はない。俺達は俺達のままなのだ。
「……さて、いくつか質問、だ。…どのくらい、その状態を維持できる?」
「試したことないわね。ただ、続けただけ、その後に反動みたいに疲れがくるわ」
「始めての時は倒れたけど、意識ははっきりしてたな」
「……魔力の使用は精神的負荷の筈だが、肉体的負荷も一緒に……強化の系統に…いや…」
ユディット先生は質問の後に、なにやら考え込んでしまった。
「じゃあ、私からも。…その、ナデシコさん、もしかして飛べたりします?」
「もっちろん!飾りじゃ無いのよ、コレ!ちょっと飛んでみるわね」
「目立ちすぎないようにな?」
「はーい」
そう言うと、ナデシコは膝を曲げ大きくジャンプ。その勢いのまま、数メートル上空を旋回したり、その場で滞空したりしている。
「……自分を一つの魔法と認識して、その軌道を操作…いや、もっと単純に魔法にぶら下がった状態……」
「まるで絵本の中、ですね。目を疑いますが、現に起っている……」
「ま、ざっとこんなもんよ」
「相変わらず、物理法則もあったもんじゃねぇな」
「でしょ?」
ナデシコは胸を張った。この飛行能力には何度か世話になっているし、便利だ。もし俺だと怖がってナデシコのように使いこなせない気がする。
「……ヤマトくんは、剣を抜いたが、何か関係があるのか、な?…見たところ、ごく自然に付与の状態になっているが…」
「ああ、何でか分からないが、俺はこの刀、『姫桜』が無いとこの状態にはなれない」
「髪の色も二人で違いますね。ヤマトくんの背中はそのままですけど、飛べたりするんですか?」
「いや、飛べないな。出来るのは……この刀を遠くへ届かせることくらいか?」
「……武器射程の延長?…それとも、カタナとやらから魔法を放つことが出来るのか、な?」
「ヤマト、見せた方が早いんじゃない?ユディット先生、近くの木で斬っても困らない所ない?」
「……枝なら、どこでも構わない、よ」
「そうか。じゃ…」
両手で、『姫桜』をしっかり握る。どこまで届くかは、なんとなく分かる。辺りの木を見回すと、鳥にでもぶつかったのだろうか、枝が半ばから折れた枝が見つかった。
彼我の距離、20m程、間に遮蔽物、無し。十分だろう。
「―――桜然閃」
一閃、『姫桜』振る。ほぼ同時に先ほどの枝を裁ち切られ、地面に落ちていく。もう一度位、当てられそうだ。
「二連!」
空中で落ちる枝をもう半分にする。地面に落ちた枝は二本、枝が半ばから折れた部分と、真っ直ぐ伸びた部分。
「やるじゃない。折れてたから、空中で一定の軌道じゃなかったのに、追撃を当てるなんて」
「……狙いは正確だ、ね。…見たところ、魔法にも分類出来ないような攻撃だ」
「まぁな」
結果を確認して、納刀。胸を張ったナデシコの気持ちも理解出来る。褒められるのは気分がいいものだ。
「魔法でいいような………はっ!ごめんなさい!つい!」
エマ先生の、何気ない一言が、俺をきずつけた。




